日本と台湾の選挙を徹底比較 :浮き彫りになった「七不思議」(上) 林 翠儀

日本と台湾の選挙を徹底比較 :浮き彫りになった「七不思議」(上) 林 翠儀

 昨年の日本では衆議院総選挙があり、今年はすでに市区町村長や都道府県知事、地方議会議員を選ぶ統一地方選挙が始まっており、7月には参議院選挙も控えています。台湾も今年の11月に統一地方選挙が行われ、2年後の2024年には総統選挙と立法委員のダブル選挙が行われます。

 民主主義国家にとって選挙は欠かせないシステム。台湾の「自由時報」東京特派員の林翠儀さんが、日本と台湾の選挙を比較するとても興味深いレポートを発表しています。上編と下編の2つに分けて発表されていますので、本誌でも2つに分けてご紹介します。

 ちなみに、2013年10月14日、韓国の仁川市で世界各国の選挙関連情報・知識・経験の交流を活性化させ、開発途上国の選挙を支援することを目的とする国際機構「世界選挙機関協議会」(A−WEB:Association of World Election Bodies)の創立総会が開催され、台湾は「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」でも「中華民国」でもなく「台湾」という名称で創設メンバーとして加盟しています。

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日本と台湾の選挙を徹底比較 : 浮き彫りになった「七不思議」(上) 林 翠儀【nippon.com:2022年3月20日】https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g02051/?cx_recs_click=true

 2021年、筆者は初めて日本の衆議院議員選挙を経験し、日本と台湾の選挙における大きな違いを目の当たりにした。本稿ではその違いを整理し、「日台選挙七不思議」と題して紹介したい。

◆日台選挙七不思議(1):「庶民感」と「親近感」の表現性

 「民主主義」は今日の台湾が国際社会へアピールする最大のポイントであり、同時に世界が中国による武力統一の危機を注視する要因の一つでもある。台湾の市民は政治への関心が高いことで知られている。まだ民主化して日が浅いからかもしれないが、選挙の投票率は平均で7割を超える。

 日本の公職選挙法に相当する台湾の「公職人員選挙罷免法」は、日本ほど規制は厳しくない。そのため、長年にわたって廟会(お祭り)のようなにぎやかな選挙文化が発展してきた。たとえ激しい選挙戦であっても、各陣営の候補者は民主精神を遵守し、平和裏に幕を閉じる。

 それに対し日本の選挙は「地味」で、有権者の関心も比較的低い。各候補者の選挙運動が極めて控えめなのは、恐らく厳しい選挙法によるものだろう。近年、多くの日本の識者とメディアが台湾の選挙戦を視察にくるが、騒がしさに驚くそうだ。

◆日本:ビールケースと白手袋

 ビールケースと白手袋は日本の選挙の基本装備だ。駅前で候補者がビールケースの上に立って演説しながら、駅に向かう市民に手を振るのはおなじみの光景。ビールケースの高さは約30センチ。聴衆の目に候補者の顔がはっきり見えるようになり、数十人規模の街頭演説に適している。庶民的で親近感を持ってもらおうという狙いなのか、首相や閣僚クラスでも、選挙になるとビールケースの上から政策を語る。

 欧米では街頭演説を「ソープボックス・スピーチ」と呼び、起源は19世紀英国ロンドンのハイド・パークにあるという。公園の一角には、木製の石けん箱があり、誰もがその箱の上に立ってスピーチすることができた。石けん箱は民主主義と言論の自由の象徴なのだ。米国では木の切り株を演説代にしてスピーチをした逸話から、街頭演説を「切り株スピーチ」と呼ぶこともある。

 白手袋は、街頭演説や選挙カーからの呼び掛けで手を振った時に目立つ上に、清潔感と爽やかさのイメージがある。握手の際には、爪で支持者の手を傷つけないようにとの実用性も兼ねている。

◆台湾:投票の呼びかけは市場とパレードで

 台湾でも庶民感と親近感の重要で、最も多く見受けられるのは、伝統的な市場での投票の呼び掛けと車両パレードだ。

 台湾の二大都市である台北市と高雄市はメトロ網が発達しているものの、公共交通機関への依存度は日本ほど高くない。その中で人の往来が最も多いのが、各地域に点在する伝統的な市場だ。伝統市場は新鮮な果物や肉、魚類、生活用品を扱う場であると同時に、市民交流の場でもある。

 特に、市場の店主は議論好きで、さながら、市井のオピニオンリーダーだ。市場で投票を呼び掛けるのは、支持拡大だけでなく、世論調査的な意味合いもある。有権者と握手したり、チラシを配ったりしたときの反応で、その地域でのおおよその支持率を読み取っているのである。

 日本では認められていないが、台湾では、投票前には車両パレードを選挙後のお礼のあいさつが恒例だ。パレードは、車に候補者と支持者が乗り込み絶叫する。以前は銅鑼(どら)や爆竹を使う候補者もいて、にぎやかさは神様の巡行パレードにも劣らない。現在は環境への配慮から、爆竹を使用する候補者は大幅に減少した。若手候補者の中には文化イベントを開催するなど、クリエイティブな活動へと変化している。

◆日台選挙七不思議(2):公平性を担保する「選挙7つ道具」

 台湾では政治家が自身の名前を印字したベストを着てさまざまな場所に現れるが、日本の公職選挙法は、選挙期間を除いて、名前を書いた「たすき」や「のぼり」を使用は禁止だ。そこで、1990年代初めに、ある候補者が「本人」とだけ書かれた「たすき」を使用し始めた。その後、「本人たすき」は選挙期間以外の政治活動で多用されている。再選を目指す現職候補者の中には、「無名の新人」、すなわち初心に戻ったことをアピールするために、あえて「本人たすき」を使用する人もいるという。

 議院内閣制の日本では、衆議院は国会でいつでも内閣不信任決議案を提出することができる。また、内閣は衆議院の解散権を持ち、任意のタイミングで解散することが可能だ。つまり、日本の衆議院議員は常に選挙に臨めるよう準備しておかなければならない。選挙運動には資金が必要だ。日本では候補者の財力の差が選挙の公正公平性に影響しないよう、各地の選挙管理委員会が候補者に「選挙7つ道具」を無料で交付している。また、候補者が選挙期間中に使用できる物資や動員数も、規定内に収める必要がある。

 「選挙7つ道具」は、選挙運動の許可証のようなもので、【選挙事務所の標札 / 街頭演説用標旗 / 街頭演説用腕章 / 選挙運動用自動車・船舶表示板 / 選挙運動用拡声機表示板 / 自動車・船舶乗車船用腕章 / 個人演説会用立札】を指す。交付される量は選挙の種類によって異なる。選挙法では、選挙期間中、候補者はこれらの許可証を提示しなければならないと定められている。

 また、選挙事務所は、原則として1候補者に付き1カ所と定められているが、1日1回場所を変えることはできる。選挙運動用自動車、もしくは船舶は1台(1艘)、選挙運動員用の腕章は最大15枚だ。

 一方、台湾では選挙運動にかかる経費の総額を制限し、公正公平性を担保しているが、選挙事務所や選挙カー、選挙運動員の数は制限していない。

 台湾では選挙事務所と選挙カーに制限がないため、数年前には「ミツバチ部隊」と呼ばれる選挙バイクが住宅地の路地に入り込み、候補者のスローガンやテーマソングを大音量で流していた。効果はあったが、昼寝中の子供を起こしてしまうなど、騒音問題を引き起こしてしまった。

◆日台選挙七不思議(3):比較にならない聴衆の数

 台湾の選挙戦で最も注目のイベントは「投票前夜イベント」である。繁華街の大通り、駅前広場、スタジアムなどで開催され、候補者らが気勢を競い合う。数万から数十万人集まることもあり、総統選のような大型選挙ではテレビやネット中継で台湾全土に向けて放送する。

 通常、パフォーマーによる前座があり、場が温まると主役の候補者がにぎやかな音楽と舞台演出で「大入場」する。候補者だけでなく、応援の政治家、友人、芸能人までがステージに上がる。こうしてイベントのクライマックスが作り出されるのだ。ステージと聴衆間の熱いやり取りは、さながら「政治カーニバル」といったところ。

◆食べて民主主義を応援する「デモクラシー・ソーセージ」

 台湾の「デモクラシー・ソーセージ(民主香腸)」にも触れたい。かつて国民党の一党独裁体制の台湾では、反対勢力を「党外」と呼んでいた。その「党外」民主化運動で最も有名なのがデモクラシー・ソーセージと呼ばれるソーセージ屋台だ。屋台は往々にして人の多い場所に現れる。集会の自由がなかったため、いつ警察に解散・逮捕されるか分からない。殺気立った雰囲気の中で、おいしそうなソーセージの香りが漂う。現代の投票前夜イベントでも似たような屋台が現れる。実際にこの台湾の選挙を視察した日本の識者やメディアは、皆、台湾の軽食文化の普及に驚いていた。

 台湾の政治活動は選挙法と集会デモ法によって、選挙期間と非選挙期間に分けて規定されている。しかし、適用法が異なるだけで差はほとんどない。そのため、選挙期間が最長28日の総統選でも、最短5日の「里長(日本の町内会長に相当)」選挙でも、多くの候補者は政党から指名された段階で、選挙運動モードに入るのだ。

 日本では、「選挙期間」と「非選挙期間」がより厳密に分けられている。非選挙期間の街頭演説では、名前入りのたすきやのぼりは認められていない。選挙期間中も名前入りたすきやベストを着用できるのは候補者本人だけで、選挙カーでの名前の連呼や街頭演説は午前8時から午後8時までに限定されている。

 日本の候補者演説は「個人演説」と「街頭演説」の2種類に分けられる。街頭演説が駅前でよく行われるのは、公共施設、病院、バスの車内や鉄道地内、歩きながらの演説は禁じられているためだ。駅前広場で候補者や選挙運動員はビールケースや選挙カーの上で演説するが、広場の周りはバスやタクシーも通るため、聴衆は道路に設けられた安全島や歩道橋から演説を聞く。

 通常、聴衆の数は100から数千人程度。街頭演説で有名なのは秋葉原での安倍晋三元首相による恒例の「最後の訴え」と、池袋の小池百合子東京都知事による最終日の演説だろう。1万人を超える聴衆が集まり話題となったが、台湾では1万人規模の演説は珍しくない。

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