日本と台湾の絆─日本統治時代から現代まで (2)   李登輝元総統

時局心話會代表の山本善心氏が國會新聞社編集次長の宇田川敬介氏とともに去る3月15
日、台湾で李登輝元総統にインタビューした。李元総統は今回の総統選を総括しながら、
中国依存の台湾の現状や馬英九政権の未来について、また日本に対しては東日本大震災へ
のエールを送りつつリーダー論などを展開されたという。

 山本善心氏が毎週木曜日に発表している「山本善心の週刊木曜コラム」で、そのインタ
ビューを掲載している。第1回が4月12日、第2回が4月19日に掲載され、すでに第1回は紹介
した。第3回は4月26日掲載の予定だという。ここに、その第2回を転載してご紹介したい。

 なお、「週刊木曜コラム」には総タイトルとして「李登輝台湾元総統の単独インタビュ
ー」とあり、小見出しも付されていないため、本誌ではインタビューのタイトルを「日本
と台湾の絆─日本統治時代から現代まで」とし、また、読みやすさを考慮し、小見出しを
付し、一部の漢字を平仮名に開いたり適宜改行したことをお断りする。


李登輝台湾元総統の単独インタビュー(2)

                           時局心話會 代表 山本 善心

【山本善心の週刊木曜コラム:2012年4月19日 第374号】

◆中国のバブルはまだ崩壊しない

宇田川敬介:日本では「中国バブルが崩壊する」という見方もあります。北京ではオフィ
スビル用の50%が空室となり、また電気のつかないマンションがあったり等、不動産価格
もかなり下落していると聞いています。

 先ほど李元総統が今後、中国は8%の経済成長が維持できないと言われましたが、実際に
中国のバブルが崩壊するかどうかは別として、インフレ、重税、失業、生活苦による人民
の社会不安が懸念されています。また、年間10万件を越える暴動が中国国内で起きていま
す。 今後の中国経済について李元総統のお考えをお聞かせ戴きたいと思います。

李登輝:現在中国では、熱さと冷たさという2つの状態が同時に進行しています。例えば、
株がずっと落ちています。恐らく昨年の4月から4,000ポイントから2,000ポイントに落ちた
きり、上がっていません。一方で、投機だとか家を建てることとか、土地売買だとかの非
常に強い熱が出て来ています。

 一方において冷たいが、一方では熱いという、このような現象を人間の身体で例えれ
ば、これはどんな病気なのか誰にも分かりません。

 我々はこれを「バブル」といって、中国経済が間もなく崩壊するのではないかと心配し
ています。しかし、私はこの見方に対して少し早すぎるんじゃないかと思っています。と
いうのは、中国自体がこういう状態にどう対応すればよいのか今悩んでいます。つまり、
中国自体、輸出中心の産業政策から国内の需要に即した産業構造に切り替えて行く努力を
しています。もっとも、これ自体、非常に難しいことです。

 中国は、これまでほとんど外国の資本と技術によって、国内の過剰労働者、安い労働力
を使って、外国に物を輸出していました。このような状態から、いきなり内需に方向転換
するには、かなり技術的に難しい問題が残ります。

 内需を中心とした経済に持って行くには、なにより自分なりの技術を持たなくてはいけ
ません。何千名と云う専門家を動員し、こういう問題に力を入れてやろうとしております
けれども、なかなか時間がかかるものです。

 今後の2、3年は展開を静かに観察する必要があります。同時に、日本も台湾も中国に対
する投資の方向は、いままでどおりでは継続できないということを知らなければなりませ
ん。

◆中国が大規模な「侵略」を行えない理由

宇田川敬介:これまで中国の胡錦濤主席は経済問題に関してかなりの努力をされたという
感じは受けています。中国では何分にも軍がどんどん軍拡をして、去年は8兆7000億円の伸
長ぶりです。これがさらに来年も再来年も続いて行くということになれば中国の経済は、
かつてのソビエト連邦のような状態になって、頭打ちが来ると考えられます。

 一方では、いま閣下が仰ったような経済の変革を乗り切ることができるのか。このいく
つかの問題を抱えている中で、中国は日台にとりましても今後ますます脅威になると思わ
れますが、特に軍拡の問題なんかはどのようにお考えでしょうか。

李登輝:アメリカは西太平洋における日本、台湾、コリア、南海の諸地域における安全保
障という問題に大変注意を払ってきています。

 これに対して、中国が莫大な軍事費用を費やして、アメリカに対抗できるかといえば、
これは不可能でしょう。そういうことを分かりつつも、何とかして南シナ海を占領しよう
としており、次は尖閣列島に漁船を入れて、琉球(沖縄)に対する圧力を加えようとして
います。事実上このような状態はもう続かないんじゃないかと思います。

 というのは、クリントン国務長官が「尖閣列島は、日米安保条約の範囲内である」とは
っきり宣言しています。要するに、尖閣列島は日本の領土だと言っているのです。こうい
うことになりますと、中国としてははっきりとアメリカの肚が見えて来て、どうにもなら
ない。

 例えば北朝鮮問題でも、アメリカは韓国との演習の際、一番大きな航空母艦を黄海に派
遣して、中国を牽制しました。その結果、中国は黙ってしまいましたね。

 その後、習近平さんが、アメリカを訪れ、ホワイトハウスでいろんなことを言いまし
た。これは中国人特有の策略ではあるものの、「中国はアメリカと対抗して、何か戦争を
起こすとか、そういうことは決してない」という態度を示したわけです。

 だから、軍事力を使っていろんなところで嫌がらせをやったりするかもしれませんが、
大規模な侵略にはならないだろうと私は思います。

◆日本が一番気をつけなければならない問題

 そこで、日本が一番気をつけなければならない問題は日本自身の態度です。例えば尖閣
列島の問題が起きた時に、日本政府がはっきりした態度をとらない場合。第二に日本の自
衛隊は憲法によって軍隊じゃないので大規模な紛争が起きても国を守るという指令を出し
て処理をすることができません。これは憲法第9条の問題で、憲法改正というのは日本にと
ってはいかにして自国を守るかという大事な問題だと思います。まあ、安全保障上アメリ
カは、従来の考えどおりに行動すると思いますし、台湾関係法があるかぎり、台湾海峡も
危ない問題が起こることはないんじゃないかと思います。

 いずれにせよ、国が黙ってしまったり堕落した態度をとらないよう、国と国との関係を
はっきり作っていくことが大切じゃないかと私は思います。

◆日本経済再生の秘策

山本善心:日本は次の総選挙で、民主党が現有議席の3分の1近くまで減らすだろうとの予
測があります。自民党も議席は増えないんじゃないか。その減った分どこに行くかという
と第三極、橋下大阪市長を中心とする「維新の会」との見方があります。政局の混乱とは
別に日本経済の停滞が心配です。

 わが国の経済は「円高・デフレ」で失敗し国民は悲観的ですが、李先生から見て今後の
経済政策をどうすればよろしいか、再生の秘策をご指導下さい。

李登輝:その前に大事なことは日本銀行ですね。日本銀行は、1ドル70何円の超円高まで
放置していた。これでは輸出がほとんどできない。私は円の価値を1ドル100円くらいまで
落としていくべきだと思っています。

 まあ最近になって、1%のインフレターゲットを設定して、やっと80円台まで円を落とし
ましたが、私から見れば不足ですよ。もう少し思い切ったことをやらないといけない。

 私は現在の世界経済学理論を構成する仮説は、間違っていると思うんです。というの
は、カラ取引で、お金でお金を買う、こういうことが世界では平気で行われている。こう
いう状態の中においてどうあるべきかということを、今の経済学理論は何も教えてくれま
せん。こういう状態から脱しなくてはならない。

 日本人にも、真面目な学者がたくさんおります。そうした叡智を結集して、日本政府は
思い切った政策を取らなくちゃいけないんじゃないかと思います。

 私は日本人の精神は世界に誇り得るものであると思います。それを生かさず、震災復興
のために国民に増税を課すとか、消費税をアップするのはおかしいやり方だと思います。

 政府は短期債券を発行し、日本国民から吸い上げてアメリカに80兆円のお金を貸してい
ます。なぜ日本銀行はその債券を担保にしてお金を建て替えようとしないのか。そうすれ
ば、政府に80兆円という金が自然に入って来て、何も30兆円の復興資金の燃出に増税をや
る必要はないはずです。

 こういう時にこそ政府は知恵を出して、いろんな問題にきちっとケリをつけてしまわな
ければいけないのです。

 私は、それがいわゆる平成維新じゃないかと思うんです。そういう平成維新をやること
によって、日本はもう一段発展していくんじゃないかと思います。

山本善心:増税政策しか能がないのは行政による機能停止ですね。こうした堕敗した構造
にメスを入れるのは既存政党では無理なら、強力な第三極が期待されるところです。行政
も税収を生み出す知恵がないので何でもかんでも年貢の取り立てで一件落着という安易な
手段しか取れないなら、新しいリーダーに期待するしかないのが現状です。
                                   (つづく)
                              【次回は4月26日(木)】


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