中国上映禁止の映画が示す習近平の神格化で虐げられる底辺の人々  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」第220号:2018年1月31日号】http://www.mag2.com/m/0001617134.html

*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。

◆習近平が強化する神格化

 2017年10月に開催された中国共産党第19回大会で、習近平総書記は、自身の名前を冠した思想を「行動指針」として党規約に盛り込む改正案を承認させましたが、それに続き、今年1月に開催された第19期中央委員会第2回全体会議において、その「習近平思想」が憲法にも明記されることが決定しました。

 党規約に「習思想」が明記された際には、毛沢東、●小平に次ぐ権威を確立したと言われましたが、憲法に現役思想者の思想が盛り込まれるのは、毛沢東以来です。

 つまり、改革開放によって中国経済の高度成長を成し遂げた●小平を抜き去り、建国の父と並んだということになります。残るは天安門広場に自身の肖像画を掲げることが「習近平の夢」なのでしょう。

 しかし、いくら憲法に自らの思想を盛り込ませたとはいえ、毛沢東や●小平に並ぶ実績があるとは、誰も思っていません。そのために習近平政権が強化しているのが、自身の神格化と、汚職追放、言論統制による「恐怖政治」です。(●=都の者が登)

 中国はかつて、毛沢東の独裁が多くの悲劇を引き起こしました。時代が違うとはいえ、習近平の独裁が進み、習近平が世界で中国の力を誇示すればするほど、そのしわ寄せは確実に底辺の人々にいっています。

 たとえば中国は世界で最も高齢化が進む国であり、すでに65歳以上の人口は1億5000万人もいるとされています。また、2030年には60歳以上の人口は4億人を超えるとされています。

 そんななかで、毎日1300人、毎年50万人の老人が失踪し、その10%がそのまま死亡しているといいます。その背景には経済の低迷や家族形態の変化などさまざまですが、大きいのは社会保障の欠如でしょう。

 これは一例ですが、中国社会の底辺での生活は、日本人には想像もつなかいほどひどく、人間の尊厳など全くないケースもよくあります。その人達が、習近平の権力誇示のために、社会的、経済的にさらに虐げられているわけです。

◆中国人映画監督の王兵がえぐり出した中国社会が抱える矛盾や暗部

 そんな中国の影の部分を映画という形で世界に知らしめている中国人の映画監督がいます。今回は彼とその作品を紹介したいと思います。

 名前は王兵。彼はじつに中国人らしい経歴の持ち主です。以下に、彼の作品のオフィシャルページに掲載されている経歴を引用します。

<1967年11月17日、中国陝西省西安生まれ。街で生まれたが、飢饉のため幼少時に農村に移り住む。父は出稼ぎに行き、母・妹・弟と暮らす。14歳で父を亡くし、父の職場だった「建設設計院」に職を得て、14歳から24歳まで働く。

 職場で知り合った建築士らの影響で学問と写真に興味を持ち、瀋陽にある魯迅美術学院写真学科に入学。映像へと関心を移し、卒業後、北京電影学院映像学科に入学。

 1998年から映画映像作家として北京で仕事を始め、インディペンデントの長編劇映画『偏差』で撮影を担当するが、仕事に恵まれず、瀋陽に戻り、1999年から『鉄西区』の撮影に着手。9時間を超える画期的なドキュメンタリーとして完成させる。

 同作品は2003年の山形国際ドキュメンタリー映画祭グランプリはじめリスボン、マルセイユの国際ドキュメンタリー映画祭、ナント三大陸映画祭などで最高賞を獲得するなど国際的に高い評価を受ける。

 続いて、「右派闘争」の時代を生き抜いた女性の証言を記録した『鳳鳴─中国の記憶』(2007年)で2度目の山形国際ドキュメンタリー映画祭グランプリを獲得。

 2010年には、初の長編劇映画『無言歌』を発表。初めて日本で劇場公開され、キネマ旬報の外国映画監督賞にも選ばれた。

 2012年には雲南省に暮らす幼い姉妹の生活に密着したドキュメンタリー『三姉妹〜雲南の子』を発表し、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリなど数々の国際賞に輝いた。2014年には現代アートの殿堂、ポンピドゥー・センター(パリ)にて1カ月以上にわたるワン・ビン監督の回顧展が開催されている。>

 まず、彼自身が中国社会の底辺にいたということ。それが彼の製作の原点になっているのでしょう。彼の扱う題材は、中国社会に翻弄され、為す術もなく流されるがままに生きてきた、歴史に埋もれた人々ばかりです。

 王兵が最初に注目を浴びた作品は、瀋陽の工場地区の盛衰を追った長編ドキュメンタリー『鉄西区』です。その後、反右派闘争の経験者である一人の老婆を撮影した『鳳鳴─中国の記憶』を製作。

 さらに、その流れを汲んで、反右派闘争の際に「反乱分子」として辺境に追われ、虐げられた人々を描いた作品『無言歌』を発表。一方で、雲南省にある精神病院に収容されている人々の日常を追ったドキュメンタリー映画『収容病棟』や、雲南省の高山で子供だけで暮らしている三姉妹を追ったドキュメンタリー映画『三姉妹─雲南の子』などを製作しています。

 王兵の作品には、音楽がほとんどありません。強い風の音や工場の音、電車の音などの生活音が大半です。そして、様々な賞を受賞しており、その映画評としては、被写体との絶妙な距離感は王兵しか表現できないと言われています。

 彼自身も、様々なインタビューで言っていますが、被写体の生活に入り込みすぎないようにしているということです。彼の作品は殺伐としています。

 『無言歌』は劇映画ですが、反乱分子が送られていく辺境の「再教育キャンプ」で、泥のようなおかゆや、草の根などを食べて喰いつなぐ人々を描いており、見ている側はじつに殺伐とした気持ちになりますが、彼曰く「この映画は実際に起こったことを80%カットして描いたもの」だそうで、これでもかなり手加減した描写だと言っています。

 彼が扱う題材は、社会的なものばかりであり、中国人として政府や社会に対しての使命感で活動しているのかと思いがちですが、ご本人は使命感など全くないとのこと。題材選びに関しては、自分が感銘を受け、強く惹かれるものを感じたことに対して深く掘り下げていくだけだと言っています。その飄々とした感じが、題材への過度な感情移入を防ぎ、じつに客観的に描いています。

 習近平が毛沢東を連想させるような権力集中を続けていけば、中国社会は再び大きな悲劇に巻き込まれるかもしれません。王兵の『無言歌』を見ると、かつての中国人たちの苦しみが実によく伝わってきます。

 この映画は今でも中国では上映禁止です。かつての悲劇が繰り返されないまでも、改革開放路線をひた走り、金銭至上主義に陥った中国社会のひずみは、すでに底辺の人々の生活を圧迫しています。

 その現状を描いたのが、王兵監督の最新作『苦い銭』です。これは、出稼ぎ労働者が住民の80%を占める浙江省の湖州という町を舞台にした、金にまつわる人間模様を描いたドキュメンタリーです。

 キャッチコピーは「働けど、働けど」。この一言で、映画の内容はたいだい推測できるでしょう。彼らの生活がどれほど苦しいか。この映画は、同じ今を生きる日本人、そして世界の人々へと配信され、中国の影の部分を見せてくれるのです。日本での公開は間もなくです。

 また、『収容病棟』という作品は、雲南省の精神病院を取材したドキュメンタリーで、中国で1億人を超えたとされる精神病患者を題材に、中国社会が抱える矛盾や暗部をえぐり出しています。

◆習近平が目指しているのは「習王朝の皇帝」

 習近平が描く「チャイナドリーム」については、その脱権闘争の過程を見ると、文革時代にかなり似ています。この脱権闘争は、人民公社の一農民から、中南海の党高級幹部や国家指導者に至るまで、避けて通ることはできません。見えない敵を先に叩き潰さなければ、自分がやられる。それが中国社会であり、中国人としての運命なのです。

 習近平については、よく「毛沢東主義の復活」や「スターリン主義」などと分析されています。しかし私は、漢王朝から禅譲を受け儒教の千年王国を目指して「新」王朝の皇帝となったことで知られている王莽、そして、20世紀の民国初頭の袁世凱の「帝政」運動にも似ていると思っています。

 皇帝がいなければ中国は天下大乱になる。それが中国の「伝統的文化風土であり、習近平は「伝統への回帰」を目指しているのではないかと思われます。

 中国には、古来「報喜不報憂」(いいニュースは報道しても悪いニュースは報道しない)というメディアの原則があります。また、「家醜不可外揚」(家の中のゴタゴタは他人には言わない)というのもあります。

 この2つが家族、宗族主義の根幹であり、マックス・ウエーバーが言う「家産性国家」、中国でいう「家天下」の大原則です。つまり、いいことしか口にせず悪いことはタブー、または、恥ずかしい内部事情は門外不出というわけです。

◆習近平が進める神格化の先に「中華民族の偉大なる復興」はない

 今回取り上げた映画監督の王兵と習近平は、いずれも陝西省の生まれです。出身や背景など、あらゆる面で「両極端」な2人です。彼らが中国の2つの顔を代表していると言えるでしょう。日本でよく言う、光と影です。

 陝西省の西安は、中国古代の都として、漢の時代から飢饉や戦乱で悲劇を繰り返してきました。ことに、20世紀にはいってからの大飢饉では1千万人が餓死しました。さらに、毛沢東時代の大躍進が原因で数千万人が餓死し、西安には流民が溢れていました。

 森と水が豊かな日本人には、中国の飢饉について想像できないかもしれませんが、飢えた中国人たちは木の葉や木の根を食べるのはまだマシなほうで、道端の草、粘土、石さえも口にしてきました。

 中国の農村出身の人間は「生民」と呼ばれていましたが、毛沢東時代に「紅五類」として優遇されたことで「解放」されたとされていますが、それは上辺だけで、現代では「三農問題」「農民工」など貧困や差別の対象になっています。

 王兵監督が作った作品は、かつて「紅五類」とされた、こうした中国人民の実像を描いています。

 現在、中国の統計では農民は総人口の半数を割っているとされていますが、実際は9億人以上いるとも言われています。また、中国内の各都市をさまよう「流民」「盲流」「民工」と呼ばれる人々は、2〜3億人いるとされています。その他、都市の地下にはネズミ族やアリ族がたくさんいます。このようにモザイクの国である中国には様々な顔があることは確かです。

 しかし習近平は、自らを神格化することにより、このような社会の「不都合な真実」を覆い隠そうとしています。不安と不満だらけの社会で、民衆が指導者を讃えることなどありえないからです。

 経済成長が停滞し、社会保障費も厳しくなっていく中で、習近平の絶対権力化、神格化を進めるには、底辺の民衆の不満の声を排除、弾圧するしかありません。しかし、そこには習近平が謳う「中華民族の偉大なる復興」などないのです。

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