ロシア戦闘機生産に赤信号 カギのひとつは半導体  関 賢太郎(航空軍事評論家)

ロシア戦闘機生産に赤信号 カギのひとつは半導体  関 賢太郎(航空軍事評論家)

【乗りものニュース:2022年3月26日】https://trafficnews.jp/post/116910

◆ロシアの戦闘機産業に致命的な問題アリ

 「戦争に勝者はいない」──もはや使い古された格言ではありますが、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻もまた、誰ひとり得をしない戦争となりつつあります。両国の戦争がどのような形で決着するのかはわかりませんが、最大の敗者がロシアとなるであろうことはほぼ確定的だといえます。

 ロシア経済はほぼ資源の輸出によって成立しており、世界と対等の競争力を持つ産業はほかにほとんどなく、その数少ない例外のひとつに戦闘機産業があります。世界の大国としての地位をほぼ軍事力だけに依存していたといってよいロシアにとって、戦闘機は産業の規模としては極めて小さいながら重要な地位を担っています。

 ソ連時代より有名な戦闘機メーカー「ミグ」と「スホーイ」は2022年現在、ユナイテッド・エアクラフト社傘下の戦闘機部門として名目上は存続していますが、2022年1月にはミグとスホーイともにブランド名としてのみ残り解散、ユナイテッド・エアクラフト社へ完全に統合することが決定し、ユナイテッド・エアクラフトはロシア唯一の戦闘機メーカーとして世界シェアを伸ばす計画でした。しかしロシア自身が戦争を決断したことにより、その見通しは困難なものとなりつつあります。

 アメリカ、ヨーロッパ、日本など先進国のほとんどは、戦争勃発と同時にロシアへ対する前例のない厳しい経済制裁に踏み切り、ロシア経済はウクライナ侵攻開始1か月にして、早くも崩壊の兆しを見せつつあります。

 ロシアは広大な国土から産出される資源こそ豊富ですが、ロシア国内にある工業製品のほとんど全ては海外から輸入したものです。今後それらを輸入することが困難となってしまいましたから、「戦闘機をつくるための工作機械」や「戦闘機の部品」さえ手に入らなくなる可能性が出てきました。

 ロシアにとって最も致命的であろう制裁のひとつに、「半導体」の禁輸があります。電子部品の一種である半導体は、CPU、メモリー、液晶ディスプレイ、照明などなど、何かしら電気機器を手にすればその中にはほぼ確実に使われている、現代文明になくてはならないものです。

◆半導体が手に入らないことはなぜ致命的なのか

 その重要な半導体を製造できる国は、実はほとんどありません。アメリカ、韓国、台湾、EU、日本で世界シェアの95%を占めており、これらの国が一斉にロシアへ対する禁輸に踏み切りました。残る5%を占める中国だけはロシアへ輸出を続けていますが、アメリカは中国に対して制裁を行うよう強い圧力をかけています。

 戦闘機やミサイルなどの搭載電子機器に使われている半導体も当然、輸入頼りですから、ロシアは何十年かかけて半導体産業を育成するにしても、当座は低い歩留まりと超高コストとなることを承知で量産するか、密輸するか、中国に頭を下げるかを選ばなくてはならないでしょう。

 それでも兵器に使われるコンピューターなどは、意外にも大した性能は求められないので、なんとかなるかもしれません。しかし、レーダーや電子妨害装置など電波を送受信する機器に使われる「ガリウムヒ素(ヒ化ガリウム)」を材料とする半導体は別です。

 ガリウムヒ素を材料とする半導体は、現代戦闘機において欠かすことのできない「AESAレーダー」と呼ばれる装置に大量に使われます。通常、ガリウムヒ素でできた小さい「TRモジュール」を1000個から2000個程度、搭載しており、AESAレーダーの性能は使用したガリウムヒ素の量で決まるともいえます。

 さらに次世代戦闘機では、機体のほぼ全体をガリウムヒ素で覆う「スマートスキン」になるともいわれます。そして、よりにもよってロシアの最新鋭戦闘機Su-57は、このスマートスキンの考え方を部分的に取り入れており、全方向レーダー索敵能力を有し、同時に電子妨害なども行う、F-35やF-22さえできない野心的な設計を取り入れています。

 Su-57用レーダーに使用されている、韓国のソウルセミコンダクター社製ガリウムヒ素はすでに禁輸となっており、Su-57の開発に悪影響を与える可能性は極めて大きいでしょう。Su-57だけではなく、2021年に初めてモックアップが公開されたばかりの「チェックメイト」と呼ばれる軽量戦闘機コンセプトや、MiG-41ともいわれる次世代迎撃戦闘機、そしてPAK-DA次世代爆撃機にもこの問題は及ぶでしょう。

 新型機ばかりではありません。すでに配備されているロシア機にも影響します。AESAレーダーの搭載は、戦闘機の性能向上において必ずといっていいほど行われる改修ですが、それも難しくなるかもしれません。さらにこれまで実施されていた、ロシア製戦闘機やヘリコプターに対しヨーロッパ製の既成電子機器を搭載することも、いまでは難しくなっています。

◆ロシアの戦闘機産業が立ち行かなくなると…考えられることは?

 2022年3月2日の国連総会緊急特別会合では、ロシアを非難しウクライナからの即時撤退などを求める決議案が賛成141か国、棄権35か国、反対5か国という賛成多数で採択されました。

 棄権した国の多くは、ロシアから戦闘機など同国製兵器の供与を受けていました。しかしそれらの国も、もはやロシアから部品の調達さえままならないとなれば、ロシア製兵器を維持することは困難になるはずで、また「世界の敵」となってしまったロシアからの新規調達をためらう国も出てくることでしょう。

 最悪、ミグやスホーイは過去のものとなってしまうかもしれません。そのトリガーを引く可能性があるとすれば、恐らく中国です。これまで中国製戦闘機はおもにエンジンの信頼性に問題があり、ロシアの支援が不可欠だったものの、それも改善されつつあります。また中国は、ガリウムヒ素の次世代を担う「窒化ガリウム」半導体の生産技術を有しており、自国で生産を完結できる態勢を目指しています。

 ロシア製戦闘機は中国の支援なくして成り立たなくなり、中国とロシアの立場は逆転するかもしれません。そうなれば世界の戦闘機市場でロシアが持っていたパイは、すっかり中国に奪われてしまうことでしょう。

 料理に例えるならば、ロシアは有名店、ユナイテッド・エアクラフトはそこで働くシェフです。彼らの手がけたミグやスホーイといったロシア料理は世界中で愛されていました。しかしそれは食材を売ってくれる相手とお客がいるから成り立っていたということを、彼らは忘れてしまいました。今後、恐らくは訪れるであろう2度目の「ソ連崩壊」は、前回よりも厳しいことが予想されます。

 筆者(関賢太郎:航空軍事評論家)の専門は航空分野なのであえて戦闘機に限りましたが、軍需、民需問わずロシア国内のあらゆる産業で同様の問題が生じると考えます。

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関 賢太郎1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。

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