メンツを潰され暴走する習近平政権の行方  黄 文雄(文明史家)

メンツを潰され暴走する習近平政権の行方  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2022年8月4日】https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付けたことをお断りします。

◆ペロシ下院議長を大歓迎した台湾

 8月2日、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪れ、翌3日には蔡英文総統と会談しました。米下院議長の訪台は1997年のギングリッチ氏(共和党)以来25年ぶりとのことです。

 ペロシ氏は、アメリカが1979年に台湾関係法を成立させたことに触れ、アメリカが台湾の味方であり続け、安全保障においてアメリカと台湾の結束を発展させてきたと述べ、これからもアメリカは台湾との約束を守り続けると述べました。

 台湾ではペロシ氏が松山空港に到着してからの一挙手一投足がメディアで報じられ、また、熱烈歓迎する台湾人の「おっかけ」も現れました。

 彰化縣花壇郷のパン屋では、ペロシ氏が1時間台湾に滞在するごとに1パック6個入りのスフレケーキにおまけ1つ、2時間なら2つをおまけにつけるとして、話題になりました。

 なお、ペロシ氏が訪台した期間、台湾高速鉄道の新左営駅の壁面ディスプレイがハッキングされ「老巫婆竄訪台灣,是對祖國主權的嚴重挑戰」(老魔女の姑息な台湾訪問は、祖国の主権に対する重大な挑戦だ)という文字が映し出されたそうです。

 加えて、高雄のスーパーではレジ後ろのディスプレイがハッキングされ、「戦争屋ペロシ、とっとと台湾から出て行け」という文字が表示されたとのことです。

 これが中国当局によるものか、あるいは台湾国内の親中派によるものかはわかりませんが、情報セキュリティの専門家は、有事に国内を混乱に導くことが可能になるとして、強い警戒態勢を当局に求めました。

◆アジアの若者たちでつくる「ミルクティー同盟」もペロシ訪台を歓迎

 今回、訪台したペロシ氏は、国民党政権下で行われた台湾人弾圧「白色テロ」の関連施設である牢獄などを訪れ、さらには、習近平批判本を扱ったことで中国当局に監禁された銅鑼湾書店の林栄治氏、中国の民主活動家ウアルカイシ氏、台湾チベット亡命政府代表ケルサンジェンセン氏などと会見しました。

 ペロシ氏といえば、中国のチベットや新疆ウイグルでの人権弾圧を批判し、北京オリンピックの開催にも反対を唱えてきました。

 中国から渡ってきた国民党と中国共産党の非道を並べることで、台湾人意識を刺激するとともに、民進党の正当性を訴える意味もあるでしょう。

 一方、アジアの若者たちによる反中国ネットワークである「ミルクティー同盟」は、今回のペロシ氏の訪台を歓迎し、中国による台湾への恫喝を批判しました。

 「ミルクティー同盟」は、タイ、台湾、香港、インド、ミャンマー、インドネシアの反中国の若者たちがネットで連帯しているものです。今回のことでも、タイなどから「台湾は国だ」というメッセージが送られてきているそうです。

 これらの国、地域は、ミルクティーをよく飲みます。エバミルクを入れる香港式ミルクティーは有名ですし、台湾のタピオカミルクティーは日本でもブームになりました。タイはチャーイェン、ミャンマーではラペイエ、インドはチャイというミルクティーです。

 一方、中国ではお茶にミルクをいれる風習はありません。そもそも牛乳を飲むようになったのはつい最近のことで、むしろ豆乳文化です。

 そのため、反中国の連帯を「ミルクティー同盟」と呼ばれるようになったわけです。ツイッターでは「MilkTea Alliance」とも表現されています。

 このように、アジア各国では若者たちによる台湾支持が広がっています。香港の民主主義が殺されていく様を目の当たりにして、若者たちのあいだで危機感と連帯の機運が高まっているのです。ミャンマーやタイなどは軍事政権と中国とのつながりが深いことから、反中意識が強いのです。

 一方、中国のインターネット上では、ペロシ氏の訪台に対する批判の声がうずまきました。中には「眠れなかった」という怒りの投稿すらあったそうです。中国ではペロシ訪台のニュースを事細かく報じたとのことですが、情報統制の国である中国では珍しいことです。

 ペロシ氏の訪台に強く反発した中国は、2日夜から台湾を取り囲むように軍事演習を行い、しかも実弾を使用した大規模なもので、台湾を威嚇し続けています。

 それどころか、中国が発射した弾道ミサイル9発のうち5発が日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下し、日本政府は中国に抗議を行いました。

◆メンツを潰された習近平の正統性に翳り

 習近平政権はペロシ氏の訪台を牽制し続けてきただけに、実際に訪台が行われたことで、メンツを潰されたという思いなのでしょう。

 それと同時に、習近平政権がいくら牽制しても、アメリカや台湾には何も効かなかったことが明らかになってしまいました。その腹いせが暴発気味になっているところが気になるところです。

 これまで中国では習近平政権の神格化を強めてきました。天から任命された「真命天子」が天下を統治するというのが、中国の伝統的な皇帝制度です。だから中国では共産党の最高権力者は絶対無謬であると同時に、絶対に批判してはいけない存在なのです。

 その絶対権力者がコケにされたということは、権力掌握の正当性すらも疑われることになるわけです。

 秋の共産党大会で3選を目指している習近平にとっては、非常に腹立たしい状況になってしまったということだと思います。一方、今年末に統一地方選挙があり、再来年に総統選挙がある台湾の民進党・蔡英文政権にとってはプラスにつながるといえるでしょう。

 ロシアのウクライナ侵攻以後、世界は中国への警戒感を強め、また中国国内ではゼロコロナ政策への不満が高まり、経済も減速の一途を辿っています。内政、外交の不具合が権力闘争を激化させる可能性も少なくありません。

 思うどおりにいかない苛立ちから習近平政権が暴走することも視野に入れておくべきでしょう。いよいよ日本は、憲法改正を含めて対中安全保障を真剣に考えるときです。

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