バイデン大統領の「国家安全保障戦略」指針に残る懸念

バイデン大統領の「国家安全保障戦略」指針に残る懸念

 米国のバイデン大統領は3月3日、「国家安全保障戦略」の暫定的な指針を発表した。指針では「民主主義国家が権威主義的な勢力からの挑戦を受けている」と指摘し、脅威をもたらす国として中国、ロシア、イラン、北朝鮮の4ヵ国を挙げ、同盟関係を強化すべき「最大の戦略的資産」として、NATO=北大西洋条約機構の同盟国、オーストラリア、日本、韓国を挙げたと報じられている。

 トランプ大統領が連邦議会への意見書として、外交・軍事戦略の指針となる「国家安全保障戦略」を発表したのは、就任から11ヵ月後の2017年12月18日のことで、米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力としてロシアと中国を挙げ、インド太平洋地域を重視し、日豪印を不可欠な同盟国としていた。

 ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官によると、「国家安保戦略」は年内に発表される見込みだそうだから、バイデン大統領も12月くらいに発表するのかもしれない。

 このサキ大統領報道官が産経新聞のインタビューに「インド太平洋と中国に関する包括的戦略を構築する上で、戦略的忍耐という(政策の)枠組みを採用する意図はない」と明言(2月9日)していたことからも、バイデン大統領の外交・軍事戦略はトランプ大統領の路線をほぼ踏襲しているように見受けられる。

 ただ、気になるのは、中国について「唯一の競争相手」と位置づけたことだ。トランプ大統領は「米国の国益や価値観と対極にある世界を形成しようとする修正主義勢力」と位置づけ、2018年1月19日に国防省が発表した「国家防衛戦略」でもロシアと中国を「主要脅威」と位置づけている。

 確かに、中国を「脅威をもたらす国」と位置づけているが「競争相手」とも位置づけている。米国の対極にある修正主義勢力や主要脅威と「競争相手」では、ニュアンスも違えば、認識も異なる。そこから編み出される戦術・戦略も、トランプ政権とは違ってくる可能性が高まる。

 産経新聞の社説「主張」も「指針にはオバマ政権時代に失敗した『関与政策』の遺伝子が残されているようだ」と指摘し、「対中融和」策を取るのではないかとの懸念を表明している。同じ懸念を本誌も持つ。

 本誌が見極めたいのは、バイデン政権の対台湾政策だ。

 すでに国務省は「中国の台湾への軍事圧力は地域の平和と安定を脅かす」という声明を発表し、国防総省のジョン・カービー報道官も「われわれには台湾の自衛を支援する義務があり、今後も継続していくだろう」と述べ、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官も「中国の攻撃的な姿勢に対し、我々は信念を守るため、立ち向かう」と表明してきた。

 バイデン政権は、台湾との関係強化を表明する一方で、中国への対決姿勢を示してきたが、大統領自身による「国家安全保障戦略」の指針では未だそれが明瞭ではない。むしろ、中国への対決姿勢は後退したように見受けられる。

 本誌で何度か述べたように、やはり年内に発表予定のバイデン大統領の「国家安全保障戦略」、それを受けて国防省が発表する「国家防衛戦略」、そして台湾への武器供与が決定されなければ、バイデン政権の対台湾政策は見えてこないようだ。

—————————————————————————————–米安保戦略指針 「対中融和」の懸念残った【産経新聞「主張」:2021年3月7日】

 バイデン米大統領が「国家安全保障戦略」の暫定的な指針を発表した。数カ月後にまとめる本格的な安保戦略に向けた政権の外交・軍事の基本方針といえる。

 指針は中国を「安定的で開かれた国際システムに持続的に挑戦できる唯一の競争相手」と規定した。ブリンケン国務長官も外交演説で中国の台頭を「21世紀における最大の地政学的試練」と明言した。対中抑止への決意が示された点は歓迎したい。

 一方で中国と協力する可能性にも言及し、融和的との懸念を払拭したとは言い難い。加速する中国の覇権追求を抑止するため、日本や豪州、北大西洋条約機構(NATO)との共同行動の具現化が、焦眉の急である。

 トランプ前政権は2017年末に策定した国家安保戦略で中国をロシアとともに「現状変更国家」と名指しして「力による平和の維持」を打ち出した。同政権のペンス副大統領の演説は「関与から対決」を明確にし、ポンペオ国務長官は「専制国家」との対決に民主主義国家の「新たな同盟」構築を訴えた。

 この対中認識と方向性はバイデン政権で強化されねばならない。ところが、指針にはオバマ政権時代に失敗した「関与政策」の遺伝子が残されているようだ。国益に資する中国との協力は排除すべきでないとし、気候変動に加え医療・保健、軍縮といった分野での「中国政府の協力を歓迎する」とわざわざ表明した。

 中国が欧州やアジアに国産コロナワクチンを供与して影響力を拡大している。軍縮も中距離核ミサイルの配備を進める中国には圧力を強めるのが先決だ。

 また北朝鮮の「非核化」に言及しなかったのは、金正恩政権に核保有を容認するかのような印象を与えかねない。中国は開幕した全国人民代表大会で香港の選挙制度見直しによる「中国化」を完成させ、東シナ海など海洋支配の正当化を図るはずだ。

 抑止の要となるインド太平洋における米軍兵力は、指針で重点配備の考えを示した。「負担の共有」も含めた同盟国とのすり合わせは不可欠だ。

 日本に受け身の姿勢は許されない。日米豪とインドの4カ国連携を柱に「自由で開かれたインド太平洋」の具体化へ周到な準備が求められる。

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