――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習55)

【知道中国 2389回】                       二二・七・初五

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習55)

以上の4項からソ連指導部――当時の中国共産党の用語法によるところの「フルシチョフとその後継者」――に対し、執拗なまでに厳しく詰問し、過激に執拗に反論を繰り返す。因みに毛沢東は、中国側責任者として中ソ論争を取り仕切った�小平を高く評価している。

 「我われは問い質したい。あなた方が立ち向かおうとしている敵は、最終的には米帝国主義なのか。はたまた全世界の革命的人民なのか。あなた方が採ろうとしている共同行動とは、米帝国主義との闘いなのか。それとも米帝国主義への投降なのか。あなた方が希求する団結とは、マルクス・レーニン主義を基礎としたものなのか。それともフルシチョフ修正主義に基づいたものなのか」と手厳しい。

「第一次大戦後に人口二億人のソ連が生まれ、第二次大戦後には人口九億の社会主義陣営が生まれた。帝国主義者が第三次世界大戦を目論んでいるなら、その結果として数限りない人々が社会主義陣営に転ずると断定しておこう。帝国主義に残された地盤はいよいよ少なくなり、あるいは帝国主義制度そのものが崩壊することだってありうる」と、「毛沢東同志による予てからの指摘」を金科玉条として掲げる。

そして「全世界人民の正義の事業は必ずや勝利し、帝国主義は必ずや敗れ去る! マルクス・レーニン主義は必ずや勝利し、修正主義は必ずや敗れ去る!」との当時の常套句で、『反法西斯戦争的歴史経験』は終わっている。

だが、真顔になって考えて見れば、いや真顔にならなくても分かりそうなものだが、中ソ論争は一貫して荒唐無稽な禅問答の類、やや戯画化して表現するなら唯物主義的神学論争だろう。今となっては忘れ去られたも同じであり、さほどの意味があったとも思えない。

それにしても中国とソ連の両共産党が全精力・全応力を傾注し、双方の理論中枢が脳汁を搾り切り、声を張り上げ、眦を決し、額に血管を浮かせてまで罵り合って繰り広げた共産主義革命の“宗家争い”だが、やはり今となってはマンガではなかったか。

振り返れば文革の渦中、毛沢東は「今から1000年もすればマルクスもレーニンも、毛沢東もナンセンスとなり、忘れ去られる」といった趣旨の発言をしていたと記憶するが、「1000年」を待つまでもなかったようにも思える。

 ここで改めて指摘しておきたいのは、習近平や李克強など現在の中国指導部が紅衛兵世代によって担われ、この世代に続くのが紅小兵世代だと言うことである。この両世代は毛沢東が絶対権力を掌握する時代に生まれ、毛沢東を神と崇めるべく教え諭され成長した。徹頭徹尾に「毛沢東の良い子」を目指した「純粋毛沢東世代」と形容しておきたい。

 今年2月末にプーチン露大統領が「特別軍事作戦」を開始して以来、ウクライナを戦場にした“殲滅戦”が続く。プーチンは一歩も退く構えを見せず、習近平は「洞ヶ峠」を決め込み、バイデン米大統領は当初に見せたロシアに対する強硬姿勢から後退気味だ。

 二進も三進も行かないようなウクライナの惨状を前に考えれば、『反法西斯戦争的歴史経験』が示す未来予測は、なんとも悠長で単純としか言いようはない。だが、これが中ソ論争と称するイデオロギー超過剰な“売り言葉に買い言葉”が秘めていた「不都合な真実」であったことも、また事実。世界遺産ならぬ世界悲惨とでも形容しておくのがよさそうだ。

『美帝国主義侵華罪行録』の編集方針の柱は、「1840年に英国人を手助けしてアヘン戦争を起こしてから人民によって中国から叩き出されるまで続いた米帝国主義による中国侵略の歴史を、1冊の教科書として分かり易く纏め、中国の若者を教育すべきだ」との毛沢東の教えである。アヘン戦争からはじまり、清末・民初の近代化過程における米人宣教師による支援、日中戦争、国共内戦を経て朝鮮戦争までの中国における米国と米国人の活動の一部始終を「多くの人民を殺害した悪辣な犯罪行為」と断罪し、激しく糾弾する。《QED》


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