――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習181)
73年4月に移る前に、少し文革から離れ、現在の中国における蔭宅(墓地)事情の一端を紹介しておきたい。それというのも、一方には「死」「死体」との向き合い方を通して中国人の生き方(=文化)を考えてみたいという長年の関心があり、他方には文革という狂乱の時代から半世紀が過ぎた現在の社会から、中国人のありのままの姿を窺い知ることができるのでは、と感じるからである。以下、1元=19.43円(4月初旬現在)で計算しておいた。
松鶴園は上海で陰宅の分譲ビジネスを展開する“陰宅団地デベロッパー”といったところだろうが、3月中旬に新規売り出しの共同墓地の値段を知って腰が抜けた。いや呆れ返った。なんと1区画1㎡で76万元(約1480万円)。もう少し安い価格帯でも1区画0.6㎡(1~2穴)で34.18万元(660万円強)、同じ広さで3穴の場合は45.78万元(約890万円)など。松鶴園の扱うセレブ御用達物件の「徳馨苑5号」になると、0.8㎡3穴で62.9万元余(1222万円強)とか。これは上海中心部に位置する陽宅(住宅)の販売価格の数倍だろうに。
いったい誰が、こんなにもバカ高い陰宅に収まるのか。業者にしても消費者にしても、どうにもマトモな神経とは思えない。これでは現在の上海では死んでも死にきれないばかりか、ヒトとして生きるもタイヘンで、おいそれとホトケサマになれそうにない。この世はもちろん、あの世もカネ次第だ。
だが、このような現象は上海に限られるわけではなく、陽宅より陰宅の方がベラボーに高い「異次元状況」は、「北上広深」で総称される中国の第一線級都市――北京、上海、広州、深圳――では一般化していると伝えられる。
たとえば深圳をみると、塩田区大鵬湾にある華僑墓園1区画の平均価格は14.9万元(約290万円)だが、最高価格は35万元(680万円強)。かくて、ここが深圳全体の墓地価格を押し上げることになる。
土地が不足しているところから、2018年、中国当局は「殯葬管理」に関する新規定――「墓穴は1穴、あるいは2穴とし、面積は1区画1㎡を超えてはならない」――を公布したが、なにしろ墓地価格もまた需給関係に基づく市場原理に左右されるため、全国をカバーする基準となる公示価格を示すことは難しい。いや不可能だろう。
ところで関連法規を見ると、墓地の使用期限は50年か70年とされるが、実際には20年間使ったら返還するらしい。陰宅を追われた骨は、その先、何処に落ち着けばいいのかは。20年後には追い立てを喰らうことが判っていながら、安心して土中に納まっていられるものだろうか。
ところで20年過ぎても使いたい場合は再度バカ高い使用権を払わなければならないようだが、墓地(土地)の所有権は国家、あるいは公的機関に帰属することから、個人的には転売・販売は不可能だ。ということは、「習近平新時代中国特色社会主義思想」に統べられた中国では、墓地販売に関してマル儲けするのは坊主ではなく、中央から地方まで政府というカラクリらしい。
陰宅の次は「骨灰盒」について。中国では骨を収める容器には日本と同じような壺状のものもあるが、側面に彫刻など施された長方形の箱状のものもある。
4月5日に出版された『中国紀検察報』は、去年、上級機関が湖北省江陵県を巡察し県所属殯儀館の帳簿を点検した際、358元(約7万円)で購入した骨灰盒が966元(19万円弱)で売られている事実を発見したと報じている。仕入れ値の270%で売り渡したことで得た33.67万元(650万円強)の不正収入は、「習近平新時代中国特色社会主義」の社会で、誰がフトコロに入れるのか。
ここで思い出すのが林語堂だ。彼は「中国人はすべて申し分のない善人」と説いた後、「中国語文法における最も一般的な動詞活用は、動詞『賄賂を取る』の活用である。すなわち、『私は賄賂を取る。あなたは賄賂を取る。彼は賄賂を取る、私たちは賄賂を取る。あなたたちは賄賂を取る。彼らは賄賂を取る』であり、この動詞『賄賂を取る』は規則動詞である」(『中国=文化と思想』講談社学術文庫 1999年)と説く。昔も今も「申し分のない善人」は「規則動詞」が得意らしい。《QED》