――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習109)

【知道中国 2443回】                      二二・十一・初三

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習109)

そこで、当時の労働者・農民・兵士が毛沢東と共産党にどのような思いを抱き、どのように評価し称えていたのか。いや正確に表現するなら、労働者・農民・兵士を装った筆杆子(共産党御用達文筆家)が、毛沢東や共産党の理想像をどのように描こうとしたのか。まさに百聞は一見に如かず。いくつかの作品を読んでみれば、涙ぐましいまでのヨイショ振りが判ろうと言うモノ。なお、題名後のカッコ内は作者の職場と氏名である。

 「偉大なる導師は航路を指し示す」(上海市海運局材料供応站 周成)

 毛主席が航路を指し示せば

我らが乗る巨艦は航路を迷うことはない

風に乗り波を蹴立て革命を推し進め

五洲四海(せかい)に春光(かくめい)を送り届けよう

「万歳中国共産党」(金山県朱行公社 顧吾浩)

    東の空から真っ赤な太陽が昇り

    数限りない星が金色の光に包まれる

    天地をどよもす歓喜の声

    万歳、中国共産党!

 「毛主席、建党のため上海へ」(金山県生産資料公司 金暁東)

    毛主席が党を打ち立てようと上海へ

    暁を蹴破って汽笛が大地を揺るがす

    旭日が浦江(しゃんはい)の流れを赤々と染めると

    真っ赤な太陽を迎え、神州(ちゅうごく)は微笑む

 「党は歴史の機関車」(上海鉄路分局東車両段 汪錫麟)

    車輪は轟々、汽笛は吼える

    党は歴史の機関車だ

    疾風怒濤の50年

    昇る曙光(ひかり)は全球(せかい)を照らす

 「偉大な真理は永遠に」(金山県廊下公社 陸恵栄)

    革命の稲妻は宇宙を震わせ

    反帝の怒火(いかり)に全球(ちきゅう)は燃える

    鉄砲からこそ政権が生まれる

    偉大な真理は千秋(えいえん)だ

 ――いくら読んでもキリがない。どこを切っても味も絵柄も変わらない金太郎飴と同じで、色合いは単調の極みであり、どう考えても芸術とは思えない。

だがモノは考えようである。「我々の文学芸術」は決して難しいものでもなさそうだ。タネ明かしをすれば、特別に難しい技法があるわけではない。だから誰でも、どこでも、いつでも簡単に創り出せるに違いない。なにはともあれ毛沢東を「東の空から昇る真っ赤な太陽」、共産党を「歴史の動かす機関車」なんぞに見立てさえすれば、「我々の文学芸術」は一丁上がり・・・じつは、そこがプロパガンダ芸術のキモである。

 たしかに、どの作品を目にしても、お決まりの大仰な文字使いの連続で感興が湧くわけがない。ところが中国語で音読すると、中国語の発するリズムが寄せては返す波のように心地よく耳に響き、気持ちが高ぶってくるから摩訶不思議。あるいは文革当時の中国人の脳髄は、繰り返される刺激的な音に誘われて奔騰したのか。黙読は音読に如かず。やはり文革式プロパガンダのヒミツは中国語のリズムにあり――こう言っておこう。《QED》


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