――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習136)
「我が労働者・農民・兵士の幹部は理論を学ばなければならないが、その前に文化の学習は必須だ。文化がなかったら、マルクス・レーニン主義理論を理解で出来るわけがない。文化を身につけたら、いつでもマルクス・レーニン主義を学ぶことが出来る」(『毛主席語録』)を巻頭に掲げる『語文小叢書 容易写錯的字』(北京師範学院中文系編写組 北京人民出版社 8月)だが、この時期の出版とは思えないほどに文革色が薄い。
それというのも、文革期特有の毛沢東に対する過剰なまでの賛辞が見られないばかりか、「文化」を学ばない「我が労働者・農民・兵士の幹部」に対する苛立ちに似た思いが伝わってくるからだ。
1942年に発表された「反対党八股」に代表されるように、毛沢東は共産党員に対し分かり易く正しい文章を書くことを求めてきた。だからこそ「我が労働者・農民・兵士の幹部は理論を学ばなければならないが、その前に文化の学習は必須」となるわけだが、毛沢東が説く「文化」の基本は基礎学力、具体的に言うなら正しい文章を指すと考えられる。
漢字は画数が多いうえに、数万を数える漢字の数に較べ音が少なすぎる。そこで勢い、少ない画数で同じ音を出す漢字を使いがち。たとえば「豆腐」を「豆付」と記すように。
トウフ程度なら問題ない。だが高度に抽象的な内容になったら、間違った文字使いは「直接的に文章全体に影響を及ぼし、思想の交流を妨げる。間違った文字は政治的錯誤を引き起こし、ひいては革命事業に損失を与えかねない。それゆえ、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想を宣伝し、革命工作をシッカリと進め、プロレタリア階級独裁を強固にするために、文字という道具をシッカリと身につけなければならない」ことになるわけだ。
全部で56頁の小冊子だが、42頁が誤字の実例を詳しく示した“簡易誤字字典”といった趣である。どうやら文革を機に権力を手にした「我が労働者・農民・兵士の幹部」は「文化がなかった」と考えても、強ち間違いはないはずだ。文革が招き寄せた知的退廃だろう。
『怎様識五線譜』と『怎様識簡譜』は共に上海人民出版社から同じ11月に出版された。中国では「ド・レ・ミ・・・」を数字の「1・2・3・・・」で代用し、これを簡譜と読んでいる。両書は姉妹書のような位置づけで、共に毛沢東を称え、共産党に感謝する歌をどのように演奏し、唱うのかを示している。
取り上げられている歌の題名を記すと、
「万歳!毛主席」「万歳!偉大なる中国共産党」「社会主義の祖国を唱う」「紅衛兵は草原で毛主席に見える」「辺境の人民は毛主席を熱愛する」「片手にツルハシ、片手に銃」「我らは反帝の旗幟を高く掲げ前進する」「南方の解放(ヴェトナムの歌)」「全世界の人民は必ずや勝利する」
題名を見ただけでも内容は推察可能だろうが、取り急ぎ「万歳!毛主席」だけでも見ておくと、
「金色の太陽が東の空に昇り、光芒は限りなし。東方万里に花開き、紅旗ははためく大海原のように。偉大なる導き手、英明なる領袖、敬愛するは毛主席!革命人民の心の太陽、心の内には真っ赤な太陽。毛主席万歳! 万歳毛主席! 万歳、万歳、万歳、万歳、万々歳!万歳、万歳毛主席! 万歳、万歳毛主席!」
ついでだから「万歳!偉大なる中国共産党」は、「偉大な中国共産党は、偉大な領袖・毛主席が育てた党だ。プロレタリア階級先進分子が組織した、我らが事業の核心力量。偉大な革命の荒波を乗り越え、毛主席の革命路線に導かれる。万歳、万歳! 偉大なる領袖・毛主席、万歳、万歳! 偉大で光栄で正しい中国共産党、中国共産党」
「万歳、万歳、万々歳!」と・・・まるで「万歳」のお年玉割引大セールだ。《QWD》