2016年5月に蔡英文政権が発足してから、中国は世界保険機関(WHO)の年次総会(WHA)に参加できなくなっている。蔡英文政権が中国の唱道する「一国二制度」を認めないからだ。
台湾と中国は別々の政治実体であり、1949年に成立した中国=中華人民共和国はこれまで台湾を統治したことはない。単に国連常任理事国が中華民国から中華人民共和国に入れ替わったにすぎない。にもかかわらず、中国は中華民国の継承国家なのだから、台湾は中国の領土だと主張するのは、いわば勝手な言い分である。いかにも譲歩したかのように、台湾には一国二制度を適用するのだから一国二制度を認めよと迫るのは理にかなわない。ましてや、台湾は「一国二制度」の香港がどうなったかを間近に見ている。
中国の圧力は蔡英文政権になって強まり、台湾の国交国を金銭がらみで断交させた国は7カ国に及ぶ。
1)2016年12月21日:サントメ・プリシンペ民主共和国 2)2017年6月13日:パナマ共和国 3)2018年4月30日:ドミニカ共和国 4)2018年5月24日:ブルキナファソ 5)2018年8月21日:エルサルバドル共和国 6)2019年9月16日:ソロモン諸島 7)2019年9月20日:キリバス共和国
中国はこのコロナ禍を利用して、マスク外交に続く「ワクチン外交」を展開し、台湾と国交のある中南米のホンジュラスやグアテマラ、パラグアイへ手を伸ばし、ワクチンを提供する替りに台湾との断交を迫っているという。
本誌前号で藤重太氏が指摘していたように、台湾の外交部が「ワクチンは政治的操作の道具にすべきではない」と表明すると、中国外交部は「ワクチンはウイルスと闘い、命を救うための薬で、政治利用するための道具ではないと台湾当局に教えたい」と逆に批判する始末だ。藤氏も「厚顔無恥、盗っ人猛々しい、開いた口が塞がらないとは、このことを言うのではないだろうか」と、譬えようのないない中国の面の皮の厚さには驚きを通り越して呆れるしかないという様子だ。
しかし、裏庭ともいうべきパナマやドミニカ、エルサドバドルにまで手を伸ばしてきた中国に危機感を募らせていた米国は、「自国の偏狭な政治目的を追求するための(ワクチンの)悪用を非難する」との声明を発表するに至っている。
中国の考えるワクチンは、人の道を踏み違えても台湾を窮地に陥れ、台湾を中国になびかせたいという底意のあることは、すでにパラグアイ大統領などの発言で明らかになっている。やはり、マスクもワクチンも、中国にとっては政治利用するための道具でしかないことが白日の下に晒された。
ちなみに、現在、台湾との国交国は以下の15ヵ国。
大 洋 州:マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバル アフリカ:エスワティニ 中 南 米:ベリーズ、ニカラグア、グアテマラ、ホンジュラス、ハイチ、セントクリストファー・ネービス、 セントルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、パラグアイ 欧 州:バチカン—————————————————————————————–台湾との断交促す「ワクチン外交」、米国務省が非難【産経新聞:2021年5月14日】
【ワシントン=黒瀬悦成】米国務省報道官は13日、台湾と外交関係を結んでいる中米ホンジュラスなどの一部途上国に、中国が新型コロナウイルスのワクチン提供を拒否しているとされる問題について、「自国の偏狭な政治目的を追求するための(ワクチンの)悪用を非難する」との声明を発表した。
中国は、途上国への影響力拡大に向けた「ワクチン外交」の一環として、中米のホンジュラスやグアテマラなど、台湾と外交関係のある国に対し、ワクチン提供と引き換えに台湾との関係を断絶するよう圧力をかけているとされる。
ロイター通信によると、ホンジュラスのエルナンデス大統領は11日のテレビ演説で、中国からのワクチン入手に向け「必要であれば中国に通商代表事務所を開設する」と述べ、自国民をウイルスから救うため中国との国交樹立を視野に入れる考えを表明した。
一方、同じく台湾と外交関係がある南米パラグアイは今年3月、中国側からワクチン提供の条件として台湾との断交を要求されたことを明らかにしている。
これに対し台湾は4月、パラグアイがインドからワクチン10万回分を入手するのを支援したと発表するなど、中国への対抗措置に乗り出している。
バイデン政権も、先進諸国がワクチンを共同購入して発展途上国などに分配する国際的枠組み「COVAX(コバックス)」への40億ドル(約4380億円)の供与などを通じ、台湾と外交関係のある国々を含む途上国へのワクチン提供を後押ししていく方針だ。
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