【阿彰の台湾写真紀行】赤いソース

【阿彰の台湾写真紀行】No. 19 赤いソース

台湾の屋台や食堂で乾麺(ta-mī
:タァミィ=汁なしの和え麺)や甜不辣(thiăn-pú-lah:テンプゥラァッ=台湾風おでん)、肉圓(bah-oân:バァオアン=インディカ米やサツマイモの粉などから作る肉団子入りの餅)などの、點心(tiám-sim:ティアムシム)や小吃(シャオツー/華語)と呼ばれる簡単な料理を食べたことがある人なら、それらの食べ物の上にかけられていた甘辛い赤いソースが気になったと思う。

あの甘辛いソースは自分で材料を混ぜ合わせて作る自家製ソースの、米醬(bí-chiùⁿ:ビィチュウ)や米漿醬(bí-chiuⁿ-chiùⁿ:ビィチュウチュウ)と呼ばれるものであったり、スーパーなどで市販されている、食品メーカー製造の海山醬(hái-san-chiùⁿ:ハイサンチュウ)や甜辣醬(甜番薑仔醬:tiⁿ-hoan-kiuⁿ-á-chiùⁿ:ティーホアンキュウアチュウ/甜薟椒仔醬:tiⁿ-hiam-chio-á-chiùⁿ:ティーヒィアムチィオアチュウ)であったりする。

また、これら市販のソースに、とろみのある甘い醤油、豆油膏(tāu-iû-ko:タウイウコー)やトマトケチャップ(柑仔蜜醬:kam-á-bi̍t-chiùⁿ:カマビッチュウ)など、他の調味料を混ぜている場合もあるようだ。

自家製ソースの米醬(bí-chiùⁿ:ビィチュウ/米漿醬:bí-chiuⁿ-chiùⁿ:ビィチュウチュウ)は、インディカ米(もち米の場合もある)の粉、醬油、糖分、塩分、甘草(カンゾウ)の粉、豆乳(tāu-lú/tāu-jú/tāu-jí:タウルウ=豆腐乳)、味噌、水などを混ぜたものを火にかけて煮てから冷ましたもの。

米漿醬(bí-chiuⁿ-chiùⁿ:ビィチュウチュウ)と言った時の米漿(bí-chiuⁿ)は、米を臼で挽き、水に溶いた米の汁であり、粿仔條(kóe-á-tiâu)
などの米製ヌードゥルや芋粿(ō͘-kóe)などの餅菓子を作る時に使う原料のことである。

また、客家系台湾人の間で米醬(mí-chiong/mî-chiòng:ミィチォン)と呼ばれているものは、一般的に味噌の一種を指す。これは台湾人が豆醬(tāu-chiùⁿ:タウチュウ)と呼んでいるものである。それにやはり豆腐乳(theu-fu-yì:テウフゥイー/客家語)などを加えて料理のタレにすることもあるようだ。

海山醬(hái-san-chiùⁿ:ハイサンチュウ)は、豆瓣醬(豆板醤:台湾ホーロー語ではタウポアチュウ、タウパンチュウなどの呼び方がある)や味噌、辣椒(唐辛子)、胡椒、甘草、梅などを、キメ細かくすりおろしたり、練ったりしたものを、水で溶いたインディカ米の粉と混ぜ合わせて、とろみを付けたソースだ。

ソースの色は、鮮やかな赤やピンク、黄褐色などであるが、添加される原料の種類や量によって多少異なる。特にトマトケチャップを追加することによって色味が増す。

元々中国の福建人、広東人などが台湾に来た時に持ち込まれた調味ソースが、時とともに台湾独特の風味を持ったソースに変化したものらしい。また、元々の名称は海鮮醬であって、それが台湾人に伝わった後に海山醬に訛ってしまったという説や、「海味山珍(海の幸、山の幸)」という表現から名付けられた名称だという説もあるようだ。

そして、甜辣醬(甜番薑仔醬:tiⁿ-hoan-kiuⁿ-á-chiùⁿ:ティーホアンキュウアチュウ/甜薟椒仔醬:tiⁿ-hiam-chio-á-chiùⁿ:ティーヒィアムチィオアチュウ)は海山醬が変化してできた一種の台湾版チリソースだ。

主な原料は、キメの細かい辣椒醬(唐辛子ソース。番薑仔醬hoan-kiuⁿ-á-chiùⁿ:ホアンキュウアチュウ)だ。

各食品メーカーによって、調合する材料や量は異なる。特に辣椒醬と砂糖の比率を変えたり、トマトやレモン酸などが加えられているものもある。

水で溶いたインディカ米の粉を使わず、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム増粘安定剤)という食品添加物を使い、とろみを付けている製品が多い。

海山醬や甜辣醬には、よくトマトケチャップを加えて色に赤みを増したり、味に酸味を加えたりする。
このトマトケチャップの語源にはいろいろな説があるようだが、どうやら中国南部から東南アジア一帯の魚介類の塩漬けを発酵させた液体調味料(魚醤)の呼び名が語源ではないかという説が有力なようだ。そしてインドシナ半島やマレー半島でも同様のソースが作られていて、中国南部の言語と似たような発音で呼ばれていた。

たとえば、清朝時代初期にアメリカへ移民して鉄道建設現場で働いていた福建人、広東人の調理係が作る、大量のトマトを煮込んだ魚料理や肉料理を、アメリカ人も美味しいと感じて、その料理の赤い汁は何か、と聞いたところ、英語のあまりできない調理係が自分の母語(それが元々福建系の言葉なのか広東系の言葉なのかは定かではない)でkechopやketsiapなどと言い、それが変化して英語の
ketchupとなったという説や、マレー半島がイギリスの植民地であった時代に、現地でマレー系の料理に使われるkichap
やkechap
と呼ばれるソースを知ったイギリス人によりイギリスに伝えられ、その他のヨーロッパ諸国へも広がり、アンチョビー、マッシュルーム、クルミ、エシャロットや香辛料などを原料としてソースが作られ、
Kechap、catchup、catsup
などと書かれたり、呼ばれるようになったという説などが有名だ。(日本やアメリカではケチャップはトマトが主な原料だが、イギリスやヨーロッパではケチャップというとトマトがベースではない)

実は中国閩南語では、小魚やエビなどの塩辛から分離した液体をkechiapやkoechiapと呼び、これがマレー半島に伝わってマレー語やインドネシア語で
kichap、kecap と呼ばれるようになったとも言われている。

現代台湾ホーロー語では膎汁(鮭汁)と漢字で書かれ、kôe-chiap
やkê-chiapなどと発音する。

台湾の香港系レストランや食堂で食べることのできる料理に、トマトケチャップで炒めたビーフンがあるが、なんとその名称は廈門炒米(廈門は中国福建省の都市アモイの漢字表記)だ。まさにトマトケチャップと福建の関係を表している。

一方、マレー語の「kicap」とインドネシア語の「kecap」
は現在、魚醤以外に、大豆の醗酵調味料である醤油を指す場合の方が多いそうだ。大豆と小麦を発酵させた甘いソースであるケチャップマニスが、インドネシアの甘い醤油として日本人の間でも割と知られている。

なおトマトと言えば、その台湾ホーロー語表現には柑仔蜜(kam-á-bi̍t)や臭柿仔(chhàu-khī-á)の他に、日本語からの外来語表現でtho-má-toh、tho͘-má-toh、kha-má-toh、ta-má-tohなどの言い方もあり、現在でも使われている。


編集部より:「阿彰の台湾写真紀行」では、台湾在住のデザイナー、『台北美味しい物語』著者である内海彰氏が撮影した写真とエッセイをお届けします。写真は末尾のリンクから取得することができます。


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1海山醬と甜辣醬

2肉圓+米醬+海山醬

3甜不辣+甜辣醬+辣椒醬

4乾麵+甜辣醬+辣椒醬

5乾麺+海山醬

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