中華人民共和国の建国70年を祝った習近平国家主席は、毛沢東時代には遠い夢だった1つのゴールに近づいている。台湾との外交関係を持つ国をなくすことだ。
南太平洋の島しょ国ソロモン諸島とキリバスが9月に相次ぎ台湾と断交し、台湾と外交関係を持つ国はわずか15カ国となった。蒋介石率いる国民党が毛沢東の共産党との内戦に敗れ、中華民国の臨時首都を台北に移したのが70年前の1949年だった。
台湾の国家安全会議は先月、年内にあと2カ国との外交関係を失う恐れがあると認めた。蔡英文総統の民主進歩党(民進党)は独立志向が強く、習政権は同党の孤立化を図っている。
ただ「1つの中国」を掲げる中国政府が台湾政策の節目に近づくことは、来年1月の総統選挙で再選を目指す蔡総統のみならず習主席にも多くの問題を突き付ける。
外交的な締め付けは台湾の一部有権者に大陸との統合に抵抗するのは無益だと感じさせる可能性はあるものの、逆効果となり、台湾の正式名称を中華民国(リパブリック・オブ・チャイナ)ではなく「リパブリック・オブ・タイワン」とすべきだと長く主張してきた人々を勢いづかせるリスクもある。
台湾の東呉大学で政治学を教える劉必栄教授は「国際社会から台湾を締め出したいのであれば、中国は台湾を国家承認している国全てと外交関係樹立を図ろうとするだろう。台湾は完全に孤立し、国であると主張することは難しくなる。ただ、中国の省でもない」と指摘。その上で「そうなれば台湾の人々は最終的に独立か何かを宣言するかもしれず、その結果は大惨事となる」と述べた。
中国は台湾の独立阻止で武力を行使する可能性を排除していないため、台湾政府が独立に向けた動きをすれば地域の危機を招く公算が大きい。米政府は1979年の台湾関係法に基づき台湾の防衛を支援する義務を負う。米国では、対中強硬派が中国政府の世界的影響力拡大に歯止めをかける方策を探る中で、台湾支持がここ数年強まっている。
蔡総統就任以来、ソロモン諸島とキリバスを含め台湾と断交した国は7カ国に上る。中国の外交的成果は習政権を無視することで台湾が被るコストを裏付けており、来年1月11日の台湾総統選は「平和か危機」の選択になると国民党公認候補の韓国瑜高雄市長は言う。
だが、特に香港で民主主義支持を訴える抗議活動が数カ月続く中で中国の統治に対する懸念が強まっており、北京の外交面での圧力は台湾の有権者の中国離れを加速させる可能性もある。香港の抗議活動への支持を表明した最も著名な1人となった蔡総統は、最近数カ月の世論調査で支持率を大きく回復させた。
オーストラリア国立大学のグレイム・スミス研究員(太平洋問題)は中国の外交攻勢について、「裏目になり得ると感じている。総統選前後に中国が過度に攻撃的になった時、これまで民進党に有利に働いてきた。今回もまた民主主義がどのように機能するか中国が理解していないことを示す新たな事例になるかもしれない」と分析した。