台湾の声編集部 T・Y
少し前になるが、在米民主化運動リーダーの陳破空氏が今年2月、ビジネス社から上記タイトルの新著を上梓した。
著者の陳氏は1989年に中国全土で巻き起こった学生運動の広州のリーダーであり、天安門事件に連座して2度の投獄(計4年半に及ぶ獄中生活)と香港密航失敗を経てアメリカに亡命、現在はニューヨークに在住する。中国共産党打倒という不屈の精神で、ニューヨークで専門学校を経営する傍ら、精力的に中国政治に関する評論活動を行っている。
同書は第1章「習近平は本当に「19大」で勝利を収めたのか?」、第2章「人民はなぜ共産党を支持しているのか?」、第3章「中国の民主化運動はなぜ失敗を繰り返すのか?」、第4章「海外の中国人はなぜ母国に声を上げないのか?」、第5章「”崩壊しない中国”は果たしてどこへ向かうのか」の5つのパートに分け、さらに各章であらゆる情報を網羅して、一党独裁体制が終わらない理由を解き明かしている。
タイトルにもなっているように、日本ではほぼ知られていない、在米の中国民主化運動団体にうごめくスパイによる妨害活動、また、学者気質から生まれる妬みやいさかいなどの内部事情も赤裸々に描かれている。アメリカで行われているスパイ工作は、当然日本でも同様の手法で行われているはずであり、参考になる。
本書が書かれた時点では、まだ総書記の任期を撤廃する憲法修正は決定していなかった。同書で、陳氏は、習近平がなぜこれほど強大な独裁権力を求めるのかについて、考察している。強大すぎる権力を手にすれば、自分の死後、残された家族に憎しみの矛先が向くというリスクを習近平はよく知っている。それでも権力を求める可能性は二つ。「習近平が巨大な野望の持ち主で、リスクを顧みず、毛沢東よろしく皇帝のような独裁者の地位を目指している」か、「強大な権力を握った習近平が”上からの改革”を行う」可能性があると陳氏は指摘する。
ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏が無情にも殺害された後は、その確率は前者が70%、後者が30%と変わったものの、後者の可能性もゼロではないという。この点について、現在の見解を直接著者に求めたところ、民主改革に着手する可能性は10%に下がったと見ているとのことだが、次の二つの理由から、習近平が民主改革を行う可能性は残されているという。(一)アメリカとの貿易戦争の結果として、トランプが習近平に改革するよう迫る。(二)国家副主席に就任した王岐山は、左派の王滬寧らと比べ、改革志向が強く、アメリカに妥協することを願っている。
台湾情勢についても詳しく分析し、「中国、香港、台湾の民主派はかつて一定の連帯感を持っていたが、この絆が年々薄くなっている」と述べる。その理由は香港と台湾の若い世代は、新たなアイデンティティ(香港独立、台湾独立)に従って活動しており、「目指す目標が大きく異なっている」からと言う。陳氏のように、台湾人の独立意識を「直視」し、共感を示す中国民主化運動家は実は意外と少ない。中国の民主化を望んでも、台湾人やチベット人、ウイグル人の独立意識=中国人の言う「分離」を認めたがらない運動家が多いのだ。ただ、陳氏も台湾に対して「中国本土」という言葉を使用しているので、その点は誤りであると指摘したい。
トップがダライ・ラマと会見した国はその後2年に亘り経済が停滞する「ダライ・ラマ効果」、中国共産党のプロパガンダの代弁者となり香港で嫌われるジャッキー・チェン、国防費を上回る治安維持費、フェイクニュースを拡散する郭文貴、店主が中国に拉致され一躍香港民主運動のヒーローとなった銅鑼湾書店事件の内幕など、陳氏独特の分析が盛りだくさん詰まっているお薦めの書である。
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