【傳田晴久の台湾通信】台湾小学校の運動会

【傳田晴久の台湾通信】台湾小学校の運動会

1. はじめに

昨年の話ですが、私が住むアパートの7階の窓からは小学校の校庭がよく見え、先日運動会を観ました。よぼよぼ爺が元気良い子供達の演技を涙して眺め、例によって年寄りの悪い癖、いろいろ考えさせられたことがあり、それを報告させていただきます。

2. 運動会の紹介

11月下旬、校庭を眺めていて気付いたのですが、子供達が盛んにリレーのバトンタッチの練習をしたり、マスゲームの練習に励む姿が目につきはじめました。運動会の練習か?日本の運動会は9月、10月に行われるのが普通ですから、ちょっと異様な感じがしました。

12月4、5日入場行進や選手宣誓の予行演習があり、これは間違いなく運動会だと思いました。12月7日には校庭にカラフルな数十張のテントが張られ、色とりどりの小旗をつけた数本の長い綱が校舎の屋上から中央の演台に張られ、一挙に雰囲気を盛り上げて呉れました。
そして12月9日(土)、いよいよ本番の日を迎えました。この運動会は小学校(東光国民小学)と付属幼稚園、地域のコミュニティ社会(社区)との合同運動会と銘打っています。お天気はあいにくの曇り空、気温は16~17℃と少々肌寒い感じですが、子供達は元気いっぱい、運動会に盛り上がっています。

選手入場行進が始まり、生徒が校庭を一周し整列すると次は何とオリンピックを彷彿とさせる儀式の開始です。鉄砲をかついだ2人の生徒に護衛された校旗の入場に続き、6人の生徒が持つ大会旗の入場です。正面の一段高い貴賓席の前で大会旗を高々と捧げ上げての行進です。続いて聖火の点灯です。貴賓席の前で2人の生徒が捧げ持つ炬火トーチに点火され、2人はそれぞれ別方向にトラックを走り始めました。1/4周地点で次の搬送者にトーチはリレーされ、更に1/4周走り、貴賓席の反対側の中央で待つ最終走者男女2名に合流します。合計6名の走者は整列して校舎の中に消えます。しばらくすると屋上に駆け上がったのでしょう、屋上に設けられた小さな小さな炬火台の前に現れました。2人の走者は並んで、トーチを高々と掲げ、聖火を炬火台に移しました。その時一斉に数10個の色とりどりの風船が放たれ、あいにくの曇り空ですが、大空に舞っていきました。

選手宣誓や校長先生のあいさつ、来賓あいさつ等々が続き、開会式が済むと、小さな子供達が入ってきました。貴賓席の前に整列するとお遊戯を始めました。40~50人の幼稚園児のようです。子供達は頭に赤い鶏冠(とさか)の様な形をした帽子を被り、黄色い服を着ています。自分が小学校の頃の運動会の様子はあまり想い出せませんが、なぜか1年生の時のお遊戯「ひょひよひよこ」だけは想い出せます。そして今、それを思い出し非常に懐かしくなりました。

学年別に繰り広げられるマスゲーム、激しい音楽に合わせて踊る生徒たち、運動能力が極端に落ちた老人としては、その運動能力、リズム感をただただ羨ましく眺め、心躍らせていました。そのうちに徒競走が始まりました。低学年は30~50メートル位走るのでしょう、たったそれだけの距離なのに、先頭を走る子とビリの子との差は実に大きい。早や生まれの子と遅生まれの子では最大1年の差があるわけですが、このころの1年の差は大きいのでしょう。矢張り運動会の華はリレーです。本番前に盛んに練習していたバトンタッチの成果の見せ所です。これもバトンタッチの巧拙、走力の差が顕著に表れ、早いチームと遅れたチームの差は非常に大きく、一周200メートルくらいのトラックですが、1チーム10人くらいのリレーで、最後には一周近い差が出来てしまいます。

途中雨で中断された運動会ですが、午後4時頃には全種目を終了し、最後の表彰式を経て、楽しい運動会は無事に終了いたしました。生徒たちの頑張りも印象的でしたが、これまで指導してこられた先生方のご努力、運営に汗を掻かれる先生方を思うと、頭が下がります。 

3. 運動会の思い出

私は小中学校時代、運動会はあまり好きではありませんでした。私は入学時、ツベルクリン反応(結核菌感染の有無を調べる検査)が陽転したことがあり、いわゆる虚弱児童扱いになり、足は遅いし、運動能力は高くないので、競走はいつもビリで恥ずかしかった。ある時、日本のどこかの学校の運動会で、生徒達が手を繋いで同時にゴールインして、勝敗の無い、平等な競争(?)をやっているという話題を聞いたことがありますが・・・・・。
高校に入ってから運動部(タッチフットボール部)に入り、体を鍛え始めてから、敏捷性や耐久性が求められる障害物競走などでは上位に入れるので、多少は好きになりました。
今でも若者がグループでのダンスに興じているのを見ると、よくステップが覚えられるなあと感心したり、あのリズム感に驚異を感じたりしているくらいですから、マスゲームなどはどうも苦手です。

4. 日台の違い(私の偏見か?)

今回近所の小学校の運動会を観戦して気付いたことがあります。一校だけのことですから、偏った見方かもしれませんが、日本の運動会の定番である綱引き、大玉転がし、棒倒し、騎馬戦などの種目がありませんでした。確か台湾は「抜河競技」(綱引き)の世界チャンピオンだったと思いますので、綱引きは当然あると思ったのですが・・・・。
騎馬戦や棒倒しは小学生では危険ということかもしれません。中学校(国民中学、略称「国中」)や高校(高級中学、同「高中」)ではどうでしょうか。今度調べてみましょう。

5. 思うに

この度の運動会で一番おもしろく、印象深く観戦したのは低学年の「駆けっこ」でした。同じ学年なのに大きな体で上級生並にしっかり走る子もいれば、よちよち歩きの様な小さな体の子もいて、30メートルほどの距離で10メートルも引き離される子がいたりしました。中には先生に手を引かれないと途中でやめてしまう子もいました。この年頃の1年間の成長度合いの違いはすごいものです。ある子がビリの方でしたが、ゴールした後突然スタート地点向かって逆走し始めました。何をしているのかと思いますと、何と途中に脱ぎ捨てられてある自分の靴を取りに戻ったのです。途中で靴が脱げたのですが、裸足で最後まで走りきったのです、ビリでしたが。靴が脱げても走りきる、ビリでも走りきりました。この幼い子の敢闘精神は立派なものです。

日本の某校が「手を繋いでゴールイン」させたという話が本当とすれば、誠に嘆かわしい。ある種の人々は、自分の劣等意識から、自分より秀でた者がいるとそれが許せなく、「平等」の名のもとに足を引っ張るそうです。子供達は折角の闘争心、敢闘精神を養う絶好の機会を奪われてしまうのです。台湾のこの小学校では、幸いにそんな足を引っ張るような指導はしておりませんでした。

6. おわりに

運動会を目前にしていた12月7日の自由時報に驚くようなニュースが掲載されました。「高雄市議会決議:秋冬の空気汚染 運動会開催を禁止する」というものです。高雄市の秋冬の空気の汚染がひどく、学生の健康を脅かす恐れがあるため、高雄市議会は来年(2008年)以降、秋冬の12月から2月までの空気汚染のひどい時期での運動会開催を禁止し、学生たちの健康を守るとの決議を採択したというのです。

台南の南にある高雄市の秋冬季節における空気汚染は、東北季節風の影響でひどくなるが、その3割は中国からのPM2.5によるものであり、高雄市はいろいろな対策(大衆輸送手段の促進・無料化、工場排気の規制、バイクの規制、緑化運動など)を採ってきたが、子供達の健康を守るために、さらに秋冬期の運動会を春夏の季節に実施するよう求めることにしたと言います。

台南の空気汚染も酷いという噂があります。今回話題にしているこの小学校の、秋冬開催の運動会も今年限りかもしれません。

オリンピックの入場式を真似ることにより、駆けっこで競争社会を体験することにより、子供達は成長していくのでしょうね。そのような貴重な場が、無くならないことを願うばかりです。
(文責在傳田晴久)


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