【新刊紹介】近藤伸二『反中VS親中の台湾』

【5月13日 宮崎正弘の国際ニュース・早読み「今週の書棚」】

なぜ独裁政権の末裔=国民党が執権党に復活できたのか
96年「民主化」以降の台湾政治を丹念に検証、台北ウォッチャーの面目躍如

 近藤さんは毎日新聞初代台北支局長である。

 経済が得意の分野で、それゆえ台湾分析にも企業分析動向が加わり、本書の中味を濃
くしている。

 戦後、蒋介石が台湾へ乗り込んできて、日本の政府と民間の財産をごっそりと差し押
さえ、蒋介石政府と国民党の財産とした。

 台湾本省人の不満が爆発し、二二八事件が起きた。台湾人インテリが殆ど殺された。

 そして半世紀、台湾は民主化され、自由な選挙がおこなわれ、あの恐怖政治、独裁政
治の元凶だった国民党が下野し、八年後に変身して復権した。

 国民党の馬英九が、なぜ民主主義・台湾で蘇ったのか?

 陳水扁政権があまりにも無能であったからか? 原因はどうやらそんな短絡的な現象
ではないらしい。

 近藤氏は、懇切丁寧に戦後台湾史の概略を述べながら、どう統計をとっても統一派の
いう中華主義意識の前に「台湾人アイデンティティ」が深まり、一方で政治意識の国際
化が進み、むしろ国民党が民主化され、近代化され、スリム化したうえで、馬自身が台
湾南部の、従来民進党が圧倒的な地域にロングスティと称して回り、たどたどしい台湾
語を必死で喋り、ついに選挙に勝利できた過程を解きほぐしてゆく。

 社会構造の変化と景気対策、大陸政策で与野党が激突するのは当然にしても、原発や
防衛予算でも与野党は鮮明に対立する反面、尖閣諸島の帰属では「あれは台湾領(つま
り中華民国領土)」という意味で与野党は一致する。

 この台湾には労働力不足と嫁不足で、夥しい外国人が流入している。

 第一は大陸からの花嫁。およそ26万人。これにベトナム花嫁など加えると、じつに40
万が外国からの花嫁である。

 第二は3K労働を嫌う台湾の若者を代替し、インドネシアから12万人、タイから8万6
千人、フィリピンから8万4千人、そしてベトナムから7万人が労働者として台湾社会に
とけ込んでしまったが、多くの台湾人は、これを深刻な問題と考えていない事実。

以下は小生の感想。

 李登輝前総統は、選挙直前に『私の一票は謝さんに入れるが』としつつも、国民党の
勝利の翌日に馬英九が訪問するや、かれを支持した。

 もっとも李政権下で、馬は法務大臣をつとめ、李登輝の教え子でもある。その後、日
本外交に関しては舞台裏で多くのサインを出している様子である。

 馬英九は評者(宮崎)の質問(3月23日、当選翌日)に答え、「私が反日活動家ですっ
て? そういう誤解を解きたい。日本重視路線に変わりはない」(詳しくは週刊朝日に
寄稿した)と明言した。

 これも李登輝の示唆<?>に従ってか、5月初頭には台南へ向かい八田與一の記念碑
に詣でるという挙に出た。八田與一は日本人技師で台湾南部の灌漑に尽くした。

 5月20日の馬英九、台湾第12代総統就任式には石原慎太郎都知事らが参列する。

 なにかが変わりつつある。


近藤伸二(こんどう しんじ)
1956年神戸市生まれ。神戸大学経済学部卒業。毎日新聞社に入社し、外信部副部長、香
港支局長を経て、台北支局開設にともない99年、初代支局長に就任。2002年に帰国後、
大阪経済部長などを経て、06年から論説委員(大阪在勤)。94年から1年間、香港中文
大学に留学。著書に『台湾新世代−脱中国化の行方』(凱風社、03年)、『続・台湾新
世代−現実主義と楽観主義』(同、05年)などがある。

■著者 近藤伸二
■書名 『反中VS親中の台湾』
■版元 光文社新書 http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334034542
■体裁 新書判
■定価 777円(税込)
■発売 2008年5月16日