後継首相候補の麻生太郎氏に期待する台湾と警戒感を示す中国

改めて麻生氏が提唱した「自由と繁栄の弧」を見直す

 9月2日付の台湾と中国の新聞メディアは福田康夫首相の突然の辞任表明を大々的に報
じた。しかし、そこにはかなりの温度差が看て取れる。

 中国が「福田首相は重要な貢献をした」(中国外交部の姜瑜報道官)と高く評価して
いるのに対して、台湾は感謝の意を表するものの「台日関係は福田首相の辞任により影
響を受けることはない」(外交部の陳銘政報道官)と、冷ややかと言っていいほどの評
価だ。

 それが、後継首相として本命視される麻生太郎・自民党幹事長に対する評価となると、
真っ向から割れてくる。

 王金平・立法院長は「麻生氏は台湾に対して大変友好的で、台湾の各界のリーダーら
との関係も良い。その友情は深く、台湾への支持も固い」と絶賛し、亜東関係協会の陳
鴻基会長も、麻生氏が自民党政調会長の時にSARS流行の中を押して訪台したことを
挙げ「台湾に深い感情を持っている」と、期待がにじむ。

 ところが、中国のインターネットでは「台湾を『国家』と呼んだ極端な右翼」「猟銃
で撃ち殺せ」などという書き込みが相次いでおり、メディアの中にも「外交分野では典
型的なタカ派だ」と分析する報道があり、警戒感を示しているという。

 予想どおりの反応ではあるが、麻生氏が後継首相に就く可能性は高い。そこで思い出
したいのは2年前の平成18年11月、麻生氏が安倍首相時代の外務大臣として「自由と繁
栄の弧」を提唱したことだ。「自由と民主主義、市場経済と法の支配、そして人権を尊
重する国々」との連携が世界秩序を作るとする「自由と繁栄の弧」の構想は、安倍首相
が進めた「主張する外交」の機軸となったことは未だ記憶に新しい。

 このとき、親台湾派から「自由と繁栄の弧の形成」という図表からは台湾が意図的に
隠されているという批判が出た。確かに台湾は「日CLV会議」という表示の下に位置
していた。しかし当時、自民党政調会長だった中川昭一衆議院議員にインタビューした
際、中川氏は「日台間はこのような基本的価値観を共有できる関係にあります。残念な
がら正式な国交はありませんが、すぐお隣りにある価値観が共有できるところだと思い
ます」(『日台共栄』第16号、平成19年3月号)と明確に述べ、そのような批判を一蹴
した。

 もし麻生氏が首相に就いたとして、この「自由と繁栄の弧」という名称はどうあれ、
基本的な外交姿勢に変化はないだろう。

 そこで、いずれも外務省ホームページに掲載されているが、平成18年11月30日に日本
国際問題研究所主催のセミナーにおいて「『自由と繁栄の弧』をつくる」と題しておこ
なった講演と、平成19年1月26日に国会開催に際して行った外交所信演説を併せてご紹
介しておきたい。                          (編集部)

■麻生太郎外務大臣講演 「自由と繁栄の弧」をつくる
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/18/easo_1130.html

■第166回国会における麻生外務大臣の外交演説
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/19/easo_0126.html



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