「混迷の時代、国家の要諦とはいかに生存するかではなくいかに超越するかである」と題
して寄稿されている。
そのリードで「自らの後を継いだ指導者たちの相次ぐ失墜に、李登輝元総統はいま、何
を思うのか。このたび、元総統は自ら日本語で筆を取り、現状への憂慮と、今後、台湾が
立ち直るための指針を示した」と書く。「SAPIO」編集部の意気込みのほどもよく伝
わってくるリードだ。
この論考で李元総統はサミュエル・ハンチントンの説を手がかりに台湾における民主化
の「病理」を検討する必要を述べ、馬英九政権の中国傾斜について「92年コンセンサス」
などなかったことを枕に、「馬政府は政治的な措置であれ、経済的な措置であれ、すべて
を終局統一という目標に向かわせており」、それは台湾の前途は台湾人民によって決める
とした選挙公約を無視するものだと指摘する。
また、馬総統が台湾と中国の関係を国と国との関係でないと宣言したことも「こうした
対外的な自己否定は主権独立国家の行為とはいえません。これは国家を裏切り、人民の期
待を失するものです」と手厳しく非難する。それ故、台湾の前途は「公民投票」を行って
決めるべきだと主張する。
さらに、陳水扁前総統という固有名詞を出さずに「ある政治家の海外送金事件」につい
てはさらに手厳しく、「民主参与者本人の腐敗と、それに垂れ下がる集団の腐敗は、台湾
民主陣営の心腹内の禍」とし、「危険性の上では、内部の禍は外部の脅威より小さいとは
いえません」と剔抉している。
そこで、台湾の民主化にとって最も憂慮しなければならないのは、「ブルー陣営とグリ
ーン陣営の対立ではなく、社会正義が行われているかどうかなのです。ブルーで反社会正
義なら悪、グリーンで反社会正義ならやはり悪です」と持論を展開されている。
1923年(大正12年)生まれの李元総統はこの1月15日で満86歳を迎える。「民主化への
意欲はいっそう強く、思慮は深い」とリードで述べるが、同感だ。台湾の羅針盤は李登輝
にありの観をいっそう深くする論考である。ぜひご一読を。
この「SAPIO」誌では、小林よしのり氏の「ゴーマニズム宣言スペシャル」『天皇
論 第2章 雅子妃への祈り』もお奨めしたい。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)
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