初旬、県下の公立高校として1年生314人が初めて学年単位での台湾への修学旅行を行った。
このことは本誌でも何度かご紹介しているが、この台湾修学旅行に率先して取り組んで
きた校長の白濱裕(しらはま・ひろし)氏は、事前研修として金美齢氏を招いて講演会を
開催したり、何度も訪台して交流する高校と打ち合わせるなど、かなり入念に準備してき
た。
白濱校長は台湾修学旅行を実施した感想を、金美齢氏の講演会を主催した熊本教育振興
会に呈しているので下記にご紹介したい。
また、この修学旅行にはPTAの有志も同行参加しており、その中の平川一美さんが地
元紙「熊本日日新聞」にその感想を投稿、掲載されている。併せてご紹介したい。
ちなみに、公立・私立の高校における海外への修学旅行先は34カ国にのぼっていて、上
位10カ国は、1)アメリカ:225校、2)オーストラリア:215校、3)韓国:196校、4)シン
ガポール:161校、5)マレーシア:131校、6)中国:97校、7)カナダ:63校、8)台湾:
55校、9)フランス:53校、10)英国:39校となっている。
これは文科省がまとめている平成20(2008)年度の資料によるが、平成18年度まで上位
10カ国に入っていなかった台湾が初めてランクインしている。また、平成16年度に102校
(4位)、18年度に131校(5位)も行っていた中国は、調査のたびにランクを落とし、20年
度は97校(6位)となっている。
昨今の中国と台湾の情勢などからみると、恐らく今後は台湾への修学旅行が増え、中国
は減ってくるだろう。修学旅行を通じ、多くの高校生が日本と運命共同体の関係にある台
湾の重要性について知ってもらいたいものだ。
台湾への修学旅行を実施して 白濱 裕(熊本県立大津高等学校校長)
最近、外国への留学生の減少に見られるように若者の「内向き志向」が指摘されていま
す。今日のグローバル社会において、国際感覚を磨き、日本人としての自覚を持たせるた
めにはまずパスポートを取らせ、日本を一歩出て外国の若者と交流することが第一歩であ
ると考え、大津高校では、昨年12月7〜10日に、台湾への修学旅行を実施しました。
本県の県立高校で学年単位としては初めてということで、準備段階で、交流校や見学場
所の選定、生徒の安全確保のため数度にわたって渡台し、入念に準備を行ってきました。
また、「物見遊山」の旅行に終わらせないために、台湾の歴史や地理、社会状況などにつ
いて、事前にしっかり学習して臨むことが必須である。その講師として最もふさわしい方
は金美齢先生をおいて他にない、と思い定め、熊本教育振興会の役員の皆様に、金先生の
大津高校での講演会開催をお願いした次第です。
当日は、「くまもと教育の日」講演会も兼ね、全校生徒や保護者、地域住民の方々約15
00人の聴衆で体育館が満杯となりました。金美齢先生は、日本統治下の台湾で、烏山頭ダ
ム建設のため心血を注いだ八田與一技師や、台湾教育に身命を捧げ芝山巌に眠る「六士先
生」の事績などについて紹介され、日本と台湾は運命共同体であり、東日本大震災に際し
て200億を超える世界一の義捐金が寄せられた背景に、台湾のために血と汗を流したこれら
日本人の存在があることをお話しいただきました。その後の生徒の意識の変化は、感想文
にも見られるように目覚ましく、事前学習も大きく進展しました。
さて、1年生314名と引率団は、12月7日、県交通政策課の計らいによる阿蘇くまもと空港
での出発セレモニーを経て、クマモンに見送られ中華航空ジャンボ機によるチャータ便で
飛び発ちました。台湾では、台北市内や台南の烏山頭ダムなどの史跡見学や、新北市立海
山高級中学校との交流を行いました。交流会では、本県の観光PRビデオの上映や本校紹
介の後、金美齢先生デザインによる「多謝」と染め抜かれたTシャツを着た代表生徒が横
断幕を掲げ、多額の震災の義捐金に対する謝辞を述べたり、双方から剣道の型や儀仗隊演
技の披露を行いました。その後、いよいよメインイベント、女子バスケットボールの親善
試合です。台湾チームは全国、本校は県三連覇の実績をもつチームですが、実際の試合は
予想通り白熱し、最終的に49対49のタイで終了するという劇的なゲーム展開となりました。
その後、生徒達は授業に参加したり、日本語を学んでいる台湾の生徒と一緒に台北市内の
班別自由行動を行いました。夕方、ホテルでの涙の別れのシーンは今でも瞼に焼き付いて
います。やはり国際交流は若者同士から始まると確信しました。
さらに、特筆すべきは、本校PTA新旧役員の皆さんが同行し、交流校のPTAとの懇
談会を通して有益な意見交換ができたことです。また、熊本南ロータリークラブの壽崎様
のお世話により、美術コースの生徒が台北市の大同ロータリークラブ会員のご家庭でホー
ムステイを体験させていただき、台湾の生活文化に直に触れることができたことも大きな
収穫でした。さらに、昼食時には、JA熊本経済連のご厚意により提供していただいた大
津特産のからいもが振る舞われ、「おいしい、おいしい」という声があちこちから聞こえ
ました。
今回の修学旅行を通して、生徒達が世界に大きく眼を開き、率先して国際貢献に志すき
っかけとなることを願っています。本校では、来年度も第2回の台湾への修学旅行を実施
し、さらに交流を深める予定です。これを皮切りに今後、本県の高校が陸続として台湾へ
の修学旅行を実施し、ひいては、本県と台湾間の教育交流のみならず、観光・物産・交通
の活性化に繋がることを念願しています。
最後に、今回の修学旅行を成功裡に終えることができたのも、金美齢先生のご講演とい
う「魂」を吹き込んでいただいた熊本教育振興会の皆様のお蔭と改めて厚く御礼申し上げ、
ご挨拶といたします。
【生徒短歌作品】
秋の日に異国の地へと旅立った心優しき麗しの国へ
交流会みんなで楽しくしゃべったよ班行動も楽しかったね
女子バスケ意地の張り合い白熱戦力出し切り結果に笑顔
自主行動自分たちで行動し深まりあってくみんなの絆
台湾も大切なのは英語力使いこなせば世界広がる
八田さん台湾の歴史に名が残る存在大きい日本の先輩
台湾に潤い齎(もたら)す烏山頭汗と涙の努力を残し
台湾のいろんな所見てまわり心に残る人の優しさ
初めての台湾旅行忘れないみんなと一緒に過ごした時間
初めての台湾の地で学んだよ日本人って愛されていると
台湾で人に出逢って気付かされた二つの国のそれぞれの良さ
台湾修学旅行 大きな成果が
平川 一美 48=POPライター(菊陽町)
【熊本日日新聞:2012年1月8日「読者のひろば」】
大津高校1学年の修学酌旅行。この県内の公立校では初めての試みとなる台湾への学年全
員での修学旅行に、私はPTAとして参加した。
「全員にパスポートを」─国際感覚や広い視野をできるだけ早く持たせたいとの校長先
生の熱意のもと、2年も前から入念に計画されたとお聞きした。初の試みに立ちはだかる壁
は想像にかたくない。しかし、大人たちの壮大なチャレンジ精神がついにこの旅行を実現
させた。選ばれた者だけではなく、1学年全員がパスポートを片手に同じラインに並んだ。
世界一の親日国とはいえど海外。緊張もあっただろうが、もはや大津高の伝統といえる
「凡事徹底」の指導が、台湾海山高級中学との交流の場でも、街角でも、自然なあいさつ
となって表れた。その飾らない礼儀正しさで、きっと、またたくさんの絆が生まれたに違
いない。一人一人の揺るぎない絆が、やがて国と国とをつなぐ絆となる。
不安と期待で出発した国際線ロビーに、安心と自信で顔を輝かせ帰着した生徒たち。彼
らにはこれからは地球が舞台、見上げる空の先に広がる世界に、親の私もわくわく感を隠
せない。