【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2023年8月2日号】https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付けたことをお断りします。
◆「一帯一路」に参加して対中貿易赤字が大幅拡大のイタリアの決断
イタリアは西側主要国で唯一、中国が主導する「一帯一路」に参加している国ですが、同国のクロセット国防大臣は地元紙へのインタビューで、2019年に当時の政権が一帯一路に参加したことについて、「行き当たりばったりでぞっとする決定だった」と批判しました。
台湾の「自由時報」はその発言内容をもっと詳しく報じています。
クロセット国防大臣は「イタリアの対中輸出は、一帯一路参加以来の4年間でオレンジが1回売れただけ」「その一方で中国のイタリアへの輸出は2倍に増えた」「一帯一路は邪悪な計画」「一帯一路協定を結んでいないフランスは、中国に対して飛行機を数百億ドルで売っている」とも発言したそうです。
クロセット国防大臣が言うように、イタリアの中国からの輸入額は2019年に317億ユーロ(約4兆9000億円)だったものが2022年には575億ユーロ(約8兆9000億円)と約2倍に増える一方、イタリアからの中国への輸出額は130億ユーロ(約2兆円)から164億ユーロ(約2兆5000億円)とわずかに増えただけで、対中貿易赤字が大幅に拡大しただけの結果になっています。
中国と締結している一帯一路に関する協定は、来年はじめに期限が切れるということで、もともと中国との協力継続に反対してきた現メローニ政権が更新する可能性は極めて低いと見られています。
そもそも、中国経済自体が減速している現状で、「中国の広大な市場」を当てにして輸出増を期待することなど望み薄です。ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授も、中国経済は「日本の二の舞いどころか、もっと悪くなる」と述べています。「中国が他国から利益を奪うための一帯一路」という本性を隠しきれなくなってきているのです。
すでにイタリアの中国離れは目に見えるかたちで進んでいます。前掲の「読売新聞」(2023年8月1日付)によれば、イタリア中国協力の目玉事業とされてきた北西部ジェノバ港沖合の防波堤拡張の海底工事は、一帯一路の締結時に中国国有企業の参入が明記されたものの、今年5月からの着工では中国からの投資は見送られ、イタリア企業4社のみで事業を請け負ったそうです。
その他、北東部トリエステ港のドック拡張事業も同様に、中国を外した形で進められているとのことです。その背景には、米中の緊張関係やコロナ禍があったようです。
中国側はイタリアの一帯一路離脱をなんとか阻止しようと必死で、中国共産党中央対外連絡部の劉建超など幹部をイタリアに送り込んで説得に当たっているようですが、おそらく徒労に終わるでしょう。イタリアが一帯一路から抜ければ、西側諸国のみならず、途上国の一帯一路に対する疑念、懸念はさらに拡大し、離脱の連鎖を招く恐れもあるので、中国としては戦々恐々でしょう。
4年前にイタリアが参加したことで、「西側主要国すら中国になびいている」と大々的に喧伝した中国ですが、現在ではこれが仇になっているかたちです。
◆安全保障上にも大きな問題がある中国との共同事業
今年は習近平政権が一帯一路の前進である「シルクロード経済ベルト」構想を打ち出して10年目であり、さまざまなイベントが行われるようですが、中国としてはあまり大きく宣伝していません。というのも、これまでの首脳会合でも出席率は参加国全体の3割程度で、さらにプーチンが出席を表明したことで、欧州からの参加は望めず、さらに出席国が減る可能性があるからだとされています。
加えて、中国と共同事業を行うことについては、安全保障上にも大きな問題があります。先日、アメリカのグアムなどにある軍事基地につながる送電や通信を操作するコンピュータネットワーク深部に、悪意のあるマルウエアが仕掛けられていることが発覚しました。アメリカの情報当局は中国による工作活動だとみています。
このマルウエアは、有事の際に発動する仕組みで、緊急事態が起こったときに米軍を混乱に陥れ、対応を遅らせるために埋め込まれたと見られています。今年5〜6月には、駐中国大使らのメールアカウントが中国のハッカー集団の攻撃対象になっていたことが最近明らかになっていますが、このマルウエアはかなり巧妙に埋め込まれており、どのような経路で入り込んだのかはわかっていないようです。
これまでかなり中国に対して警戒してきたアメリカでさえ、中国の工作活動を完全には除去できていないのです。ましてや中国との協力事業を抱えているような国では、工作し放題といっても過言ではありません。日本などは格好のカモでしょう。
いずれにせよ、イタリアは今年年末には離脱を決定、発表するでしょう。そのときが一帯一路崩壊の始まりになると思われます。
◆中国の誘惑をはねつける中米の小国グアテマラ
もう一つ、一帯一路のニュースを紹介しましょう。
これまで、一帯一路は主に経済支援を必要としている国に対して、経済的投資を条件に参加させてきました。そして、一帯一路参加国のインフラ建設を請け負う一例として、インドネシアの高速鉄道建設は中国が受注して工事を始めました。
ところが「インドネシアに負担を求めない」としながらも、工事行程は延期を繰り返し、8月に開業が決定してもなお、延長を重ねた分の工費についての決着がついていません。
やはり中国は張子の虎で、所詮、口約束はできても、それを実行する実力も行動力もありません。これまで伝家の宝刀として振りかざしてきた経済力でさえ、コロナ禍を経て弱ってきています。中米の小国グアテマラは、そんな中国の本性を見抜いていました。
グアテマラのアレハンドロ・ジャマティ大統領は読売新聞の単独インタビューに対して、中国から「台湾との断交」を条件に巨額のインフラ投資や新型コロナワクチンの提供など、様々な申し出を受けたものの、いずれも拒否したことを明らかにしました。
「我々は友人(台湾)を売り渡す習慣はない」と述べ、台湾との外交関係を維持する姿勢を強調しています。
中南米やカリブ地域には、台湾と外交関係を結ぶ13か国のうち7か国が集中しており、中国の横やりによって、台湾と断交する「断行ドミノ」現象が進んでいました。そんななか、グアテマラは「台湾との断交」を条件にした融資も、コロナワクチン提供も、拒否し続けてきたのです。
読売新聞はまた、次のように報道しています。
<グアテマラは台湾と国交を結んだ1960年以来、友好関係を築く。ジャマテイ氏は国連総会で台湾の加盟を求めて演説し、世界保健機関(WHO)へのオブザーバー参加を支持。今年2月には台湾の無償援助で国立病院が完成した。「国の問題が発生するたびに、台湾は常に真っ先に援助してくれた」と語った。
グアテマラの公的債務残高は対国内総生産(GDP)比で30%未満と世界的にも低い水準であることを踏まえ、「中南米で中国は多くの約束をしながら、国民にはほとんど何も提供していない。私たちは長期的な経済政策を取る」と語った。>
グアテマラは、昨年8月に中国が台湾周辺で大規模軍事演習を行った際に、いち早く台湾への支持を表明しました。今年3月末には、蔡英文総統がグアテマラを訪問し、友好を深めています。
グアテマラも、ジャマティ大統領の任期満了に伴う退任が来年1月に迫っており、次期大統領はジャマティ路線を引き継ぐ候補者と中国寄りの候補者との対立の構図になっています。しかし、一帯一路の評判が悪ければ悪いほど、ジャマティ大統領の英断が評価されることでしょう。
中国は、世界を我が物にしようと、世界を巻き込んで「一帯一路」経済圏などと大風呂敷を広げるべきではありませんでした。中国の国内問題であれば、どんな愚策でも国民にノーとは言わせず強制的に継続させることができますが、世界はそうはいきません。一帯一路は、身の丈に合わないことをした中国の失策と言わざるを得ません。
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