【震撼弾】宋楚瑜、総統選出馬の波紋

迫田 勝敏(ジャーナリスト)

 民進党・蔡英文(58)対国民党・洪秀柱(67)の女同士の戦いだった来年の総統選に親民党の宋
楚瑜(73)が割り込んできた。宋はもともと国民党。その票田は洪と重なり、国民党系の藍陣営内
の争いの側面が強い。その意味では民進党の蔡優勢は変わらない。それでも宋が出馬する狙いはな
にか。大逆転はあるのか。台湾政界に大きな波紋を呼んでいる。

◆当選はおぼつかないが…

 宋は2000年の総統選に初めて参選、以後、04年、12年にも参選し、今回で4度目。総統選に4回も
立候補とは前代未聞だ。04年は国民党の連戦とペアで、副総統候補だったが、民進党の陳水扁・呂
秀蓮組に僅差で敗れた。しかし12年は国民党の馬英九、民進党の蔡に遠く及ばず、得票率は僅か
2・76%。政界引退を表明せざるを得なかった。

 その宋に勝ち目はあるのか。今回は2000年の総統選に似ている。この時は国民党の連、民進党の
陳と親民党の宋の三つ巴で争った。宋は当選こそできなかったが、連を引き離し、次点だった。国
民党の惨敗は連の不人気が一因。今回の国民党も洪が連以上に不人気。国民党員の中には、総統選
と同時選挙の立法委員選に親民党から立候補を目指す人も出ている。

 洪の不人気の原因の一つは対中国姿勢だ。国民党は「終極統一」をいう総統の馬のように統一志
向。ただ、将来は統一を目指すが、今は現状維持というのが大勢。その中で洪は急統(急進統一)
派。宋の出馬はこうした国民党内の急統派以外の票が念頭にある。だが、民進党など野党の票の獲
得は困難。台湾指標の支持率調査でも蔡37%に対して、宋20%、洪17%で当選はおぼつかない。

◆母鶏が雛鶏を引っ張って…

 それでもなお宋は勝ち目のない選挙に出るのか。「母鶏帯小鶏」という人もいる。雌鶏が雛を連
れて水場に行くように、宋という母鶏が立法委員選に出馬する雛鳥の候補たちを連れて参選し、宋
の人気で雛鳥たちの得票に上乗せしようという作戦だ。狙いは総統選での当選ではなく、立法委員
選。親民党は今は、泡沫化しているが、今後は立法院内で一定の勢力を確保しようというわけだ。

 立法院(国会)の定数は113で、うち国民党が65議席を占め、過半数を制している。民進党は40
で、台湾団結連盟が3、親民党は2つしかない。だが、もともと親民党は国民党と同根で、国民党籍
の中には親民党に近い人が多い。しかも国民党主席、朱立倫は「船を乗り換えてもいいが、国民党
批判は許さない」と離党を黙認するような言い方をしている。

 それだけに国民党の洪の人気が低迷すればするほど、鞍替えが増えるかもしれないし、立法院で
の親民党の議席が増える可能性はある。関係者によると、目標は10議席程度とか。立法院での勢力
は国民党が低落、民進党は上昇傾向だが、どちらも過半数(57席)を取れない可能性もある。その
場合、10議席があればキャスティング・ボートを握れる。上手くいけば、連立政権で閣僚ポストを
得られるかもしれないし、場合によっては宋が行政院長(首相)ということも!

◆洪降ろしで勝ち目が…

 宋は1963年に台湾省主席に就任、翌年の制度改革で省主席選挙に出て、当選し、約5年、省主席
を務めた。この間、各地を回り、視察先で道路や橋の建設、公共施設など要望を聞くと、すぐに実
行し、その実績で今でも地方には宋ファンが多い。今回の出馬宣言後の宋人気は当時の宋ファンが
ベース。加えて洪の不人気が宋の人気をさらに集めている。

 とはいえ、政治ニュースの主役の座を宋が独占するような今の報道振りはいささか異常だが、そ
れはメディアの中にある一つの観測があるからだ。それは国民党の予備選当時からある洪降ろしが
あるという観測だ。民主的手続きで選出した候補を強制的に降ろすのは無理があるが、方法はあ
る。候補不適任を宣告するネガティブ・キャンペーンで党中央が辞退させること。予備選の段階で
も学歴疑惑や乳癌情報などを流したが、洪降ろしはできなかった。しかしもっとインパクトのある
疑惑を流すことはあると消息通はいう。

 洪降ろしが成功すれば、誰を新たな候補者にするかが問題。そこに登場するのが宋だ。前述の世
論調査の数字を見て欲しい。蔡の37%に対して宋と洪を合計すると、37%。蔡優勢といわれ、洪の
不人気が明らかなのに、各種世論調査で蔡の支持率は50%を越えることはない。民進党の固い票は
40%前後ともいわれる。それだけに国民党が宋と手を組めば、勝機はあると消息通はみる。外省人
である宋自身もかつての白色テロ時代の過ちを謝罪したり、反省を強調したりして、台湾寄りの姿
勢を見せ、その気十分。

 もっとも、台湾意識の拡大は基本的には親中の国民党嫌いが背景にある。藍陣営の逆転勝ちは容
易くはない。(敬称略 )

                      【「透視台湾」(EconoTaiwan 速報掲載)8月号】


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