【今日が大晦日】台湾の正月の風習を中国式に解釈するのはどうか?

「台湾の声」【今日が大晦日】台湾の正月の風習を中国式に解釈するのはどうか?

台湾の声編集部 多田恵 2018年2月15日

 今年の旧正月は2月16日(金)。旧正月の「さんがにち」と大晦日がそれぞれ休日とされ、土日と重なるための振替休日がある。2月15日から2月20日までが行政院が発表した休日である。

 台湾のテレビ局「民視」のウェブサイトでは昨日、台湾の正月料理について、台湾風俗の専門家である林茂賢氏が提供した記事を配信した。

 「過年民俗想看覓 不要用北京習俗解釋台灣年俗─應景食物篇」(正月の習慣を考えてみましょう 北京の風習によって台湾の正月の習俗を解釈しないで 時節の食べ物篇)と題するこの記事の冒頭は、「もうすぐお正月(年越し)です。あなたはまだ中国の風習によって台湾の正月の習俗を理解しているんですか?台湾の年越しの縁起のよい食べ物はどんなものがあるか知っていますか?」と問いかけている。

 以下、その記事を抄訳するが、台湾メディアの仕事ぶりについての林茂賢氏の指摘が正しいとすれば、文化の記述の正確性という、社会にとって、一見、「死活的に重要」とは見なされないものが、メディアのちからによって捻じ曲げられることで、新旧中国による台湾への侵略を許す道を開いているといえるのではないか。各媒体の伝え手は、文化についての報道であってもそれなりに裏を取る必要があり、社会の人々も報道や学問の正確性について留意しなければならない。さもなくば、社会がこれまで積み重ねてきた努力、そしていつか民族そのものが崩壊してしまうだろう。

「過年民俗想看覓 不要用北京習俗解釋台灣年俗─應景食物篇」
(正月の習慣を考えてみましょう 
 北京の風習によって台湾の正月の習俗を解釈しないで 時節の食べ物篇)

民視(フォルモサ・テレビ) 2018-2-13 17:00:16

文:林茂賢

 旧暦の新年が近づくと、各メディアが台湾の年越しの習俗を報道するが、長い間、多くのメディアや書籍では、「北京の正月の習俗」によって、台湾の正月の習俗を説明していた。

 たとえば、「臘八粥(八種の穀物類で作った粥)」、「送灶王爺(かまど神送り)」、「迎財神(財神迎え)」といったことが言われているが、実際には台湾にはそもそもこういった慣わしは無かったのに、メディアは見て見ぬ振りをして、受け売りで報道している。

 北京の方式で台湾の正月の習俗を解釈すると、たとえば、甘い餅(甜粿/tiⁿ-kóe/ティーコエ。中国語では「年糕/ニェンカオ」)を、「年年高昇/ニェンニェンカオシェン/毎年昇進するように」と理解し、昇進を願ってのことと説明したり、魚(hî/ヒー。中国語ではユィ)を食べることを、「年年有餘/ニェンニェンヨウユィ/毎年余りがあるように」、つまり、豊かさを願ってのことだと説明することになってしまう。

 他方、台湾の正月の慣わしのうち、最も重要な、「長年菜/tn̂g-nî-chhài/トゥンニーツァイ/(後述)」、「飯春花/pn̄g-chhun-hoe/プンツゥンホエ/後述の「春仔花」に同じ」、「筅黗/chhéng-thûn/チィントゥン/すすをはらうこと」.、「挽面/bán-bīn/バンビン/伝統的な方式で顔の毛を抜く美容法」、「拜地基主/pài
tē-ki-chú/パイテーキーツウ/後述の地基主を礼拝すること」、「行春/kiâⁿ-chhun/キアツゥン/(後述)」といった習俗については言及されたことが無い。

 台湾の習俗では、年越しのときは、地基主(tē-ki-chú/テーキーツウ/〔敷地の神、家の神〕)を礼拝し、夕暮れ時に祖先を礼拝する。大晦日の豪勢な夕食は、「圍爐/ûi-lô͘/ウイロオ/炉を囲む」と呼ばれる。この「圍爐」のときに、必ず、「長年菜/tn̂g-nî-chhài/トゥンニーツァイ」を食べて長寿を願う。「長年菜」というのは、一般的にはカラシナ、台湾南部では多くは、根がついたホウレンソウで作る(長寿を願うので切らずに調理する)。

 台湾の年越し料理に込められた意味も、中国とは当然、きわめて異なる。それなのに多くのメディアは北京語(中国語)の押韻として説明している。台湾語で押韻するとは限らないのであるから、そのような説明は台湾の習俗とは言えない〔林氏が押韻(おういん)と言っているのは、押韻が「かけことば」として機能しているため〕。

 たとえば、先ほどの甘い餅(甜粿/tiⁿ-kóe/ティーコエ)に込められた願いは、「毎年昇進する」ではなく、「甜甜好過年/tiⁿ-tiⁿ

kòe-nî」、つまり、順調に年が越せるようにというものだ〔甜と年が押韻、粿と過が同音になる〕。

 そのほか、台湾の年越し料理に込められた願いとしては、次のようなものがある:

「吃土豆會吃老老/chia̍h thô͘-tāu ē chia̍h
lāu-lāu」ピーナッツを食べればとても長生きする〔豆と老が押韻〕

「吃豆干會作官/chia̍h tāu-koaⁿ ē
chò-koaⁿ」干し豆腐を食べればお役人になる(昇進)〔官と干が押韻〕。

「吃甜甜大賺錢/chia̍h tiⁿ-tiⁿ thàn
tōa-chîⁿ」甘いものを食べて大いにお金を儲ける〔甜と銭が押韻〕

「吃棗年年好/chia̍h chó nî-nî
hó」ナツメを食べると毎年良くなる〔棗と好が押韻〕

 そのほか、大根(菜頭/chhài-thâu)は幸運(好采頭/hó-chhái-thâu)を表し、割れ蒸しパン(發粿/hoat-kóe)は「發財/hoat-châi」、つまり、大量の財宝を手に入れるという願いを表す。

 中国では年越しの際に魚を食べることは、「毎年余りがあるように」という願いを表す。台湾の伝統的な正月の習俗においては、「圍爐」の際に魚は食べるが、これにはいかなる含意も無く、多くは、祭祀に必要な「三牲/sam-seng/サムシィン/鶏・魚・豚の捧げ物」に魚が含まれるために食べるというだけである。

 「余り」を願うことについては、台湾では様々な方法がある。台湾語では、余りがあることを「有剰〔/有伸〕/ū
chhun/ウツゥン」と言うが、このchhunは、「春/chhun/ツゥン」と同音であり、そのため、台湾の民間の習俗においては、(年越しのお供えの)ご飯の上に「春仔花/chhun-á-hoe/ツゥナホエ」と呼ばれる造花を挿して、米飯に余りがあることを表す。

 また、新年の「吹春〔/噴春〕/pûn-chhun/〔正月に伝統的な楽隊を組み家々を回って演奏し祝儀をもらい歩くこと〕」、出かけて「行春/kiâⁿ-chhun/〔元旦に、新しい服や靴を着て、良い時刻に良い方角に向かって出かけ、初詣をするなどすること〕」も、台湾版の「毎年余りがあるように」願う方法である。

 民俗というものは、人々が普遍的に守ってこそ民俗となるので、異なる場所では異なる生活習俗が発展する。民俗には、正しいとか間違っているとか、優劣高低は無くて、それぞれにスタイルや特色がある。台湾の正月の習俗は異なる民族文化と相互に影響を受け、生活の環境からの影響も多く受けており、中国とは同じではない。正月の食事が表す意味も、言語や環境の違いによって、当然のことながら、解釈も異なる。したがって、もうこれ以上、台湾の正月の風習を中国文化で説明するべきではない。さもないと子孫たちに台湾の風習は中国の風習と同じだと思わせてしまうことになる。


台湾の声

バックナンバー
http://ritouki-aichi.com/category/vot

登録/解除
http://taiwannokoe.com/register.html

Facebook
https://www.facebook.com/taiwannokoe

Twitter
https://twitter.com/taiwannokoe

※この記事はメルマガ「台湾の声」のバックナンバーです。
講読ご希望の方は下からお願いします。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: