多田恵
これも台湾に住む友人の指摘である。
中国では漢民族、いわゆる中国人が「少数民族」を「浄化」、つま
り消滅させようと、「少数民族」地域への植民活動をはじめ、人道
に反する措置さえも行っているという。
そういった「浄化」が台湾でも行われたというのである。
最近も、台北県副県長との不倫で世間を騒がした高金素梅は、父親
が「外省人」、母親が原住民である。このようなケースは多い。
一般的には、嫁の来手がないような「外省人」下級兵士が、貧しい
原住民地域から嫁を買ったためと説明されている。
しかし、友人の指摘では、大学教員のようなエリートでも、原住民
と通婚するケースがあり、中国国民党が政策として推進したのでは
ないかと疑われるという。
確かに『高山青』という中国語の歌は、「阿里山の娘は水のように
美しく、阿里山の若者は山のように強い」と歌い、原住民地域への
エキゾチックな関心を呼び覚ましている。あたかも、中国へ帰れな
くなった兵士たちの目を台湾、とくに、原住民女性に向けさせよう
とするかのようである。
国会審議への出席率が悪く、台湾のために仕事をしているのかと疑
われている高金素梅が、中国の意を受けて動いていることは、多く
の台湾人が肯首するところである。
「民族浄化」そのものは達成しなかったが、原住民社会に大きな影
響を残し、ホーロー人やハッカ人といった、ほかの台湾人との間の
亀裂を深める効果はあったのである。
完全に達成されはしなかった要因は、原住民地域では、中国人が重
視する経済的利益が期待できなかったためであろう。
支配者として君臨した「外省人」の視点からすれば、自分たちより
も人口の多い、ホーロー人やハッカ人に対しては、この方法は通用
せず、かえって同化される恐れがあった。
また、ホーロー人やハッカ人は、中国の版図に文化的源流をもち、
中国的と強弁できなくもないが、原住民は台湾の非中華性を最も体
現している民族であり、台湾を中国であると言い張ろうとするとき
の障害であった。
状況証拠は十分にあるのだが、この通婚奨励が政策であったことを
裏付ける直接の証拠はまだ発見されてはいないという。
ただし、非漢民族を抹殺しようとした証拠は残っている。台湾総督
府が創設した戸籍制度では、民族別が「福」(「福建人」。ホー
ロー人)、「廣」(「広東人」。ハッカ人)、「熟」(「熟蕃」。
平埔族)などと記されていたが、中華民国が台湾へ進駐すると、
「熟」の字を墨塗りして消してしまったのである。一方、「福」、
「廣」はそのままであった。
台湾の原住民族は清朝時代から「熟蕃」と「生蕃」に分類されてい
た。熟蕃というのは、「蕃人」のうち、漢化(漢民族へ同化)した
ものを指す。生蕃は、典型的な原住民であり、その主な居住地域は、
清朝時代から戦後かなり最近まで、行政的に異なる形で統治されて
いた。
「熟蕃」は、現在、台湾語での呼び方である「平埔族」という名称
で呼ばれている。漢化の程度は、部族によって異なり、現在公式に
原住民族認定された、サオ族や、カバラン族も「熟蕃」であった。
台湾南部のシラヤ族は、今、原住民認定を求めている。
つまり、中華民国は、平埔族が平埔族であることを法的に証明する
証拠を消し去ろうとしたのである。平埔族は文化的には漢化が進ん
でいて、日本統治時代も行政上、ホーロー人、ハッカ人と同様に扱
われていた。戸籍上の記録さえ消してしまえば、中華民国統治下で
漢民族に完全に同化されるのは時間の問題となる。非漢民族への民
族浄化は、ここでは、行政という資源を使って行われていたのだ。
そういえば、台湾では、白色テロ関連の文書が国民党によって処分
されてしまうのではないかと危惧する声が挙がっている。