あの大阪の青年に、もう一度会いたい

駐福岡経済文化弁事処長(総領事)陳銘俊の一筆両断
あの大阪の青年に、もう一度会いたい

2021/12/26産経WESTより

今年10月に台北駐福岡経済文化弁事処(台湾の領事館に相当)の処長(総領事に相当)に着任した陳銘俊です。日本は大阪、東京に次いで3度目の勤務ですが、九州・山口は「台湾びいき」の方が多く、忙しい中にも毎日いろいろな方とお会いして元気を頂いています。

ところで私はいま、22年前に大阪で出会った青年のことが気にかかっています。それは1999年9月21日に台湾で起きた「921大地震」(台湾大地震)の直後のことでした。この地震は台湾中部の南投県を震源として発生したもので、約2500人の死者を出した台湾では20世紀最大の地震でした。

当時、台北駐大阪経済文化弁事処に勤務していた私がテナントとして入居していたビルのエレベーターホールの前を通りかかったところ、中からボサボサ頭の青年が降りてきました。身に着けている服装も決して上等とはいえず、多少不審な気持ちを抱きながら「どちらへ?」と声をかけると、「ここは台湾の領事館ですか?」と聞かれました。「はいそうです」と答えてとりあえず中に招き入れると、彼は両手に持っていた大きな箱を机に置きながら「今回の地震で被災した台湾の方に届けてほしいと思って、街頭募金をしてきました」と言うのです。ありがたく受け取って「お名前を聞かせてください」と言っても名乗らず、すぐまたエレベーターに乗り込んで姿を消しました。私は大きな感動をおぼえました。その年はバブル崩壊後の就職氷河期と呼ばれた時代で、あの青年もきっと裕福な暮らしではなかったろうと思います。しかし、そんなときにも台湾の災害を心配してくれたことに感謝の気持ちで胸がつまる思いでした。

「921大地震」に関してはもう一つ感激したことがありました。それは日本から台湾に向かった救助隊のことです。地震発生の報を受けて直ちに神戸大学の医学部が救助隊を編成してくれました。その4年前の1995年(平成7年)1月に起きた「阪神・淡路大震災」の救助活動の経験を生かして彼らは 台湾の災害現場で人命救助・救急医療に目覚ましい力を発揮してくれました。その彼らを関西国際空港に見送りに行ったとき、手荷物の重さにびっくりしました。突然のことですから、その場で切符を買ったり、荷物の仕分けなどを含めた搭乗手続きに時間がかかります。精密な医療機器はアタッシェケースのように預けることができません。手荷物として機内に持ち込むのです。幸い外交官である私は出発ロビーまで入ることができますので、少しでも役に立ちたいと思って、その内の一つを持ち上げようとしましたが、とても運べるものではありませんでした。こんな重い荷物を持ち歩いて空港内で検査を受けたり、災害現場まで持ち込んで救出に当たってくれるのかと思うと、ありがたさに涙が出る思いでした。

神戸大学に限らず、日本全国から駆け付けてくれた救助隊員(145人で世界最多)の力があったから助かった台湾の命も多かったと思います。

また、阪神・淡路大震災で使われた被災者用仮設住宅1001棟を日本から譲り受けることができたことも大きい助けになりました。当時の井戸敏三・兵庫県副知事や日本政府には感謝の言葉しかありません。

私も家族もこのような日本に3度目の勤務ができることを大変うれしく思っています。これから力の限り、日台友好の絆を強めるべく努力致しますので、ご指導ご鞭撻(べんたつ)のほど、どうかよろしくお願い申し上げます。

【陳銘俊(ちん・めいしゅん)】1964年3月、台湾東部、花蓮県生まれ。台北市の中国文化大韓国語学科を卒業後、台湾外交部入り。大阪外国語大(現大阪大)や慶応大への留学経験がある。カリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学客員研究員。許世楷・台湾駐日代表(当時)の補佐官や台北駐ボストン経済文化弁事処の副処長などを歴任し2018年7月から日本の内閣官房にあたる台湾総統府で機要室長を務めた。趣味は語学研究。台湾語、中国語、客家語、アミ族語、広東語、英語、日本語、韓国語、スペイン語、フランス語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、ヘブライ語などの比較研究に取り組む。


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