【AC論説】被害者と加害者

【AC論説】被害者と加害者

    Andy Chang

人は誰でも被害者になることもあるし加害者になることもある。国
もそうである。人間関係、国際関係とはそういうものだ。千葉に住
むNさんは戦後生まれなので、台湾が嘗て日本の領土であったこと
は知っていたが、台湾がアメリカの空襲で大きな被害があったこと
は知らなかった。私とのメールのやり取りでこのことを知って、ス
ミマセンでしたとメールしてきた。戦争があったのはNさんの責任
でもないし関係のないことである。Nさんは日本人だから謝ったの
だが、謝られた私の方は複雑な気持ちである。

私は昭和一桁生まれだから戦争中は日本人だった。台湾が空襲を受
けた当時は日本人意識があった。台湾人意識は戦後になってから覚
えたのである。台湾は日本領だから敵国米軍の空襲に逢ったのは当
然と思う。Nさんは戦後生まれだから、台湾は日本と違う国という
意識がある。だから台湾が空襲に逢ったのは日本の責任で、日本の
国民として謝罪する気持ち、たとえ必要がなくても愛国心があるか
らスミマセンと言う。

Nさんにこう言われるといろいろ複雑な思いが起きる。思いつくま
まに書いてみると:(1)台湾は日本と一緒に戦ったのだから日本が
台湾に謝ることはない。加害者はアメリカである。(2)空襲は米軍
の責任だから米国が謝るべきである。(3)戦争は軍の責任で個人の
責任ではない。(4)戦争責任はすでに終戦裁判で清算されたからい
つまでも追及したり謝ったりする必要はない。(5)加害者の罪悪感、
被害者の怨恨はいつまで持ち続ける必要があるのか。

ここに挙げた幾つかの思いは個人的なものだから、読者にもいろい
ろ違う意見があるに違いない。戦前・戦後の生まれ。台湾・日本の
生まれ。戦争体験など個人的な立場が違うから思惑も違ってくる。

韓国の朴クネが「正しい歴史を認めろ」と言っても「正解」はない。
加害者と被害者は違うから何が正しいのかいくら論争しても解決は
ない。

●戦争とアメリカの責任

戦争は破壊行為である。戦争に勝ち負けはあっても責任は双方の軍
隊にあり民間が被害者である。空襲で都市、飛行場、工場などが爆
撃され、民家が焼け人が死んだ。台湾でも日本でも、南方諸島でも
被害は大きかった。東京大爆撃では十万人が死んだと言う。

原爆を投下したアメリカは謝罪したことはない。アメリカ政府、歴
代の大統領だけでなく、Nさんのようにスミマセンと謝ったとは聞
いていない。日本政府がアメリカの謝罪、原爆投下の罪を追及した
こともない。

●被害者の恨み

Nさんは台湾各地が空襲に逢ったから台湾人は日本人を恨んていな
いかと案じる。戦後に日本を訪問する台湾人は日本に対しどんな気
持ちを持っているのかと思い、済まないと思う。しかしそれは違う。
台湾人は戦争で被害にあったけれど日本人を憎む気持ちはない。

日本は戦争に負けて米軍が日本を占領したが、日本人にはアメリカ
を恨む気持ちはないし、アメリカに旅行しアメリカに住んでも別に
違和感はないはずだ。

私の父は医者で、病院を経営していた。戦争中のある日、憲兵がや
って来て父の病院を接収して憲兵隊本部にすると言った。父は入院
患者もいるし、来院患者も多いので接収を拒否した。すると憲兵は
「臭い飯を食わしてやる」と言って父を警察署の留置場に入れた。
留置場で臭い飯を食わされたお蔭で父はチブスにかかり二か月も重
体で寝ていた。一か月ほど後に米軍の大空襲があり、付近の家が焼
けだして消防車が来たとき警察が、あの病院はほって置けと命令し
たので病院は焼けてしまった。

父や家族は日本や日本人を恨んだことはない。悪いのは戦争であり
憲兵隊である。戦争が終わり軍隊は解散し、日本は良い国になり父
は何度も日本に旅行した。

日本人は原爆を落とされたけれど原爆の被害を覚えている人は少な
いし、アメリカを憎むこともない。原爆の被害者でアメリカに住ん
でいる人も多い。

●中国人への恨みは消えない

ところが台湾人は中国人が台湾で行った228事件虐殺や、38年に及
ぶ白色恐怖を忘れない。中国人は酷いことをしたが謝罪したことは
ない、今でも傲慢である。台湾人は中国人ではないことは中国人の
態度でよくわかる。台湾人は中国人の悪逆非道を忘れることはない。
ひとりひとりの中国人に恨みはないが警戒心は絶対忘れない。

戦争が終わって間もなく、国民党の軍隊が大陸から撤退してきて、
小学校の教室を占領して駐屯した。数日後、営長(大隊長)の妻が
死産で産婆の手に負えなくなり父の病院に入院した。父のおかげで
死んだ赤ん坊を産んだが産婦が退院しても死んだ嬰児を病院に残し、
翌日取りに来たとき、手術室の隅に放置された死児にネズミが齧っ
た痕があった。その夜剣付き鉄砲を持った兵士を二人従えた大隊長
が来て、テーブルに座るなり拳銃をテーブルに置いて死んだ嬰児に
傷がついたと言って父を脅迫した。父に命じて金庫を開けさせ現金
全部、3千円を強奪した。当時の3千円は現在の数百万円と思われ
る。私はこの事件を忘れることはない。戦争で病院が焼けても恨み
は残らないが、死んだ嬰児の言いがかりをつけて剣付き鉄砲で脅迫
し金を強奪した恨みは今でも忘れない。中国人にも善い人も居るだ
ろうが中国人に心を許すことはない、許してはならない。

●謝罪する日本人と謝罪しない中国人

Nさんは日本人として日本人が戦争を始めて各地に被害があったこ
とで済まないと思っている。これは素晴らしいことだ。日本国民に
は愛国心があり、自分の責任でなくても日本人として責任感があり、
国民全体が道徳心と謙虚な心を持っている。

日本人や台湾人と違って中国人は愛国心がないから国の責任を感じ
ることがない。蒋介石、毛沢東、習近平などみんな個人の責任で、
個人が遺憾に思うことはないのである。

しかもそんな中国人や韓国人は挙国一致ですでに清算した日本の戦
争責任を譴責し、現在の若い日本人に謝罪を要求し、いくら謝罪し
ても「謝罪が足りない」という。道徳心の違う国と議論しても無駄
である。戦争が終わって70年たつ。慰安婦問題、戦争責任、すべて
過去のことである。道徳心のない中国人と論争しても無駄である。


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