被害者と加害者  アンディ・チャン

[AC通信(No.549):2015年7月13日]

 人は誰でも被害者になることもあるし加害者になることもある。国もそうである。人間関係、国
際関係とはそういうものだ。

 千葉に住むNさんは戦後生まれなので、台湾が嘗て日本の領土であったことは知っていたが、台
湾がアメリカの空襲で大きな被害があったことは知らなかった。私とのメールのやり取りでこのこ
とを知って、スミマセンでしたとメールしてきた。戦争があったのはNさんの責任でもないし関係
のないことである。Nさんは日本人だから謝ったのだが、謝られた私の方は複雑な気持ちである。

 私は昭和一桁生まれだから戦争中は日本人だった。台湾が空襲を受けた当時は日本人意識があっ
た。台湾人意識は戦後になってから覚えたのである。台湾は日本領だから敵国米軍の空襲に逢った
のは当然と思う。Nさんは戦後生まれだから、台湾は日本と違う国という意識がある。だから台湾
が空襲に逢ったのは日本の責任で、日本の国民として謝罪する気持ち、たとえ必要がなくても愛国
心があるからスミマセンと言う。

 Nさんにこう言われるといろいろ複雑な思いが起きる。思いつくままに書いてみると:

(1)台湾は日本と一緒に戦ったのだから日本が台湾に謝ることはない。加害者はアメリカであ
   る。

(2)空襲は米軍の責任だから米国が謝るべきである。

(3)戦争は軍の責任で個人の責任ではない。

(4)戦争責任はすでに終戦裁判で清算されたから、いつまでも追及したり謝ったりする必要はな
   い。

(5)加害者の罪悪感、被害者の怨恨はいつまで持ち続ける必要があるのか。

 ここに挙げた幾つかの思いは個人的なものだから、読者にもいろいろ違う意見があるに違いな
い。戦前・戦後の生まれ。台湾・日本の生まれ。戦争体験など個人的な立場が違うから思惑も違っ
てくる。

 韓国の朴槿恵が「正しい歴史を認めろ」と言っても「正解」はない。加害者と被害者は違うから
何が正しいのかいくら論争しても解決はない。

●戦争とアメリカの責任

 戦争は破壊行為である。戦争に勝ち負けはあっても責任は双方の軍隊にあり民間が被害者であ
る。空襲で都市、飛行場、工場などが爆撃され、民家が焼け人が死んだ。台湾でも日本でも、南方
諸島でも被害は大きかった。東京大爆撃では十万人が死んだと言う。

 原爆を投下したアメリカは謝罪したことはない。アメリカ政府、歴代の大統領だけでなく、Nさ
んのようにスミマセンと謝ったとは聞いていない。日本政府がアメリカの謝罪、原爆投下の罪を追
及したこともない。

●被害者の恨み

 Nさんは台湾各地が空襲に逢ったから台湾人は日本人を恨んでいないかと案じる。戦後に日本を
訪問する台湾人は日本に対しどんな気持ちを持っているのかと思い、済まないと思う。しかしそれ
は違う。

 台湾人は戦争で被害にあったけれど、日本人を憎む気持ちはない。

 日本は戦争に負けて米軍が日本を占領したが、日本人にはアメリカを恨む気持ちはないし、アメ
リカに旅行しアメリカに住んでも別に違和感はないはずだ。

 私の父は医者で、病院を経営していた。戦争中のある日、憲兵がやって来て父の病院を接収して
憲兵隊本部にすると言った。父は入院患者もいるし、来院患者も多いので接収を拒否した。すると
憲兵は「臭い飯を食わしてやる」と言って父を警察署の留置場に入れた。

 留置場で臭い飯を食わされたお蔭で父はチブスにかかり2か月も重体で寝ていた。1か月ほど後に
米軍の大空襲があり、付近の家が焼けだして消防車が来たとき警察が、あの病院はほって置けと命
令したので病院は焼けてしまった。

 父や家族は日本や日本人を恨んだことはない。悪いのは戦争であり憲兵隊である。戦争が終わり
軍隊は解散し、日本は良い国になり父は何度も日本に旅行した。

 日本人は原爆を落とされたけれど原爆の被害を覚えている人は少ないし、アメリカを憎むことも
ない。原爆の被害者でアメリカに住んでいる人も多い。

●中国人への恨みは消えない

 ところが、台湾人は中国人が台湾で行った228事件虐殺や、38年に及ぶ白色恐怖を忘れない。中
国人は酷いことをしたが謝罪したことはない、今でも傲慢である。台湾人は中国人ではないこと
は、中国人の態度でよくわかる。台湾人は中国人の悪逆非道を忘れることはない。

 ひとりひとりの中国人に恨みはないが、警戒心は絶対忘れない。

 戦争が終わって間もなく、国民党の軍隊が大陸から撤退してきて、小学校の教室を占領して駐屯
した。数日後、営長(大隊長)の妻が死産で産婆の手に負えなくなり父の病院に入院した。父のお
かげで死んだ赤ん坊を産んだが産婦が退院しても死んだ嬰児を病院に残し、翌日取りに来たとき、
手術室の隅に放置された死児にネズミが齧った痕があった。

 その夜、剣付き鉄砲を持った兵士を2人従えた大隊長が来て、テーブルに座るなり拳銃をテーブ
ルに置いて死んだ嬰児に傷がついたと言って父を脅迫した。父に命じて金庫を開けさせ現金全部、
3千円を強奪した。当時の3千円は現在の数百万円と思われる。

 私はこの事件を忘れることはない。戦争で病院が焼けても恨みは残らないが、死んだ嬰児の言い
がかりをつけて剣付き鉄砲で脅迫し金を強奪した恨みは今でも忘れない。中国人にも善い人も居る
だろうが中国人に心を許すことはない、許してはならない。

●謝罪する日本人と謝罪しない中国人

 Nさんは日本人として日本人が戦争を始めて各地に被害があったことで済まないと思っている。
これは素晴らしいことだ。日本国民には愛国心があり、自分の責任でなくても日本人として責任感
があり、国民全体が道徳心と謙虚な心を持っている。

 日本人や台湾人と違って、中国人は愛国心がないから国の責任を感じることがない。蒋介石、毛
沢東、習近平などみんな個人の責任で、個人が遺憾に思うことはないのである。

 しかも、そんな中国人や韓国人は挙国一致ですでに清算した日本の戦争責任を譴責し、現在の若
い日本人に謝罪を要求し、いくら謝罪しても「謝罪が足りない」という。道徳心の違う国と議論し
ても無駄である。戦争が終わって70年たつ。慰安婦問題、戦争責任、すべて過去のことである。道
徳心のない中国人と論争しても無駄である。


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