【門田隆将】「日・台・中」を知る上で絶対に忘れてはならない事件

【門田隆将】「日・台・中」を知る上で絶対に忘れてはならない事件

ブログhttp://www.kadotaryusho.com/blog/index.htmlより

「二二八事件」を知っていますか? そう聞いて、「はい、知っています」という人は、日本では、なかなかいない。「“二二六事件”の間違いではないですか」と問い返されるケースがほとんどだ。

しかし、「この事件を知らないと、“日本―台湾―中国”の真の関係はわかりませんよ」と、私はいつも言わせてもらう。そう、台湾がなぜこれほど「親日」なのか、あるいは、台湾の人たちが「一つの中国」をなぜ拒否しているのか。これを知らなければ、とても理解できないだろう。「現代の東アジア」を考える上でも、それは、外すことができない出来事なのである。

今日、私は、羽田発朝7時25分のチャイナ・エアラインで、台北にやって来た。昨年の総統選取材以来、ほぼ1年ぶりだ。明日(27日)は「台北」で、あさって(28日)には「台南」で、この「二二八事件」に関連して、講演をさせてもらうためだ。

講演の中身は、まさに「二二八事件」と21世紀における「日本―台湾―中国」との関係について、である。到着早々、私は、さっそく中央廣播電台(台湾国際放送)に招かれ、約1時間にわたって、「二二八事件」が現代に問いかける意味を話させてもらった。
今から70年前の1947年2月28日に勃発した民衆蜂起――日本に代わって為政者となった中国人に対するこの激しい抗議行動は、台湾人(本省人)に無惨な結果を生む。台湾全土で民衆が逆に弾圧、虐殺され、それから38年間にも及ぶ世界最長の戒厳令下における“白色テロ”の時代を台湾は迎えるのである。

なぜそんなことが起こったのか。それは、日清戦争終結による下関条約で割譲された台湾の50年間に及ぶ「日本統治」を抜きには考えられない。

日本による統治とは、厳格な「法治社会」と、識字率90%・就学率70%という当時では世界でも珍しい「高教育社会」を台湾にもたらしたことで知られる。しかし、第二次世界大戦の日本敗北によって、台湾は大変な激変を経験する。

日本人(内地人)が去り、新たな統治者となった蔣介石率いる国民党の政治に台湾人は愕然とする。食料品、農作物、工業品が「接収」という名のもとに収奪され、新たな製品を生み出す工場の機械類から日本軍が残した武器類に至るまで、台湾財産の多くが奪われ、大陸に運ばれていったのだ。

私腹を肥やすだけでなく、これらは毛沢東率いる共産軍との「国共内戦」の戦費として消えていった。汚職が蔓延する社会の到来と、食糧不足で飢餓状態に陥った中で進行する猛烈なインフレ。生活苦から自殺者が続出する中で、1947年2月27日に闇たばこ売りの寡婦が警察官に殴打された事件をきっかけに、翌28日、民衆の怒りが爆発。全土に民衆蜂起が燎原の火のごとく広がったのである。

しかし、蔣介石は精鋭の第21師団を台湾に派遣し、これを逆に好機と捉えて、全土でエリート層を狙い打ちした虐殺事件を引き起こした。これが、二二八事件だ。犠牲者の総数は2万人を超え、日本時代のエリート層は壊滅した。
中国人が持つ残虐性に台湾人は驚愕し、瞑目した。「外省人(戦後、蔣介石と共に大陸から渡ってきた中国人)」と「本省人(もともと台湾に住んでいる台湾人)」との今もつづく拭い難い亀裂は、このとき始まったのである。

私は、事件の70周年を機に、台南市で国民党軍の弾圧から台湾人を救うべく奔走し、最後は、自分自身も処刑された日本人、「坂井徳章弁護士(台湾名・湯徳章)」の生涯を描いた『汝、ふたつの故国に殉ず』を日本と台湾で同時出版した。
父は日本人警察官、母は台湾人女性という、生まれながらにして“日台の絆”を表わす坂井弁護士は、無実の罪を着せられて処刑される際、「誰かに罪があるとすれば、私一人で十分だ!」「私には“大和魂”の血が流れている!」「台湾人、万歳!」と叫んで果てた。

2014年、坂井弁護士は、実に死後67年を経て、命日である3月13日が台南市の「正義と勇気の日」に制定され、名実ともに「台湾の英雄」となった。今も、台南に行けば、涙ながらに坂井弁護士の遺徳を語ってくれる市民は少なくない。

自分の身を犠牲にしてまで多くの台南市民を救ったこの快男児は、その名を冠した台南中心部の記念公園と共に、決して台湾の人々に忘れられることはないだろう。
あさって2月28日は、台北をはじめ、台湾各地で70周年の「追悼式典」が開かれる。私は、坂井弁護士が非業の死を遂げた台南市の追悼式典に出席し、そのまま台南市の国立台湾文学館で講演をさせてもらうことになっている。

なぜ台湾の人々は、頑強に「ひとつの中国」を拒否するのか。なぜ彼らは、世界一の「親日国」なのか。それは、坂井弁護士をはじめ、台湾のために尽くし、毅然と死んでいった多くの日本人の存在を知らずして理解はできないだろう。

昨年、台湾では、蔡英文率いる民進党が総統選・立法院選の両方を制し、真の意味で初めて本省人の政権を樹立した。そして、蔡英文女史は、昨年11月、 1971年に正式の国交が断絶されて以来初めて、台湾総統としてアメリカのトップ、ドナルド・トランプ氏と電話会談し、「プレジデント・オブ・タイワン」と呼びかけられた。

国際司法裁判所の判断を無視して、南シナ海で他国の領土に軍事基地を建設する中国。力による現状変更を強引につづけるこの中国を前に、「台湾」は、そして「尖閣」はこれからどうなっていくのだろうか。多くの犠牲のもとに、やっと手に入れた「自由」「人権」「民主」という普遍的価値は、一体、どうなっていくのだろうか。

二二八事件70周年にあたって、そんなことを私たち日本人も考えたいと思う。そして、日本と台湾とアメリカの連携で、東アジアの平和を守る決意を新たにして欲しいと心から願う。

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