【門田隆将】「中国」vs「日米台」の激動の時代到来へ

【門田隆将】「中国」vs「日米台」の激動の時代到来へ

門田隆将ブログより

http://blogos.com/article/138627/

10月6日に訪日して注目を浴びた台湾の最大野党「民進党」の総統候補、蔡英文主席(58)が台湾に帰国後も、話題をまいている。

昨日「10月10日」は、辛亥革命を祝う「双十節」だった。孫文による辛亥革命勃発の記念日である。中国・台湾双方が“建国の父”と慕う孫文を偲び、両方で大々的な祝賀がおこなわれてきた。

今年の記念行事で最大の話題は、なんといっても台湾の式典だっただろう。中国の“力による現状変更”が活発化する激動の東アジア情勢――その中で、極めて重要な意味を持つ台湾総統選を「3か月後」に控え、鍵を握る人物が勢ぞろいしたからだ。

蔡英文女史が、民進党が野党に転落した2008年以来、初めて民進党主席として式典に出席した。ほかにも、総統選の国民党候補・洪秀柱(67)=立法院副院長=、新北市市長も務める国民党主席の朱立倫(54)、あるいは、親民党主席の宋楚瑜(73)、そして立法院院長の王金平(74)が一堂に会したのである。

支持率40%以上をつづけ、独走している蔡英文女史に対して、「このままでは蔡英文に勝てない」という危機感を強める与党国民党は、ついに蔡英文が訪日中の10月7日、中央常務委員会を開催し、国民党の次期総統候補として洪秀柱を立てることを「取りやめる」ことを打ち出した。

混乱状態に突入した与党国民党だが、候補の本命は、なんといっても国民党主席の朱立倫である。これまで立候補を頑なに固辞してきたが、いよいよ決断の「時」が来たようだ。2010年11月の新北市長選で、当の蔡英文女史を破った人物だけに、その決断は大きな波紋を呼ぶだろう。

5年前の新北市長選の再現となる「朱立倫vs蔡英文」になれば、国民党は豊富な資金力を誇るだけに、どんな一発逆転策をはかるか、まだ予断を許さない。テレビCMを使った巧みなネガティブ・キャンペーン等々、国民党の大反撃が予想される。

そこで、意味を持ってくるのが、蔡英文女史の今年5月の「訪米」であり、今回の「訪日」である。

前回の総統選(2012年)で馬英九に完敗した蔡英文陣営は、その原因を徹底分析した。それは、2つの「原因」に集約された。ひとつは、民進党の陳水扁・前総統による不正蓄財の後遺症であり、もうひとつは、多くの国民が抱いていた民進党に対する「不安感」である。

台湾人のアイデンティティに重きを置き、独立志向の強い民進党に「中国がどう出るか」という不安感が広がり、国民党の馬英九が支持を集めたのである。

しかし、前回総統選以後、蔡英文陣営は「現状維持」政策を前面に押し立て、「台湾独立」を含む一切の懸念を払拭し、台湾人の安心感を勝ち取ろうとした。「現状維持」とは、言葉通り、中国との関係で「現状を維持する」ということだ。

そして、さらに台湾人の安心感を勝ち取るために選んだ作戦が、今年5月の「訪米」であり、今月6日からの「訪日」だったのである。

野党・民進党の候補者であるにもかかわらず、蔡英文に対するアメリカの待遇は、驚くべきものだった。マケイン上院軍事委員会委員長をはじめ、メディロス国家安全保障会議アジア上級部長、ブリンケン国務省副長官ら、錚々たるメンバーと会見し、多国間軍事演習への台湾の参加を促す意向まで示された。蔡英文女史の顔が米『タイム』誌の表紙を飾るほどの反響を呼んだことは記憶に新しい。

そして、日本でも、安倍首相の実弟・岸信夫衆院議員の案内で、地元・山口を訪問し、帰京後、自民党幹部と会談し、さらに安倍首相本人とも「密会」するなど、日本からも破格の厚遇を受けた。

蔡英文女史は、アメリカと日本のお墨付きをもらうことに成功したと言えるだろう。これは、李登輝・元総統と、許世楷・元駐日代表という二人の大物の戦略が大いに関係している。「民進党への“不安感”さえ減らせば、勝利は疑いない」という確固たる戦略によるものである。そして、それは見事に成功した。

中国の強引な“力による現状変更”に対抗するには、アメリカ、日本、台湾が力を合わせるしかない。言いかえれば、東アジアの安定のためには、「アメリカ―日本―台湾」の強固な結びつきが必須なのだ。

しかし、中国も手を拱(こまね)いているわけではない。逆に、中国は今、沖縄へのアプローチを盛んにおこなっている。前回のブログでも指摘したように、沖縄にある米軍基地をグアムまで“後退”させることができれば、東シナ海、南シナ海での中国の軍事的優位が圧倒的なものになるからだ。

沖縄県の翁長雄志知事が先月、スイス・ジュネーブでの国連人権理事会と並行して行われたNGO主催のシンポジウムで講演し、普天間基地の辺野古移設に対して、「沖縄県民の人権、民主主義が無視されている」と世界にアピールしたことを、どう捉え、どう分析すればいいだろうか。

翁長知事は、講演で、沖縄が独自の言語、文化を持つ「独立国だった」という歴史も訴えている。独立志向の沖縄から米軍基地がなくなれば、中国がどう出るかは、想像に難くない。まさに、それは中国の“意向”通りの内容だったと言える。

中国による南沙諸島(スプラトリー諸島)への進出も、実は、1992年に米軍がフィリピンからグアムに撤退した直後に起こったことを忘れてはならない。そのことを考えれば、一方の翁長知事が今年4月、訪中した際、李克強首相が会うという“破格の厚遇”を与えたことが何を意味するかは、自明だろう。

誰に、どんな厚遇を与えるか。それが、いかに大きな意味を持っているかを考えると、実に興味深い。沖縄に手をぐっと突っ込んできた中国と、一方、台湾の最大野党・民進党の蔡英文女史に“お墨付き”を与えたアメリカと日本――。

最後にこの“お墨付き”が台湾総統選にどんな影響を与えるか。「中国」vs「日米台」の激動の時代到来へ、東アジアの今後の動向に決定的な意味を持つ選挙だけに、目が離せない。