【警鐘】台湾の中立化主張は有害無益である

【警鐘】台湾の中立化主張は有害無益である

      川村純彦 元海上自衛隊海将補 「日本戦略研究フォーラム」理事

 
最近呂秀蓮前副総統、蔡明憲前国防部長、張旭成前国安会副秘書長一行が日本を訪問し、2月23日に私が所属する「日本戦略研究フォーラム」において「台湾和平中立宣言」について講演した。事前に我々は「中立化」について話し合うとは知らされていなかったので、当日は呂氏の発言を聞いただけで、この構想について明確な賛同あるいは反対を表明しなかった。

数日後、我々は呂氏、蔡氏、張氏が発表した論文において、本フォーラムが「台湾的独立と中立を歓迎した」とされ、日本各界がこの中立化構想を支持しているとされているのを目にした。これについて、我々は非常に驚いた。ここにおいて我々は、当日、台湾中立化について支持すると表明していないことを明らかにしないわけにはいかない。実際には、我々は、台湾の中立化は現実的でないのみならず、日米とのアジア太平洋地域における安全防衛上の戦略と矛盾すると考えている。

まず、台湾は事実上独立しているが、中国の台湾に対しての領土的野心およびその近隣海域についての覇権の主張こそが台湾にとって最大の脅威である。我々は中国の台湾に対する侵略の意図を阻止することこそ台湾にとって当面の急務であると考える。

台湾は国際社会に承認された法的にも主権が独立した国家となってはじめて、中立が選択肢となるが、仮に、そうなれたとしても、中立というのは一国できめられるものではない。中立には関係諸国の承認を得ることが必要である。これについて、中国および周辺国家が同意する可能性はかなり低いと私は信じるものである。

このほか、中立後は、核攻撃を抑止する軍備を含め、完全に自国で引き受けなければならず、その国防経費および人民の負担は大幅に増加するであろう。台湾がもし米国の核の傘のもとを離れるのであれば、台湾は核武装の用意があるのだろうか。もしそれがないならば、他国からの核攻撃をどうやって防止するのだろうか。

台湾は、日本列島−沖縄諸島−台湾−フィリピンーベトナムを結ぶ第一列島線の要衝に位置し、これは、中国が海洋覇権を拡張するのを阻止するために最も重要な戦略拠点である。したがって台湾の去就は直ちにアジア太平洋地域の平和と安定に影響を与える。日米両国のみならず、すべての民主的で自由な国家が、この地域の安全保障に相当な関心を寄せている。(この状況で)台湾は安全保障上の空白を作りだしてよいのだろうか。

台湾が努力すべき方向は、この地域の集団安全保障に参加することを積極的に求め、これによって現在の実質的に独立している地位を保障することである。また同時に、法理的独立の目的を達成するために国際社会の支持を求めることである。この道のりは簡単ではないが、民主自由および自国の領土の完全性を守る決心と勇気さえ持てれば、台湾は必ずや全世界の尊敬と支持を勝ち取ることが出来るであろう。

しかるに、中国が軍事的拡張を行う独裁国家であるこのときに、中立を主張することは台湾にとって害があるのみならず、米日の支持を得ることが出来ない。アジア太平洋地域の安全保障を顧みず、辺境に安んじるようなこの態度は、台湾をして、友人の尊敬を失わせるのみならず、台湾にさらに大きな危機をもたらす可能性がある。


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