西日本新聞 3/6(月) 10:59配信
「2・28事件」蒋介石責任論、台湾で再燃 像撤去も検討 中国が警戒
[写真(略)]蒋介石像の前で写真を撮る観光客=3日、台北市の中正記念堂中国から台湾に渡った国民党政権による民衆弾圧「2・28事件」から70年。当時、国民党の最高指導者だった蒋介石の加害者責任を巡る論争が約10年ぶりに激しくなっている。民主進歩党(民進党)政権は、蒋介石を顕彰する中正記念堂を問題視し、蒋介石像の撤去などを検討する。野党、国民党は「事件を利用した国民党たたき」と反発。台湾統一を目指す中国も、責任追及が「反中国」「台湾独立」につながることを警戒し、「独立派が歴史をゆがめている」と批判している。
3日午後3時すぎ、台北市の中正記念堂。銀色に輝くヘルメットをかぶり、銃剣を手にした5人の衛兵が力強く足踏みする音がホールに響き渡った。1時間ごとに行われる衛兵交代式は台北観光の目玉の一つ。300人ほどの観光客がカメラやスマートフォンを構えた。中央奥にある高さ3・5メートルの台座の上では、高さ6・3メートルの蒋介石像がほほえみをたたえていた。
1975年に死去するまで国民党独裁政権を率いた蒋介石は神格化され、台湾全土に数万体の銅像が建てられたという。蒋介石の本名の「中正」を冠した道路や公園が各地に整備され、死後5年たった80年に中正記念堂が完成した。
名称変更や蒋介石像の撤去なども検討
蒋介石の2・28事件責任論が高まったのは、事件から60年を迎えようとしていた2006年。財団法人「二二八事件紀念基金会」が、事件の元凶を蒋介石とする研究報告書を出版した。「独裁者を崇拝するのは民主国家に合わない」と主張していた民進党政権の陳水扁総統(当時)は07年、中正記念堂の名称を「台湾民主記念館」に変更した。
国民党の馬英九政権に移った09年に元の「中正記念堂」に戻ったが、昨年発足した民進党の蔡英文政権は再び見直しに着手。2月から記念堂内での蒋介石人形販売や蒋介石を称賛する歌の放送を中止し、2月28日を閉館日にした。今後、名称変更や蒋介石像の撤去なども検討する。蔡英文総統は、台北市で開かれた2・28事件70年記念式典で「被害者だけがいて加害者がいない状況を変えなくてはならない」と述べ、蒋介石などの加害者責任を明確にすると明言した。
中国政府は「台湾人意識」を高める一因と警戒
対する国民党の洪秀柱主席は今月1日、「国民党政権は被害者への謝罪、補償金支給、記念碑設置をしてきた」と声明を発表。「民進党政権の目的は、蒋介石をヒトラーのように歴史の十字架に掛けること。『脱蒋化』は『脱中華民国化』、さらに言えば『脱中国化』。台湾独立を推進するための動きだ」と批判した。
2・28事件は、日本に代わって台湾を統治するために中国から来た「外省人」が、戦前から台湾で暮らしていた「本省人」を弾圧、1万8千〜2万8千人が犠牲になったとされる。両者の対立は今なお台湾社会に根深く残り、反中国感情と「台湾人意識」を高める一因になっている。警戒する中国政府は2月下旬、「台湾独立派は歴史をゆがめて対立をあおり、下心を持って事件を利用している」との見解を発表した。
これに対し台湾政府は「中国は過度に政治的な解釈をするべきではない」と反論。蔡総統は「責任が明らかにならなければ、加害者と被害者の和解もできない」と語り、加害者責任を追及する方針に揺るぎない姿勢を示している。
=2017/03/06付 西日本新聞朝刊=