【異議あり】「台湾の地位」に関する産経新聞の記事は間違っている

(転送転載歓迎)

     「台湾の声」編集長 林建良(りん・けんりょう)

7月28日の産経新聞に掲載された「日々是世界 国際情勢分析」では、日本政府の在台湾窓口機関、交流協会台北事務所の斎藤正樹代表(大使に相当)が今年5月1日、「日本がサンフランシスコ条約で台湾の主権を放棄した後、台湾の地位は未確定である」と発言し、その三日前に「(日華平和条約で)日本は台湾および澎湖の主権を中華民国に譲渡した」)と演説した馬英九総統に反論した形になり、台湾側は総統、副総統に加えて外交部も斎藤代表との面会を拒否し続けているなど、日台関係が膠着状態に陥っていると伝えた。

それによると、日本政府の見解は「日本はサンフランシスコ条約で台湾の主権を放棄したが、どこの国に対して放棄したか明記しておらず、台湾がどこに帰属するか発言する立場にない」。だが「未確定」とした発言は「政府見解から一歩踏み込んだ解釈で、馬政権は猛反発した」のだという。そして「日台の今後に与える影響が懸念される」とも書いている。

しかし斎藤大使が反論したのは当然である。馬総統に「日本が台湾を中華民国に返還した」といわれれば、それに反論しなければならない立場にあるのが斎藤大使だからだ。

しかし産経はそれには批判的であるようだ。「政府見解から一歩踏み込んだ解釈で、馬政権は猛反発した」といっている。これではまるで国民党の側に立つかのようだ。

だいたい「政府見解から一歩踏み込んだ解釈」というのは間違っている。

台湾はサンフランシスコ条約で、日本に放棄され、どこの国にも渡されなかったというのだから、政府見解は明らかに、台湾の地位は「未確定」というものなのだ。斎藤大使は一歩も踏み込んでなどいない。

町村信孝外相(当時)は平成17年5月13日の衆議院外交委員会で、「(日本は台湾を)どこの国に対して放棄したかは明記していないわけでございます。したがって、台湾がどこに帰属するかについて、これは専ら連合国が決定すべき問題であり、日本は発言する立場にない。これが日本側の一貫した法的な立場であります」と答弁しているが述べている。

町村外相が台湾の帰属先については国連が決定するべきだというのは、台湾の地位が今でも未定だからに他ならない。だから斎藤大使の発言は日本政府の一貫した立場に他ならない。

「未定論」という言葉さえ使わなければ「未定論」ではないとするのは、日本の外交当局の中国に配慮するために詭弁に過ぎないが、産経というほどのマスコミまでがこの狡猾な言い訳を使って、国民党政権擁護に走るならば、明らかにマスコミの堕落を証明する何よりの証拠になるだろう。

なお台湾の地位は国連の決定に従うべきものだとすれば、国連憲章第1条の2に規定される「自決の権利」の原則に基づき、台湾の今後の帰属先は台湾住民の自決に委ねられなければならない。日本から台湾譲渡(返還)を受けていない中華民国ではなく、もちろん中華人民共和国でもなく、台湾は台湾人の国家となるべきなのは国際法的にも当たり前なのだ。
産経はなぜ台湾人に自決権があるといえないのか。

*********************************************
産経新聞記事

【日々是世界 国際情勢分析】「地位未定」発言で日台膠着状態
2009.7.28

http://sankei.jp.msn.com/world/china/090728/chn0907280745000-n1.htm

 日本政府の在台湾窓口機関、交流協会台北事務所の斎藤正樹代表(大使に相当)が今年5月、「台湾の地位は未確定」とした発言が端緒となり、日台関係が膠着(こうちゃく)状態に陥っている。複雑な日中台の歴史認識も絡むだけに、日台の今後に与える影響が懸念されるが、台湾紙は「台日関係は氷点まで下がった」(中国時報、電子版)と伝えている。

 問題の発端は、斎藤代表が嘉義県で5月1日に行った「日本がサンフランシスコ条約で台湾の主権を放棄した後、台湾の地位は未確定である」との発言だ。

 「『中国』における唯一の正統政権」を建前とする台湾の与党・中国国民党の馬英九総統はこの3日前、演説で「(日本が『中華民国』との間で交わした日華平和条約で)日本は台湾および澎湖の主権を中華民国に譲渡した」(中国時報)との解釈を示していた。

 斎藤発言はこれに真っ向から反論を加える格好になった。日本政府の見解は「日本はサンフランシスコ条約で台湾の主権を放棄したが、どこの国に対して放棄したか明記しておらず、台湾がどこに帰属するか発言する立場にない」だ。

 つまり、日本政府が帰属問題には触れないとの立場を貫く以上、「未確定」とした発言は政府見解から一歩踏み込んだ解釈で、馬政権は猛反発した。台湾の主体性を主張する民主進歩党の陳水扁政権下では、「地位未定論」が独立を目指す上での一つの論拠だった。このため独立派は斎藤発言を歓迎した。

 しかし、国民党には容認できる内容ではなく、中国外務省も5日、斎藤発言は「中国の核心的利益に対する挑戦であり、絶対に受け入れられない」と不満を表明。急接近する中台両岸が、足並みをそろえて斎藤発言をたたいた。

 自由時報(電子版)によれば、斎藤代表はその後、公式行事への参加を控え、対する台湾側は総統、副総統に加えて外交部も斎藤代表との「面会を拒否」し続けている。

 在台の日台関係筋は「対日経験を持つ人材が枯渇する中、関係停滞の背後には馬政権内の対日担当者間の主導権争いがある」との内情を明かす。一方、日本の外交筋は「事態の沈静化を待って代表交代もあり得るが、このまま台湾側の圧力に屈することはできない」といらだち、十分な意思疎通を図れない日台関係の現状を憂慮している。