【産経抄】豚小屋の中で餌を食らう生活

【産経抄】豚小屋の中で餌を食らう生活 
2017.7.3産経新聞

 香港という地名のいわれについては諸説ある。もっとも有力なのは、明の時代にこのあたりに植えられていた香木に由来するというものだ。外国産の高級品の取引の場でもあった。

 ▼「しぜんに『香』の港という名称がうまれたのかもしれない」と、作家の陳舜臣さんはいう(『香港』)。もっとも清朝政府が、住民の移住を進めたことで、香木産業は壊滅してしまった。

 ▼現在の香港住民にとっての香木とは、中国本土では到底望めない、言論の自由と司法の独立に他ならない。「一国二制度」によって、50年間は香港に高度の自治を認め、それらを守る。かつての中国の最高実力者、トウ小平氏が、英国のサッチャー首相に約束して、英国から中国への香港の主権の返還が実現した。

 ▼今月1日、返還20年を記念する式典が香港で開かれた。中国の習近平国家主席は一国二制度について、「中国による前例のない偉大な事業」と自賛した。もっとも2年前には、共産党の批判本を扱った書店の関係者が中国当局に身柄を拘束されている。とても、言論の自由が守られているとはいえない。

 ▼ノーベル平和賞受賞者でもある中国の民主活動家、劉暁波氏が、服役中に末期がんと診断されたニュースも、香港住民に衝撃を与えているようだ。習氏に対する数万人規模の抗議デモでは、劉氏の釈放を訴える声も上がった。

 ▼劉氏は2009年に、政府転覆扇動などの容疑で当局に逮捕された。その前年、小紙に寄せた原稿のなかでこう述べている。「中国人はこうして、豚小屋の中で餌を食らう生活を強いられ、自由と尊厳を求める権利を奪われてしまった」。香港住民の間で、自分を「中国人だ」と考える人が激減しているという。当然だろう。

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