【産経主張】日中首脳会談 「覇権」阻む意思が見えぬ 誤ったメッセージを与えた

【産経主張】日中首脳会談 「覇権」阻む意思が見えぬ 誤ったメッセージを与えた
2018.10.27産経新聞

 米国と中国が覇権を争う「新冷戦」の局面を迎え、国際社会は大きな地殻変動を起こしている。これに日本はどう向き合うか。安倍晋三首相の中国公式訪問で問われたのは、この一点に尽きる。

 だが、習近平国家主席や李克強首相との会談の成果とする関係改善は、日本が目指すべき対中外交とは程遠い。むしろ誤ったメッセージを国際社会に与えた。

 日米同盟を基軸とし、民主主義や市場経済などの価値観を欧米と共有する日本が、軍事や経済などで強国路線を突き進む中国に手を貸す選択肢はあり得ない。ここがうやむやなまま、友好ばかりが演出されたことを懸念する。

 ≪「一帯一路」支えるのか≫

 安倍政権はいま一度、中国の覇権を阻むという原点を思い起こすべきだ。中国に強権政治を根本的に改めるよう厳しく迫る。それが関係改善の大前提である。

 安倍首相は、習主席との間で「競争から協調へ」など新たな原則を確認した。いかにも前のめりである。

 中国は不公正貿易や知的財産侵害を改めない。南シナ海の覇権を狙う海洋進出やウイグル人弾圧を含む人権侵害も相変わらずだ。

 これでどうして新たな段階に入れるのか。米国はもちろん、アジアや欧州でも中国への視線は厳しさを増している。日本の対中外交はこの潮流に逆行しよう。

 日本は、天安門事件で国際的に孤立した中国にいち早く手を差し伸べ、天皇陛下の訪中や経済協力の再開に踏み切った。だが、日中が強い絆で結ばれるという期待は裏切られた。その教訓を生かせず二の舞いを演じるのか。

 日中は、経済や安全保障を含む幅広い分野で協力を強化する。象徴的なのが、両国以外の第三国でのインフラ開発協力だろう。

 両政府の呼びかけに応じ、日中の企業は事業を共同展開するため50件を超える覚書を締結した。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を念頭に置いた協力である。

 一帯一路は経済、軍事面で自らの勢力圏を広げるための国家戦略だ。相手国を借金で縛る手法は「新植民地主義」と評される。

 安倍首相は開放性や透明性などが協力の前提と指摘したが、日本の技術や資金が中国の膨張主義を支える構図に変わりはない。何よりも中国が、一帯一路への各国の批判をかわす根拠として日本の協力を利用することを危惧する。

 金融危機時に双方が通貨を融通し合う通貨交換協定の再開でも合意した。米中貿易戦争で中国経済の不安が高まる中、市場の安全網を敷く狙いだろう。だが、中国が優先すべきは国家の恣意(しい)的な市場介入を改めることだ。そこが不十分なまま、大々的に金融協力を行うのには違和感を覚える。

 ≪中国の脅威は減じない≫

 安倍首相は対中ODA(政府開発援助)について「歴史的使命を終えた」と述べて終了する方針を示した。これ自体は当然としても、新たな経済協力へと一足飛びに進む理由にはなるまい。

 日本は欧米とともに対中包囲網を強めようとしてきたはずだ。これとの整合性はあるのか。

 安全保障分野の「関係改善」にも疑念がある。日本にとって最大の脅威が中国なのは明らかだ。

 両首相は「日中は互いに脅威とならない」と確認した。海空連絡メカニズムでホットラインの設置協議も決まった。

 尖閣諸島をめぐり、安倍首相が李首相に「東シナ海の安定なくして真の関係改善はない」と伝えたのは当然だ。だが、これだけで脅威を構成する中国の「意図」と「能力」が減ずるだろうか。

 中国は尖閣を奪う意志を取り下げていない。周辺領海への中国公船の侵入などを首脳会談の主題にすべきだった。中国の軍拡や日本に向けられた弾道・巡航ミサイルの問題は論じたのか。南シナ海の人工島の軍事拠点化の問題もある。刃(やいば)を突きつけられた中での友好などあり得ない。

 安倍首相はウイグル問題を念頭に「国際社会が人権状況を注視している」と伝えたが、協力が強調された中で懸念は伝わったのか。北朝鮮の非核化や拉致問題を含め真剣な協力相手たり得るのか。

 これらを棚上げにして日中の首脳が笑顔で握手しても、真の友好は築けまい。中国は国際情勢次第で対日姿勢を変えてきた。ムードに流された関係改善は、砂上の楼閣に等しい。


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