2014.10.18 産経新聞
香港の民主化後退に反対する学生らが抗議行動を続けている問題で、梁振英行政長官は学生団体との対話を再提案した。学生側も前向きの姿勢を示している。
民主化を求める街頭占拠デモが流血の事態となるのを避けるためにも、対話は重要だ。しかし、当局側の狙いが時間稼ぎと民主化運動の切り崩しにあるのなら大きな間違いだ。
香港当局と中国は、学生たちの声に真摯(しんし)に耳を傾け、1997年の香港返還で約束した「高度な自治」を保証する「一国二制度」という国際公約を、実のある形で実現しなければならない。
中国は、2017年に予定される香港特別行政区の次期行政長官選挙で、親中派からなる約1200人の指名委員会で候補者を事前に選考する仕組みを決めた。
民主派は事実上、排除され、初の直接投票(普通選挙)は骨抜きとなる。抗議行動が返還後、最大規模となったのも当然である。
9月末に始まったデモでは、警官隊が香港中心部で学生らに催涙ガスを浴びせ、強制排除に動いた。警官が無抵抗の男性に暴行を加えたケースもあった。
現地のやくざの一団が、学生たちを襲撃し、民主派寄りの大衆紙、蘋果日報(アップルデーリー)には、社員への脅迫や配送トラックの妨害も行われた。
中国共産党機関紙の人民日報は、香港のデモを「動乱は禍をもたらす」と論評した。同紙は、1989年の天安門事件を「動乱」と位置づけている。流血の弾圧も辞さないとの恫喝(どうかつ)にも聞こえるが、香港の民主化デモを第二の天安門事件としてはならない。中国には、その責任がある。
中国の王毅外相は先の米中外相会談で、ケリー国務長官が香港情勢に懸念を表明したのに対し、「内政問題だ」と突っぱねた。だが、成熟したアジアの金融センターである香港の自由と安定は、国際社会の大きな関心事である。
梁行政長官は、学生側が選挙制度をめぐる中国の決定を受け入れることが対話の条件と繰り返している。しかし、それでは歩み寄りどころか対話も期待できない。少なくとも指名委員会の構成などで妥協を探るべきだろう。
今回のデモがいったん下火となっても、火種が残れば、2017年に向けて抗議行動は再燃する。香港の安定は遠のくだけだ。