【産経ハロランの眼】米中関係「戦略的あいまいさ」近づく限界

【産経ハロランの眼】米中関係「戦略的あいまいさ」近づく限界

2013.6.27 産経新聞

 過去60年にわたり、米国の対中政策は「戦略的あいまいさ」という構想によって方向付けられてきた。今月7、8の両日に米国カリフォルニア州で行われたオバマ大統領と習近平国家主席の米中首脳会談は「戦略的あいまいさ」に退いてもらい、「戦略的明瞭さ、戦術的あいまいさ」を選択すべきだということを示唆した。

 1949年10月に毛沢東率いる共産党が新中国を成立させた後、トルーマン大統領と米政権はジレンマを抱えた。大統領らは新中国との戦争に突入したくなかった。また、中国国民党が移った台湾が共産党の統制下に置かれることも望まなかった。

 こうして50年1月、トルーマン大統領は「米国政府は中国での内戦に関与するような方向を取らない」とする声明を出した。しかし、大統領とアドバイザーらは何をするかについて言及しようとしなかった。

 同年6月、北朝鮮が韓国を攻撃し朝鮮戦争が始まったとき、あいまいな政策は確固なものとなる。トルーマン大統領は西太平洋の第7艦隊に、共産党の台湾攻撃回避と、国民党による大陸攻撃の阻止を命じた。

 ベトナム戦争、79年の米国による台湾との国交断絶と中国との国交樹立、経済・政治・軍事面での中国の台頭へと時代が流れても、「戦略的あいまいさ」は米国の合言葉だった。狙いは、中国に米国の言動を臆測させ続けることにあった。しかし、この間、中国の指導者らは、いわゆる「核心的利益」の対象を明らかにするなど態度を硬化、時として挑戦的、攻撃的にさえなってきた。

 首脳会談で楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に)国務委員(外交担当)とドニロン大統領補佐官が説明した習主席の発言のトーンを比較してみよう。両者は会談後、それぞれメディアに会談内容を説明した。楊氏が語った中国の立場は明瞭だった。それは中国政府の台湾や南シナ海に関する主権要求、米国に対するサイバー攻撃への関与否定を含む。

 楊氏は、習主席が米中関係の「新型大国関係」に向けて提案をしたことが、会談の方向性を決めたと主張しているようだ。提案には、米中対話のレベルの格上げと米国製ハイテク機器の対中輸出の緩和がある。また、朝鮮半島やアフガニスタンのような武力衝突が起きかねない地域や平和維持活動、サイバーセキュリティーについても習主席が米中協力を求めたという。楊氏は、オバマ大統領が肯定的に応じたと説明した。

 しかし、ドニロン補佐官は、オバマ大統領は提案に反応していないことを示唆した。代わりにドニロン氏は、会談が8時間にわたったこと、会談の雰囲気について長々話した。

 実質的な事柄の中では、オバマ大統領が習主席に、中国による米国のコンピューターシステムへの侵入は悪い結果をもたらすと警告したと、ドニロン氏は説明した。だが、どういう意味か明らかにされなかった。

 オバマ大統領の対中姿勢というのは、共和党、民主党にかかわらず過去の複数政権の政策のように、ソフトであいまい、かつ恐らく煮え切らない印象だった。こうした米国の明確な目的と関心の欠如が、戦略的な誤算を生む可能性を高めてきたのだ。

 米国が「戦略的明瞭さ」を政策に取るとしたら、次のようになるだろう。台湾について、米国は現状変更の場合には平和的であるべきと主張し、台湾住民の要望を踏まえたものであるとする。南シナ海とほかの国際的な海洋上の問題については、すべての国の軍艦は国連海洋法条約に従い航行の自由を持つこととする。知的所有権では、米国は知的所有権の構成要件をめぐり文化的な違いを認識し、権利に関する合意に向けて交渉する考えがあるとする。

 こうした政策は、共和、民主両党の政権下で実質的に米国が取ってきた立場と、それほどかけ離れていない。だが、ニュアンスはより明確に、姿勢はより強いものとなろう。

 一方、米国はこうした政策などの遂行中は、米国人が守ろうとする国家の核心的な利益について、手段、タイミング、場所を決める権利を留保することになる。それが「戦術的あいまいさ」の本質となる。


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