産経ニュース閉じる2017.6.8 より
河添恵子
世界中が注視する“お騒がせ大富豪”がいる。名前は郭文貴氏。大ざっぱにいえば、「情報帝国」を築いた中国の曽慶紅元国家副主席の側近として、「海外のスパイ工作の胴元」だった馬建・前国家安全部副部長の手足となっていた人物だ。ビジネスマンとして北京五輪前にごっそり儲け、馬氏が失脚した2015年、中国の恥部を握り、香港から米国への逃亡に成功した。(夕刊フジ)
郭氏の“現職”は、米政府系ラジオ「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)のほか、メディアのインタビューを積極的に受け、ツイッターなどでも中国高官の恥部を暴露しまくることらしい。内容の真偽は、第三者には判断がつきかねる。
ある日には、「習近平国家主席は『自分は王岐山・中央規律検査委員会書記や、孟建柱・中央政法委員会書記を利用はしているが信用していない』と傅政華公安部副部長に語り、2人に関する腐敗調査を開始している」などと放言している。
胡錦濤前国家主席も、側近中の側近だった令計画・元中央弁公庁主任(終身刑)と、その一族に見事に裏切られた。中国社会が「面従腹背」「昨日の友は今日の敵」の“騙し合い”“チクリ合い”であることは確かだ。
習氏は4月6、7日、フロリダ州パームビーチの別荘「マール・ア・ラーゴ」で開かれた米中首脳会談で、ドナルド・トランプ大統領に対し、中国の機密資料2700余りを手に米国へ逃げた令氏の弟、令完成氏と、国際刑事警察機構から指名手配の身である郭氏について、中国への送還や横領品の回収への協力を願い出たという。
だが、郭氏は複数の外国パスポートやグリーンカードを所持し、中国パスポートを使用していない。加えて、「米連邦捜査局(FBI)や米中央情報局(CIA)と連絡を取り合っている」と、米国の保護下にあることを暗に訴え、抵抗している。
米国としても、ニューヨーク・タイムズ紙が先日報じた通り、中国でスパイ活動をしていたCIAの情報提供者が2010年以降、殺害や拘束されて、中国においての米国のスパイ網が壊滅的状況に陥っていたとすれば、郭氏のような“獲物”は離したくないはずだ。
しかも驚くことに、郭氏はトランプ家の別荘で、高級会員制リゾートとして運営されてきた、前出の「マール・ア・ラーゴ」クラブのメンバーの1人だという。
英紙タイムズや中国の一部メディアからは、英国のトニー・ブレア元首相と郭氏との関係が報じられている。13年にブレア元首相は、数十億ドルを集める郭氏を手助けすべく、プライベートジェット機でともにアブダビへ飛び、ロイヤルファミリーを紹介したというのだ。
郭氏は、ただの目立ちたがり屋のゴロツキではないらしい。それにしても世界の人物相関図は複雑怪奇だ。 (ノンフィクション作家・河添恵子)