党と軍最優先の習演説、国民の自由や人権は後回し
平成国際大学教授 浅野 和生
1949年10月1日の読売新聞は朝刊1面に「多難な中國の前途/内戦で十年逆行/中共 都市経営では失敗」と題する記事を掲載し、「毛沢東(マオ・ツオートン)中共主席は1日中華人民政府の正式成立を宣言すると外電は伝えてきた」と報じた。
当時の日本はまだ連合国の支配下で、新聞は海外取材がままならなかったから、中国共産党支配地区の実情などは、「外電を基礎として展望」しなければならなかった。
同記事によると、国共内戦4年を経た中国は、「戦時中にくらべ石炭70%弱、銑鉄64%弱、電力52%弱と低下しており、全般的にみて終戦時から平均10年逆行している」状況だった。農業も、「灌漑、排水、治水施設の放置損傷、農地の管理不良、肥料、農業薬品の不足、農具の消耗、技術の低下、農村の荒廃」から各地で耕作不能に陥っていた。
<<史上まれな監視国家に>>
また、この6月末に国民政府軍が開始した上海の海上封鎖により、7月20日には「上海工業の40%を占める紡績業は過去二か月来著しい衰退を示し6月に比し7月には45%の低下をみせ」「上海、南京地区では水道は一日四時間の時間給水」となっていた(AFP電)。
こうして内戦中の避難民と武装を解除された旧国府軍兵士、旧官僚、生産から離れた市民などは、転落して「北京、天津、上海、南京等大都市の乞食となり」プロレタリアートと称して商店工場に喜捨を強要し、営業を妨害するなど「厄介な問題」となっていた。だから、内戦が終息してもこれから3年や5年で回復できるものではなく「費用にかまわず復興を進めても優に十年の歳月を要する」と見られていた。これが建国当時の中華人民共和国の姿であった。
それから70年を経た天安門の楼上で、国家主席の習近平は、「今日では、中国は世界の東方に屹立(きつりつ)しており」「我々の祖国の偉大な地位を脅かし、我々の前途を阻む存在はない」と高らかに謳(うた)い上げた。この70年で中国は、確かに世界の工場となり、世界第2の軍事大国となった。
しかし同時に、アメリカ副大統領のペンスが10月24日の対中問題演説が示したように、中国は世界各地で債務外交を展開し、軍事を拡張し、国民の信仰を抑圧し、顔認証カメラによる史上まれにみる監視国家を築き上げている。これに対して、2017年の「国家安全保障戦略」でトランプ政権は、中国は「戦略的、経済的なライバル」だとの認識を示した。中国の自信は単なるうぬぼれではない。
ところで、漢字でわずか883文字の習演説は、以下のことを明示した。
まず、習近平は中国の前途に向けて「我々は中国共産党による指導を堅持し」「中国の特色ある社会主義の道を堅持し」「中国共産党の基本理念、基本路線、基本政策」を全面的に貫徹し執行しなければならないと明言した。別のところでは、「全党、全軍、全国各民族がさらに緊密に団結する」ことを求めたが、この国の優先順位は共産党、軍隊、人民の順であって、人民は後回しなのである。そこには、国民の自由、民主、基本的人権を尊重する理念は一片も見られない。
さらに習近平は、「一国二制度」の方式で、台湾を「平和統一」すると謳ったが、「一国二制度」の実態は、今日の香港が如実に示している。今日の香港が明日の台湾になることなど、自由と人権を享受する台湾人からすれば真っ平御免である。
<<日米台が連携し対峙を>>
最後に、中国の人民解放軍と人民武装警察は、国家主権、安全、利益の発展を堅持し、世界平和を維持するよう固く決意していると習近平は述べた。共産党一党独裁の中国軍が、自国の平和と安全を超えて「世界平和の維持」を謳うことに、恐怖を禁じ得ない。習近平の中国が守ろうとする世界平和は、「中国共産党の意のままの世界」であるに違いないからである。そうならないために日本は、アメリカ、台湾など価値観を共有する国々とスクラムを組んで、中国と対峙(たいじ)していかなければならない。
ところで、建国当時の中華人民共和国は70年後の今日と似ても似つかぬものであった。今の中国が70年後も続いているとは限らないのである。(あさの・かずお)
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