�.情勢と課題
今後1−2世代にわたってグローバル化の趨勢は発展し続けるだろう。その前提で世界は伝統的な国家を基盤とした有形の世界を保ちながら、通信、資本、貿易、技術、サービス、人口流動などによって連関が強まり、超大型都市を連結点としたネットワーク社会という無形社会ができあがるだろう。これによって世界各国は政治、経済、社会、文化などの領域において連結が強まり、相互依存も深まることになろう。グローバル化はさらに多くの、複雑な、国家を超えた問題を惹起している。たとえば貧富格差、気候変動、エネルギー不足、経済危機、テロリズムなどといった伝統的なものと異なる安保問題が伝統的な国家という枠組みや政府のガバナンスに大きな衝撃や課題を突きつけている。
グローバル化の趨勢において、世界経済の急速な成長の軸および経済力の流動的な変動によって新興大国が台頭しつつある。これがまた既存の地政学および戦略の枠組みに衝撃をもたらしている。中国、インド、ロシアがその中でも最も注目されている新興大国である。こうした新たな変動と趨勢の中で、米国は世界唯一の超大国でありつつも、米国だけが一極主義的に世界を左右するという力は徐々に弱まりつつあり、不均衡で多極的な国際秩序が形成されつつある。新興大国と伝統的な大国が一極になるべくつばぜり合いを行っている。そのなかで、新興大国と伝統的な大国が米国とともに世界秩序の決定者となるべくつばぜり合いを行っている。歴史的にみると、新興大国の興隆によって、既存の大国との間でいかなる新しい、複雑な国際秩序がもたらされるかは、不透明である。台頭しつつある中国はそのなかの鍵を握るだろう。
東アジアにおいて、日米安保体制はこの地域の安保の重要な要の石であった。しかし中国の台頭によってこの体制にも衝撃がもたらされ、新たな地域安保秩序形成をもたらしつつある。こうした戦略情勢の発展と変化は台湾が繁栄と発展、民主主義と自由、生存安全などの国家安保目標を維持するために正視すべき客観情勢である。歴史的要因によって、両岸が長年にわたって対峙してきた。そのためこの30年来交流の幅が少しずつ拡大しつつあっても対立構造は変わっておらず、単に隠然化したに過ぎない。そこでの鍵は主権問題であり、双方の思想、観念、制度はより大きな違いがみられる。三十年にわたる交流によって両岸関係は変化し、経済往来の密切の度合いはこれまでに経験したことのないものになっている。しかし思想、観念、制度は歩み寄るどころか、違いはますます大きくなっているのが実情である。
中国は三十年の改革開放を通じて台頭し、世界的なパワーになったという見方もある。しかしながら、政治、経済、社会、文化など各方面にわたって、その将来性は不確実なものだといわざるをえない。政治改革は遅々として進まず、経済発展と国家資本主義化、社会的亀裂と社会矛盾はより深刻になりつつある。毛澤東主義の亡霊は中国の上空を徘徊している。国際社会が注目していることは、台頭しつつある中国が新しい国際秩序の中で「責任をもつ利害関係者」となれるかどうかであり、世界に対して建設的な役割を発揮するか、あるいは拡張主義的な民族主義を鼓吹して「偉大な民族の復興」的な「中国の台頭」を目指すのかということである。中国がそのどちらを選択するかが、地域の平和と繁栄に対して大きく関係するであろうし、当然ながら台湾の国家安保と発展にも大きな影響を及ぼすことになろう。
しかしながら、2008年馬政権になってから、中国社会の全体的発展が複雑な次元を内包していることを無視して、かつグローバル化社会における台湾とその他の国との交流で持つべき主体性をないがしろにして、中国だけを台湾の安保と発展の唯一の依存対象であり、唯一の道であるかのように錯覚した路線を推し進めている。これは台湾の国家安保と主体性をますます周縁化させるものであり、中国の不確実な発展の「従属変数」に自ら陥れている。このままでは台湾はグローバル化による世界の発展のなかで、「アジアの孤児」になりかねない。
大航海時代の始まりとともに、台湾は当時のグローバル化に参加することになった。歴史の流れを見るならば、台湾の生存、繁栄、発展はわれわれが身をおいている歴史的大環境や歴史的舞台を十分に認識できるか、そして参加し、活用できるかにかかっている。現在われわれが身をおいているグローバル化においては台頭する中国という存在、および世界秩序の再編に直面している。そのなかで最も鍵となり、最も大きな変数なのは中国である。それは台湾にとって発展の機会でもあると同時に、台湾の主権問題に対して最も非友好的で、そしてその台頭とともに、その意図と将来性が不透明で不確実な発展段階にある中国と直面しているのである。これは台湾の現在の国家安保と発展に対して大きな課題を突きつけている。
台湾はグローバルコミュニティの一員として、グローバル社会の発展と中国の台頭によってもたらされた機会と課題と問題を正視する必要がある。そして「共同の責任、共同の義務」という考えによってこの大環境の変化を直視し、新しい戦略的思考によってこうした変化に対面し、課題に立ち向かう必要がある。台湾の生存安全、価値尊厳と繁栄発展を守るために、グローバルコミュニティの一員として世界の平和と発展を維持する義務をもっている。この土地で生まれ育った民主進歩党はその責任を背負う必要がある。