【正論】「日米中」は正三角形にあらず

【正論】「日米中」は正三角形にあらず

2010.1.19 産経新聞

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【編集長の一言】
正三角形論は無知としか言いようがない。実際は論評に値しないものだ。
これほどの暴論を口にするのは愚かな者か、国民を欺ける権力の亡者かのどちらかだ。

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            平和・安全保障研究所理事長 西原正 

 昨年以来の普天間基地をめぐる民主党政権の迷走ぶりは、長期的に日米関係に大きな影響を与えることは間違いない。二国間で取り決めたれっきとした協定をひっくり返して、沖縄・辺野古に代わる新しい移設先を今ごろになって一方的に探すというのは、米国との信義にもとる行為である。

 しかし、これだけ外交の継続性無視を批判されながらも、辺野古に代わる基地を探す議論を蒸し返しているのを見ると、民主党指導者の思考の根底に、連立の相手である社民党への配慮の重要性を強調しながら、むしろそれを利用して、日米関係の構図を基本的なところで変えようという考えがあるからなのだろう。

 ≪「離米接中」戦略の発動か≫

 その考えというのは、米国との関係に一定の距離を置き、台頭する中国により接近するという「離米接中」戦略がよいとするものである。これを示すいくつかの事例がある。

 まず鳩山由紀夫総理は昨年9月のニューヨークでの日中首脳会談で胡錦濤国家主席に東アジア共同体構想を日中連携を核として構築すると説明している。批判を受けて、総理は米国の参加が重要であると修正したものの、岡田克也外相はいまだに米国なしの東アジア共同体構想を唱えている。さらに憂慮すべきは、日米関係が冷却化し始めている時に、小沢一郎民主党幹事長が140人もの民主党国会議員を含む600人もの民主党関係者を北京に引率し、日中関係の緊密さをアピールしたことだ。

 こうした米国への無神経ぶりに加えて、より深刻なのは、訪中団の副団長としての山岡賢次国対委員長が上海の著名な研究所のシンポジウムで、「日米中関係は正三角形であるべきだ」と発言していたことである。これは同盟国である米国と中国を同列に扱うということである。

 鳩山総理や岡田外相は日米関係の重要性から、こうした山岡発言を即座に撤回させるなり、自分で否定するなりすべきであった。そんな動きがないのは、やはり鳩山内閣のトップも認識を共有しているからであろう。

 ≪「接待力」に圧倒された≫

 民主党幹部には、今後の中国がもたらすであろう経済的、軍事的脅威への認識、警戒心が薄い。「日本経済の将来は米国の市場に依存するよりも、中国の市場の開拓にかけた方が得策だ。中国は脅威ではないのだから軍事面で米国に依存する必要はない」といった誤った中国観で動いているようだ。小沢幹事長は中国で、「中国が軍事力の増強を抑えなければ、日本の保守勢力がうるさいから気をつけてほしい」という意味の発言をしている。中国の軍事的脅威を自分の意見として言っていないのは、小沢氏が中国の「接待力」に圧倒されてまともに中国を批判できなかったのだろうか。そうとしたら、何のために中国へ行ったのだろうか。

 権威主義体制の中国は党や国家の方針で市場の拡張、軍事力拡大を図れば、東アジアで覇権的地位を占めることのできる能力をもち始めている。これに対抗するには、日本は米国や他の友好国と連携する以外に有効な手段がないのだという認識が民主党にないのは、政権党として無定見、無責任というほかはない。

 ≪中国の影響下に入ってしまう≫

 鳩山総理は普天間基地問題を本年5月までに決着させると言明している。もし決着できるとしても、その先の総理の外交戦略は何なのかまったく見えてこない。現状では、辺野古移設の白紙化だけが明確で、日米同盟は国際安全保障のためにどのような機能(日本の役割、米国の役割)を持たせるのか、またそうすることで日米同盟の将来をどう展望するのか、全く分からない。これでは米国が不安になるのは当たり前である。東アジア問題にかかわってきた元米高官は、ある会合で「日米関係に空洞ができた」と言っていた。

 在韓米軍の主目的が韓国の防衛であるのに対して、在日米軍は日本および周辺地域の防衛、さらに東南アジア、インド洋、中東への兵力投入にある。台湾の馬英九政権が中国に接近できるのは、日米同盟をもとに在日米軍が両岸関係の安定に一定の役割を果たしてくれるとの期待があるからである。

 インドネシアのユドヨノ大統領は、日米同盟は東アジアの安全保障のインフラであると公言して憚(はばか)らない。米海軍第7艦隊がインド洋や湾岸海域で活動できるのは、日本を母港とすることができるからである。

 日米同盟が弱体化すれば、アジアの安定に悪影響を与えるばかりでなく、日本自身の発言力を弱めることになる。G8サミットなどで日本が発言できるのも、日本が世界の安全に一定の役割を果たしていることを主要国が認めているからである。

 民主党政権が、日米中関係は正三角形との思考で外交戦略を立てれば、日本は米国に対しても、また中国に対しても発言力を失うことになる。そしてやがて日本は中国の影響下に入ってしまうであろう。(にしはら まさし)


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