ブログ 台湾は日本の生命線!より転載
■感銘与えた日中「草の根交流」物語だが
他国民を取り込むための謀略放送は珍しくないが、中国が巧妙さは他国の放送局を使ってそれを行うことにある。
中国寄りの主張が目立つNHKの報道番組「クローズアップ現代」などは利用されているのではないか。一月二十二日に放送の「日中関係“草の根交流”の挑戦」は「尖閣諸島の国有化を受け、深刻な政治対立や経済の冷え込みが続く日本と中国。その陰で日中双方の市民が草の根の交流を続け、新たな未来関係を模索し始めている」(番組HP)ことを伝える内容だったが、どう見てもあの国の対日宣伝に符合するものだった。
おそらくこれを見た多くの視聴者は深い感銘を受けたと思われる。
何しろここでまず紹介されたのは、真摯に日中友好を望み、懸命に日本語を学ぶ中国の大学生たちの姿だったからだ。
たとえば女子学生の李欣晨さん。日中両国民が過去の歴史問題で罵り合うことに懸念を抱き、「なぜ現代の平和に目を向けないのか」「みな平和な生活を望んで戦ったはずだ。地下で眠る犠牲者が望んだのは、悪いレッテルを貼り合うことではない」と訴え、「周りの人たちに先入観を持たずに相手に接するように呼びかけたい」と健気に語っていた。善良な日本人であれば、これに胸を打たれない者はいまい。
もう一人の女子学生、兪妍驕さんは、「中国人は個人意識が強く声が大きい」として、反日暴動を批判。あの国の反日感情に辟易し、あるいは恐怖する視聴者には、一服の清涼剤となったことだろう。
そして張鶴達さん。ネットで東日本大震災の被災者への哀悼の思いを書き綴ったところ、「売国奴」と書きこまれショックを受けたという男子学生だ。日中双方の国民が相手のことを知ろうとしない「無関心ウイルス」の広がりが友好の壁になっていると危機感を募らせていたが、そんな思いに共鳴した視聴者は大勢いたと思う。
■日本人に反中感情への反省促すコメント
これらの大学生について「ごく普通の若者。七割以上がこういう方々」とコメントしたのが、スタジオにいる国際日本文化研究センターの劉建輝准教授だ。
この言葉に驚いたり、喜んだり、己の不明を恥じたり、そして感涙にむせび泣いたりと、視聴者の反応はさまざまだったに違いない。
番組が大学生たちに次いで紹介したのが、元サッカー日本代表監督で現在は中国のサッカーチームの監督を務める岡田武史氏である。
「子どもの世代に争いを残したくない」「ぼくが中国人と心を一つにして必死になって戦っている姿を見せたい」「文化やスポーツには力がある」との思いを現地で語る岡田氏。次のように訴えていた。
「中国が嫌いだ、中国ってひどい国だと言っているほとんどの人が中国へ行ったことがなかったり、中国の友人がいなかったり、住んだことがない。知らないのだ。そしてそういうイメージばかりが膨らんで空気が出来上がって、中国は許せないと。そして争いが起きて行くと言うのはおかしい。避けなければいけない」
国民の尊敬を集める岡田氏の発言に、「そのとおりだ」と大きく頷いた視聴者はどれほどいたのだろう。
■サッカー岡田武史監督は気が付いていない
だがここで私は、岡田氏に反論をしなければならない。
中国に長期間住んだことのある日本人であればこそ、心底中国が「嫌い」で「ひどい国と思っている」からだ。その多くは現地で日中間の文化、価値観の如何ともし難い溝に遭遇し、それに悩まされた経験を持っている。
たしかに向こうで優遇され、その「溝」に気付かない人は少なくはない(もっと多いのは気付かないふりをする人だが)。岡田氏もその一人なのかも知れないが、それにしてもちょっと世間知らずではないか。
また今では中国に行ったことがない日本人でも、そうした「溝」の深さを知り、あの国への不信感、嫌悪感、恐怖心を抱いているのは普通である。それは言うまでもなく、日本にいながらにして、中国政府の拡張政策の脅威を目の当たりにしているためだ。
今日の「争い」の源も、何よりそうした覇権主義にあるのであり、岡田氏が言うような日本人の誤った対中「イメージ」などではないのである。
この番組自体も、この「争い」の源への言及はなかった。それでどうして「新たな未来関係を模索」ができるのかと言いたくなるが、そうした現実を隠蔽するあたりに、謀略番組の謀略番組たるゆえんがあるのだろう。
■中国の報道統制要求に合致する番組
番組の中で着目したいのは、「無関心ウイルス」を懸念する大学生の張鶴達さんが、両国の「無関心ウイルス」の広がりの原因を「何か事件が起こるたびに、互いに反感と憎悪感を燃え上がらせ、普段の日本、普段の中国、あるいは良いニュースには無関心」であることに求めていたことだ。
何とも子供染みた意見ではあるが、実はこれこそ中国政府の宣伝を鵜呑みにしたものなのである。
言うまでもなく中国政府は世界で広がる「中国脅威論」こそ脅威に感じ、その火消し宣伝に躍起になっているところだ。
たとえば〇九年三月に来日した中共の報道統制の最高責任者だった李長春政治局常務委員は、NHK会長を含む日本のマスメディア各社のトップを集め、「両国の圧倒的多数の民衆はメディアを通じて相手国や両国関係を理解している。両国人民間の相互理解と信頼を促し、両国間の協力強化にプラスとなるニュースを多く報道すべきだ」との「重要意見」を伝えている。
これは言わば報道統制の要求であるが、それに沿った発言をしたのが張鶴達さんであり、その発言をクロースアップして伝えたのが「クロースアップ現代」であるわけだ。
都内でマスコミ各社のトップを集め親中報道を要求する李長春氏
すでに見てきたように、そもそもこの番組自体がその要求に従った形で制作されたと言っていい。中国の「プラス」面を誇張し、「マイナス」面を忘れさせる印象操作を、ここまで見事にやってのけているではないか。
■いったい何万人の視聴者が洗脳を
今回の番組は、日中友好を求める理性的な若者たちを紹介する一方で、中国の反日暴徒の狼藉映像を繰り返し流し、それらが「ごく一部の無知蒙昧な群衆にすぎない」との強い印象をもたらしたが、それは「中国に反感を持つ日本人も実際はそれと同レベルだ」と批判し、反省を促すものに見えた。
私などは日頃から反中デモに参加しているため、「番組を鵜呑みにする人々から批判されそうだ」などと思わず心配してしまったほどである。
番組終了直後には早くもツイッターで「これからは中国の悪口を言うのをやめよう」とのコメントを見かけた。おそらくそれは大勢の視聴者が共有した感想であり、決意であるに違いない。
ビデオリサーチによると、関東地区における世帯視聴率は一二・六%。一%当たり十八万九十世帯だから、関東だけでもおよそ二百二十七万世帯もが番組を見ていた計算だが、そのうちいったい何万人の人々が、中国覇権主義への警戒心を緩め、自らの対中不信感を反省し、あるいは中国との緊張を高めるなどとして自国政府の尖閣諸島を巡る対応に不信感を抱いたのだろうか。
NHK謀略番組の影響力の侮り難きに、今更ながらに恐れ戦くばかりだ。
そう言えば「クローズアップ現代」は一〇年六月一日、来日した温家宝首相を本人の要請で出演させ、「中国はこれからも平和的発展の道を堅持する。いかなる国に対しても永遠に脅威とはならない」といった虚構宣伝を許したこともある。