日本李登輝友の会メールマガジン「日台共栄」より転載
台湾の平和中立宣言について 小田村 四郎(日本李登輝友の会会長)
3月17日、本会の小田村四郎会長は、日本李登輝友の会の声明として「台湾の平和中立宣言につ
いて」を発表した。
発表までの経緯について簡単に記しておきたい。
去る2月23日、台湾の呂秀蓮・元副総統は蔡明憲・元国防部長、張旭成・元国家安全会議副秘書
長とともに、日本戦略研究フォーラム(平林博・会長代行)のセミナーにおいて、同フォーラム理
事の川村純彦氏による司会進行の下、「台湾の将来と日米台の安全保障協力」をテーマに話した。
このとき三氏は、呂元副総統が発起人だという2014年12月25日付の台湾和平中立大同盟による
「平和中立な台湾を─台湾平和中立宣言」と題したチラシを配布、台湾の平和中立化を目指す運動
についても説明した。
日本李登輝友の会では、政策提言を策定している部内の「日米台の安全保障等に関する研究会」
(座長:川村純彦・常務理事)においてこの構想について検討した。その結果、台湾の平和中立化
は、非現実的であるばかりでなく、アジア太平洋地域の平和と安定を目指すわが国及び日米同盟の
努力に対する阻害要因となりかねず、好ましくない方向であるとの結論に達した。そこで、小田村
会長による声明発表となった次第である。
平成27年(2015年)3月18日
日本李登輝友の会 常務理事・事務局長 柚原 正敬
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平成27年(2015年)3月17日
台湾の平和中立宣言について
日本李登輝友の会 会長 小田村 四郎
現在、台湾で呂秀蓮元副総統を中心に「台湾の平和中立化」を目指す運動が進められている。台
湾が生き残るため、中国とも、日米両国とも等距離の外交を行うことによって、中国及び日米間の
パワーを利用することが可能となり、結果的に東シナ海の平和協力による更なる成果を生み出そう
とするものである。
日本李登輝友の会は、部内の「日米台の安全保障等に関する研究会」においてこの構想について
検討を行った結果、台湾の平和中立化は、非現実的であるばかりでなく、アジア太平洋地域の平和
と安定を目指すわが国及び日米同盟の努力に対する阻害要因となりかねず、好ましくない方向であ
るとの結論に達した。
東アジアの覇権獲得を目指す中国は、米国と太平洋を分割統治することを狙って強引な海洋進出
を続けており、アジア太平洋地域の平和と安定を脅かす最大の不安定要因となっている。
一方、地域の平和と安定の維持を目指す日米同盟にとって、国際法を無視した強引な手法で海洋
進出を続ける中国を牽制するには、日本列島‐沖縄諸島‐台湾‐フィリピン‐ベトナムを結ぶ第1
列島線の防衛が死活的に重要な課題である。
第1列島線上にあって、戦略的に最も重要な「かなめ石」の位置に存在する台湾の去就は、アジ
ア太平洋地域の平和と安定に直結しており、日米両国だけでなく、その他の地域諸国にとっても安
全保障上の最大の関心事である。台湾とは運命共同体とも言うべき関係にあるわが国に限らず、そ
の他の地域諸国にとっても、自由と民主主義、人権、法治等の普遍的価値観を共有する台湾との安
全保障協力を推進することは極めて重要である。
確かに、中立を選択することは独立国としての主権の行使であり、平和中立を宣言することも一
国の権限に属する事項であるが、中立が実現するには、関係諸国の承認が必要であり、中立化に参
加した諸国には、中立国の独立と領土保全を常時保障する義務が生じる。
「台湾の平和中立化」運動が目指すのは武装中立である。国際法上、中立国はその領土を他国軍
隊に利用させない義務があり、中立国となった台湾には、核抑止力を含む強固な防衛力を整備する
と共に、国民にはいかなる犠牲を払っても中立を守り抜くという確固たる決意と責務を担うことが
求められる。
このように、武装中立には莫大な軍事費を要するとともに、国民がこぞって参加する必要があ
り、徴兵制から志願制に移行しようとしている台湾の潮流に逆らうことになろう。
台湾の中立化には中国の承認が不可欠であるが、台湾の統一を主張してきた中国が中立を承認す
るとは考えられない。その上、台湾の積極的な安全保障協力を必要とする米国やその同盟国・友好
国が台湾の中立を歓迎するとは考えられず、たとえ台湾が中立国を宣言したとしても、台湾周辺海
空域においては米中間の対立が激化し、地域の緊張がさらに高まる可能性が高い。
これらの状況から判断して、台湾の平和中立化は非現実的な机上の空論であるだけではなく、そ
の推進運動が台湾国民の間に新たな分裂を生み出す可能性も否定できず、日米台の緊密な安全保障
協力の推進にとって阻害要因となる危険性があると言わざるを得ない。
このように台湾の平和中立化は地域の平和と安定にとって極めて重大な影響をもたらす問題であ
り、単に台湾の国内問題として取り扱われるべきではなく、普遍的価値観を共有する諸国、特に日
米両国との緊密な調整の下で慎重に取り扱われるべき問題である。