国際会議センターにて、日本、米国、台湾の3カ国による国際シンポジウム「中国の台頭と
アジア太平洋地域の安全」が開催された。
昨年のシンポジウムには、日本から安倍晋三氏がパネリストとして登壇したが、今年は
拓殖大学総長・学長の渡辺利夫(わたなべ・としお)氏と元海上自衛隊護衛艦隊司令で岡
崎研究所理事の金田秀昭(かねだ・ひであき)氏が登壇。小田村四郎・本会会長の名代と
して川村純彦(かわむら・すみひこ)常務理事、実務責任者として柚原正敬(ゆはら・ま
さたか)事務局長が参加した。
アメリカからは国際関係学を専攻するペンシルバニア大学のアーサー・ワードン
(Arthur Waldron)氏がパネリストとして参加。
尖閣諸島をめぐる動きが激しいさ中のシンポジウムだったが、200名の会場はほぼ満席と
なり、午前9時の羅福全・台湾安保協会理事長の開会挨拶に始まり、川村常務理事が小田村
会長のメッセージ(下記に紹介)を代読して挨拶、続いて蘇貞昌・民進党主席が来賓挨拶
してシンポジウムははじまった。第1セッションから第4セッションまで昼食を挟んで午後5
時までたっぷり行われ、盛会裡に終了した。
前日(20日)の歓迎レセプションと当日(21日)のお別れレセプションは国賓大飯店で
行われ、登壇者や関係者などの間で親密な交流が図られとても有意義な時間となった。
不思議といえば不思議だが、シンポジウムでは「良識」が働いたのか、まったく尖閣諸
島のことは出てこなかった。蘇貞昌氏が南沙諸島の台湾の領有について触れたときに尖閣
領有にも触れたが、中国とは連携しないと断言し、日本との友好関係を保つことに力点を
置く触れ方で、シンポジウムでは「中国の台頭」に日米台はどのように対応するのかにつ
いて熱心に討議された。
台湾国内も尖閣に関しては「あれは一部の人がやっていること」「漁民の問題」という
捉え方がほとんどで、卵をぶつけられたりラーメンをかけられたりなどということは一切
なかった。いつも通り、日本人には親切な雰囲気に満ちあふれていた台湾だった。
なお、後日、渡辺利夫氏と金田秀昭氏のレジュメ全文を本誌でご紹介したい。下記に金
田氏の提言を伝える9月22日付「自由時報」の記事も紹介する。
◆自由時報「日退休將領 籲台灣提升防衛能力」[2012/9/22] http://www.libertytimes.com.tw/2012/new/sep/22/today-fo9-2.htm
台湾安全保障シンポジウムに寄せるメッセージ
日本李登輝友の会会長・元拓殖大学総長 小田村 四郎
この度台湾安全保障シンポジウムが開催されることを心からお歓び申し上げます。残念
乍ら私は所用のため参加できませんが、充実した成果を挙げられることを祈っております。
さて、日本は台湾を除いて近隣を非友好国に取巻かれています。固有の領土を日本の敗
戦時又は被占領期に不法占拠したまま既成事実化しようとする国々(ロシア、韓国)、無辜
の同胞を不法に拉致したままその情報すら伝えようとしない国(北朝鮮)がそれですが、
何よりも警戒すべきは巨大国中国の軍事的、思想的脅威です。
中国は天安門事件後、1990年代に入るや改革開放政策の一層の推進とともに軍備の大拡
張に着手しました。軍事費は毎年二桁の伸びを続け、躍進する経済力を背景に今や目を見
張る程の軍事大国に成長しました。その中心は海空軍の増強であり、さらにサイバー戦
力、宇宙戦力に於ても米国に匹敵する能力を持とうとしています。特に警戒すべきは海洋
進出であり、東は東支那海から第一列島線を越えて第二列島線に迫ろうとし、南は南支那
海を制圧してASEAN諸国を脅威し、西は印度洋からアラビア海を越えてアフリカの資
源漁りに狂奔しています。
その領土的野心は既にチベット、ウイグルと共に南支那海をも「核心的利益」と称して
いますが、彼等の最大の目標は台湾であり、既に建国以来台湾を自らの「固有の領土」と
断じ、「反国家分裂法」を制定して台湾の独立のみならず現状維持すら攻撃の口実とする
構えを見せています。万一、台湾が共産中国の手中に陥るようなことになれば、台湾2300
万の国民にとって最悪の不幸となるのみならず、東支那海、南支那海は完全に彼に制覇さ
れ、台湾は中国海空軍(特に潜水艦)の重要基地となり、西太平洋制圧の重要拠点となる
でしょう。それは日本のシーレーン確保に対する重大な打撃となり、東アジアのみならず
世界の自由主義国家群にとっても恐るべき脅威となります。
既に43年前の1969年11月21日、沖縄返還に関する日米共同声明に於て、当時の佐藤栄作
首相は、「台湾地域の平和と安全の確保は、日本の安全にとって極めて重要な要素であ
る」と述べましたが、その情況は当時に比して現在遥かに深刻となっています。
中国は今や台湾併呑に止まらず、日本固有の領土である尖閣諸島まで「核心的利益」と
称し、さらに琉球列島までも領有権を主張しつつあります。中国の領土的野心は日本その
ものに向っているのです。
それ故に日台両国は運命共同体であり、共同して中国の脅威に対抗しなければなりませ
ん。しかし当面は正規の国交がないので表だって協力はできませんが、民間同士の交流、
或いは米国等の第三国を通じての交流等、凡ゆる方途を検討する必要があります。同時に
日本政府は集団的自衛権行使の確認をはじめ国防体制の一層の強化を図る必要があります
し、台湾政府もまた国防力の強化に努めるとともに、台中交流に当っては重大な警戒心を
もって処理して行って欲しいと思います。また両国とも特に米国とは緊密な連繋を保持し
て行くべきことは言うまでもありません。