【寄稿】馬英九総統は無能か

【寄稿】馬英九総統は無能か?

                日本台湾医師連合理事 王 紹英

「中華民国」馬英九総統の支持率は史上最低の9.2%に下落し、おそらく回復の見込みは無いのが多くの「本土派評論家」の希望的観測を込めた見方のようです。「中華民国」国民の支持を失いつつあることは事実でしょう。

これは馬英九政権の無能に帰すべきだと、鬼の首を取ったかのように喜んでいるのが台湾本土派です。しかし馬英九は本当に「無能」でしょうか、と自分は常々疑問を抱いています。

馬英九は「中華民国総統」として、「有能であった」と将来中国の歴史が評価するかもしれません、と私が思っています。中華歴史での有能の否かの評価は中華文化の価値観に沿ったものであり、人民の生活とか、民主とか、人権とか、理性とか、正義とか、現代文明社会が用いる基準が入る余地はありません。中華の「偉人」たちは、我々からどう見ても文明社会に相応しい価値観の持ち主だと到底思われません。

馬英九はハーバード大学に留学中の二年間、国民党政権の学生スパイを務め、多くの反独裁の台湾人留学生を密告し、彼らを刑場の露に消しました。このことから考えると、馬英九の人格的欠陥を論ずるまえに、彼は陰険な密告者として非常に長けていると言い切っていいです。

根から反日でありながらも、親日であるかのように日本に親愛・友好な姿勢をアピールし、あたかも親日的な「台湾」政治家かのように日本人に信じ込ませたことも、欺瞞外交には頗る有能であると評価すべきだと思っています。

掌を返すように「中華民国」前総統の陳水扁を躊躇せずに迫害したのも、恩知らずに元総統の李登輝を司法威嚇しているのも、彼の強い信念に基づいての行動であります。こんな破廉恥で理不尽の行動をしても尚かつ一割の中華民国国民の支持者がいることを思うと、彼は群衆運動に長けて、群衆を魅了する天性の持ち主だと言えなくもありません。

多くの台湾系支那人を操って犬馬の労を務めさせる一方、本土派同士をうまく内ゲバに明け暮れさせ、自分の権力基盤を岩盤のごとくに強くしてきました。彼は相当政治闘争センスの持ち主であり、台湾人に宿っている病的民族性格をよく勉強した勉強家に違いないと誉めたくなります。

台湾本土派の連中を玩弄し、台湾国家の志を萎えさせて中華民国体制支持に転向させた、さらに中華民国憲法、中華民国国旗、中華民国国歌の守護者に変貌させるに大成功したのも高明な政治力の持ち主の証であります。台湾国の希望が陳水扁に壊され、そうしてその片鱗とかけらが彼に一掃されそうとなったと言えなくもありません。台湾の諺ある、「一両博千金」の具現であると脱帽したくなります。

影から上手に人権団体、能天気な本土派を操作し、「中華民国国民の期待に応える」のよう台湾軍を骨抜きし、軍の形骸化を着々と進めています。つわものの軍部をしっかりと押させ、中国の意向を押し付けることに成功できたのも、見事な政治操作だと素直に認めざるを得ません。

台湾の民主政治の崩壊とか、人権の落日とか、経済の失速とか、貧富の格差拡大とか、国土の荒廃とか、軍事の無力化とか、と馬英九総統の統治者としての無能さの左証が羅列されていますが、しかし私は、馬英九は無能でなく、彼はただ自分の信念に忠実であり、ひたすら自分の目標である「統一中華」に邁進しているだけではないかと思います。統一の道に横たわれている民主、自由、人権、経済など、は眼中に無いというよりも、障害物として破壊・排除すべきものと思っているに違いありません。

台湾国をさっさと捨て、中華民国体制を継承して守るに転じた本土派は、果たして自分が嘲笑している馬英九より政治力を持っているのでしょうか、と疑念を持たざるをないのです。自分たちを掌の中に玩弄している敵を見下してはいけないのだ、と本土派に釈迦に説法したくなります。

多くの反体制の台湾人民主闘士が血を流し、60年間奮闘して勝ち取った台湾の自由、民主、人権の成果を馬英九がたった6年の施政で悉く破壊尽くしそうにできたことを思うと、馬英九はただものではなく、大変有能な中国人であることを雄弁しています。


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