1.はじめに
台湾も現在、観光客誘致に力を入れています。それは蔡英文政権発足に対する中国の報復(?)、中国からの観光客激減に対する対策ではなく、かなり以前から努力していることです。
8月中旬、新聞を見ていましたら、劉克襄さんという作家が書かれた「問路店から借問站へ」というエッセーが目に留まりました。
今回は観光客誘致の秘策について報告いたします。
2.「問路店」から「借問站」へ
劉克襄さんのエッセーのタイトルは上記のとおりですが、「問路店」は道案内と訳してよいと思いますが、「借問站」は如何訳しましょうか。「借問」は「ちょっとお尋ねいたしますが・・・・」という日常語のようです。「站」は駅とかサービス施設という意味です。インターネットで調べましたら、「借問站」は「まちかど観光案内所」と訳されていました。ナルホド。
「借問站」は台湾の交通部観光局が海外からの観光客向けに設置したもので、2015年9月現在115カ所に設けられているといいます。
3.問路店
劉克襄さんは「昨年(2015年)末、観光局が各地に『借問站』を設け、便利なサービスを提供し始めたが、それを見ると6年前を思い出す」と述べ、この6年前にスタートした台南の「問路店」サービスを紹介しています。
当時、台南には200軒以上の商店が緑の下地に「i」の白文字の看板を掲げた。コンビニ、土産物店、小吃店(台南名物の軽食を提供する店)などサービスに携わる店々が看板を掛けることを申請し、観光客が訪ねて来ることを歓迎した。
「問路店」のアイディアは、観光客が便利になっただけでなく、看板を掲げた店にもまた利益をもたらしている。訪れる人が多くなり、ついでに買い物をしてくれるので、業者の商売は知らぬ間に増大する。問路店は、その後、道案内サービスを提供するだけでなく、市政府の指導の下に、さらに基礎的な解説訓練を受け、その土地の歴史や交通などの情報を深く知ることになる。ひいてはその土地の経験に基づいて個人の私邸を観光スポットとして分かち合う。あるいは手慣れた人が地図を持ち、観光客を親切に導き環境を解説することは、間違いなく「問路店」のもっとも素晴らしい情景である。今のところ「問路店」は400店をこえるまでに増加したことから、「問路店」は受け入れられているといえます。
4.借問站
最新の情報としては、先週の土曜日(9月17日)の新聞「自由時報」に「台北の観光案内所(旅遊借問站)が12カ所に拡大」という記事がありました。
「道がわからない時はどうしますか?あるいは観光スポットへどうやって行きますか?」そんな時、このお店に「一寸お尋ねください」!
台北市の観光伝播局と著名な観光スポット、主要な商圏の店が共同して12カ所の「借問站」を設立し、観光客に「その土地の観光情報」「散歩地図」「Wi-Fiスポット」などのサービスを提供します。「ちょっとお尋ねいたします、2016 通(つう)は誰か?」という運動を展開しますので、どうぞ皆様ご参加ください、そして「小礼物」(ささやかな贈り物)をゲットしましょう。
市の観光科長王施佳さんは、「各々の借問站は入口に黄色の地に黒色文字の円形の標識を設け、観光客に分かり易いようにしてあり、その土地の観光情報サービスを提供するので、台湾を訪れた観光客がもし判らないことがあればどんなことでも良いから、借問站を訪ねてほしい」と述べています。
5.作家の劉克襄さんは・・・・・
公共機関が観光客に対するサービス施設を設置し、政府のきめ細かい心遣いは当然肯定するに値するが、それは所詮専門の観光サービスセンターではないので、やがて一部の店は形式的なものにならざるを得ない。私は何軒かの店を訪ねてみたが、バスの交通状況について何時も十分な回答を得ることが難しかったし、あるいはまた簡単な英語すらはっきり示されなかった。「問路店」が伸ばすはずの国際サービスは値引かざるを得ず、新しい従業員の訓練が間に合わず、何を聞いても知らない、の一点張りで、観光客が期待する答えを容易に得られない事もある。
しかし、名もない店で素晴らしいものもある。台南の土溝村に一軒のコンビニ「大蘋果(リンゴ)」があり、黒砂糖冰と碗kuei(小吃の一種)を売っている。この店のニックネームは土溝村のセブンイレブンと呼ばれ、大きなリンゴをイメージした標識がある。ここは観光客が必ず訪れる場所で、コンビニもまたその景色となっている。この店の大きなお椀のかき氷あるいは香しい米の味に満ちた碗kueiは全てそこを通り過ぎる人が必ず食する小吃である。「大蘋果」自体はまたフェースブックで、折につけ土溝村の各種の情報、店内の多くの面白い催し、季節ごとの景観等々を更新し、「問路」の素晴らしさを更に発揮している。店のおかみさんの親切はさらに都会人の熱情に勝っている。多くの人々が道を尋ね、あわただしく去来し、店内の飾りつけを見、お椀かき氷あるいは碗kueiを食べていく。
世の中には面白い標語があり、あるところでは「不買東西,也可以問南北(物を買わなくてもモノは尋ねていいよ)」というのがあった。「東西」は北京語で「物」の意、「南北」は東西に引っ掛けた言葉で、方角も表している。この種のユーモアあふれるもの、あるいは友好的な創意ある看板は観光客の注意をひきつけ、郷里を宣伝する素晴らしい手法である。
観光は重要なサービス産業であり、看板を付けない店は自らの特色を生かし、魅力を遠くへ伝えようとしている。しかし、看板を掲げればより人の目を引き、人から信頼される。「借問站」と「問路店」は共に持続的に推進する必要がある。
そして劉克襄さんは最後に次のように締めくくります。
当然両店が統一して運用され、屋上屋を重ねることを避け、台湾式の観光情熱を十分発揮されることを願うものである。それぞれの小さなお店が風景となり、違った角度の台湾を表すのである。
6.一見(いちげん)さんとリピータ
日本語に「一見(いちげん)」という言葉があり、初めて会うこと、特に旅館や料理店などの客がなじみでなく、初めてであることを指し、「一見さんはお断り」などと使います。対語は「リピーター」あるいは「おなじみさん」です。
観光客相手の「問路店」「借問站」はどうしても一見さんが主たる対象になるでしょう。一見さんにコスト(訓練や準備)をかけて、心を込めてサービスしてもリピータになるはずはなく、無駄ではないかとの考えがよぎります。マーケティングでは如何にしてリピータを増やすかに心を砕きます。だから顧客にカードをもたせ、ポイントを与えたりします。しかし、考えればリピータ(その周辺に住む人々)はもともと周辺の情報を持っているわけで、「問路店」「借問站」の対象ではない。
台湾が試みている「問路店」「借問站」はそんな「ケチな」考えではない。
新しい土地へ何かを求めて出かける観光客は大いなる期待と同時に聊かの不安を抱いていると考えられます。不案内の土地で、何か困った時「すみません、ちょっとお尋ねいたします」といってに気軽に物が訪ねられたらどんなに心強いことでしょうか。
昔、家族を連れて台湾の高雄で道に迷ったことがある。薄暗い路地で、若い女性に出合ったが、先方が怖がるであろうと思い、道を尋ねることを躊躇したことを思い出します。幸い、彼女は親切に、恐らく遠回りであろうに、駅まで案内してくれました。もし、当時「問路店」「借問站」があれば、真っ先にそこを訪ねたことでしょう。
7.おわりに
「一見さんお断り」なんて言う小さな根性では、大きな商いはできないのではないか?国ぐるみで、「ちょっとお尋ねいたします」を気安く発せられる環境が作れたら、またその地へ行きたくなるでしょうね。
実は私はまだ台湾の「問路店」「借問站」を訪ねていませんが、近い中に訪ねてみたいと思います。