【主張】台湾を紹介する人にもう一度考えてほしい台湾の言語事情

「台湾の声」【主張】台湾を紹介する人にもう一度考えてほしい台湾の言語事情

多田恵 2020.8.31

 先ほど、『台湾の声』で、“KAKEIの『Taiwan・ビジネス』”というYoutubeチャンネルから、「屋台から75店舗の企業へ
“ひげ張”台湾ルーローハン」という動画が紹介された。

 残念なのは台湾人二世で台湾語が得意なはずのKAKEI君が、台湾料理をもっぱら、中国語の読み「ルーローハン」で紹介しているらしいことである。

 台湾にとって中国語というのは、戦後、日本語に取って代わった支配者の言語である。そして、その支配者である「国民政府」は、台湾を接収しただけで、正式に領土とはしなかった。なおかつ今や、中国の代表とはされていない政府となった。

 さらに、その体制を継承している現段階にあっても、2019年1月9日に公布された「国家言語発展法」により、台湾語も「国家言語」として平等な地位を持つとされるようになったのだ。

 中華民国体制をよしとしない台湾独立派には、中国語への依存を断ち切り、中国語以外の台湾の言語を振興すべきことに賛成する者が多い。

 もちろん、コアな台湾独立派でもない、多くの一般の人々にとって、長く唯一の「正しい」言語とされた中国語への依存を断ち切るのは、難しい面もあろう。しかし、それくらいできなければ、中国に妨害・吸収され、中国とは別の一つの国家としてやっていくことも難しいのではないか。

 この料理の本来の名前は台湾語で「ローバープン」である。

 同社の日本に出店した店舗の公式ウェブサイトによれば、その表記は「鬍鬚張魯肉飯」。

 「魯」を中国語の辞書で引けば、固有名詞に使われるほかは、「愚鈍である」「粗雑である」ことを表すとされている。

 しかし、この料理が「ローバープン」と呼ばれているのは、台湾語の「ロー」には「肉類などに醤油を混ぜてぐつぐつと長く煮る」という意味があるからである(台湾総督府『台日大辞典』昭和6年)。

 肉を醤油で煮込んだ飯という台湾語でのネーミングなのだ。「愚鈍」や「粗雑」とは全く関係がない。つまり、中国語で名付けられたものではないのだ。

 ところで、日本では、「ローバープン」という表記は知られていないと言えるのだろうか。レシピを集めたサイトとして有名な「クックパッド」でも「魯肉飯(ローバープン)」という記事が掲載されている。ウィキペディア英語版では「Minced
pork rice (or lo bah png)」として、台湾語の名(lo bah
png)が紹介されている。同日本語版では、本文中には台湾語の読みは示されず、「発音」の欄に、併記されている。同中国語版では、台湾語の読みのみが示されている。

 つまり、私たちは、この料理を紹介する際に、台湾語で「ローバープン」と紹介することもできるのだ。それなのに中国語の読みを使用することは、日本社会の台湾への理解に際し、「台湾は中国語なんだ」、「台湾の人は中華民国体制を受け入れているんだ」、「台湾の人も台湾語を重視していないんだ」という誤解・偏見を与えたり、強化してしまうことにならないだろうか。

 確かに、鬍鬚張魯肉飯のホームページでは、その読みとして「ひげちょうるうろうはん」と表記している。ビジネスマンにとっては、商売と関係のないところで中国人の反感を買うよりは「現状維持」を望むであろう。しかし、台湾人が、それをあらためて紹介する際に、台湾語の存在にひとことも言及しないのであれば、自らの文化を裏切ることになるのではないか。

 最初から最後まで台湾語で紹介することに自信がなかったとしても、ひとこと、「本当はローバープンというんですが」と付け加えるだけでも、ずいぶん違ってくるのだ。

 また、日本は漢字文化圏であるのだから、文字での表記としては、中国語の読みを示すより、漢字で表記したままにしても良いのだ。

 同様な問題は料理の名前に止まらない。日本で「台北」をどのように紹介すべきか。日本語は「たいほく」。台湾語は「タイパッ(ク)」。中国語は「タイペイ」。

 日本が租借していた「大連」を、今の日本でも、中国語の「ターリエン」ではなく、「だいれん」と呼んでいるのではないか。もし、「タイパッ(ク)」と呼ぶ勇気がないのであれば、日本語で「たいほく」でも良いはずだ。台湾語でも日本語でもなく中国語で「タイペイ」と呼ぶことは、中国国民党および中国共産党を利する行為である。

 台湾のビジネスとともに台湾文化を紹介するのは素晴らしいことである。

 今どき、郊外の道路沿いには偽物台湾料理屋がたくさん現れている。料理に台湾語で読みを表記するかどうかというのも、本物の台湾料理屋であるか、あるいは台湾へのリスペクトを持った店であるということを示す手段の一つとなるだろう。

 台湾のことを紹介する人々にとって、台湾が中国の一部であるかのような宣伝に加担するのは本意ではないはずだ。中華民国体制によって瀕死の状態に追い詰められている台湾語をはじめ、台湾の諸言語の復興のためにも、ひと工夫、もしくは、ちょっとした配慮をいただきたいものである。


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