宮崎正弘の国際ニュース・早読みより転載
ベトナムの反中暴動、最悪の被害者は台湾企業だった
暴徒はなぜ台湾企業を中国企業と間違えたか?
5月12日からベトナム全土で広がった反中国抗議行動、63県のうち22地区で一斉にデモ行進、抗議集会が開催され、一部が暴徒化。工業団地を襲い、中国企業工場に放火、暴力沙汰に発展した。
とくにハノイから南へ300キロにある台湾企業「台湾プラスチック」の工場が襲われて一名が死亡(『環球時報』は二名死亡と報道.NHKも)、90名から149名が負傷した。同社はベトナムにおける外国企業最大の投資規模を誇る。
台湾政府はただちにベトナムに抗議し、負傷者の治療補償、工場の修理補填を要求した。これは1993年に結ばれた台湾ベトナム投資協定に基づき、万一の暴動などの被害の場合、ベトナムが補償する内容となっている。
台湾企業の多くはすでに中国大陸から撤退しており、最大の移転先はベトナムである。繊維、アパレル、靴、加工食品、農水産加工、プラスチック、家具などが主な産業分野である。
台湾は与野党あげて、ベトナムへの抗議ならびに現地の安全確保の方策を馬政権に要求した。また当局は「わたしは台湾人です」とベトナム語で書かれたステッカーを二万枚印刷しベトナム駐在の台湾人におくることを決めた。台湾にとってベトナムはアセアン諸国の中で最大の投資先である。
それにしても何故、ベトナム人の抗議デモが中国企業と台湾企業を間違えたのか?
筆者は2013年にホーチミン郊外の工業団地に台湾企業を訪問したときに目撃した或る情景を思い出した。
それは工場見学のおり、機械設備の要所に「気をつけろ」「注意を怠るな」などの訓辞、注意事項が張り紙されていたが、なんと繁体字ではなく簡体字だった。「どうして中国の省略文字を使用しているのか?」と問うと、工場長は「ベトナムで調達したコンピュータには簡体字しか入っていないからですよ」と気にもしていない風情だったのだ。「どうせベトナム人には読めませんから」。
そのことが仇になった?
▲ベトナムから大脱出をはかる中国人
他方、中国は死者がでたことに関して外交部がベトナム側に厳重に抗議した。ベトナムからは中国人らがカンボジア国境へ大量に逃げ出した。
カンボジアとの国境ゲートも粗末な入国管理オフィスがあって、パスポートの小銭を挟まないとベトナム側は円滑に通過させてくれないほど末端の官吏たちも腐敗している。強く抗議したが埒があかず、三十分ほど待たされたことも思い出した。
中国外交部のスポークスウーマン華春栄は「ベトナムで過激な事態に遭遇する可能性がある」と旅行者に警告したとも発言した。
同時にベトナムと国境を接する広西チワンン自治区には中国人民解放軍のあわただしい動きがみられ、中国軍には「第三級戦闘準備」態勢が取られていることが確認された。これは下位の危機レベルで、「休暇中の兵士は帰還し、随時戦争準備ができる態勢とせよ」というレベルだが、一触即発の危険性はある。