2014.5.9 産経新聞
昭和6(1931)年夏の甲子園大会(第17回全国中等学校優勝野球大会)へ当時日本の統治下にあった台湾から初出場し、準優勝を遂げた嘉(か)義(ぎ)農(のう)林(りん)(かぎのうりん)の日本人監督と選手の絆を描いた台湾映画「KANO」が現地で大ヒットしている。統治時代を知らない若者世代からも熱狂的な支持を受けており、来年の日本公開も正式に決まった。(三浦馨)
「KANO」は愛媛出身の近藤兵(ひょう)太(た)郎(ろう)(ひょうたろう)監督(昭和41年没)が日本人と台湾人(漢民族)、先住民が入り交じるチームをひとつにまとめ上げ、夢の甲子園出場を果たした史実に基づく作品。映画では永瀬正敏が近藤監督を演じた。
「近藤監督は人種ではなく、人材を選んで野球を教えた。そこに差別はなく、今の台湾の人々が知るべき物語だと思った」と魏(ウェイ)徳(ダー)聖(ション)(ウェイダーション)プロデューサー。リアリティーを重視し、戦前の甲子園球場を高雄市内へセットを組んで再現した。現地で2月末から公開されたが、「勇気をもらった」「胸を打たれた」と反応は上々。4月中旬までに興業収入が3億台湾ドル(約10億円)を突破するヒットとなっている。
一方、親中国系の一部大手紙は「日本による統治時代を美化している」といった批判的な論評や記事も掲載。魏プロデューサーは「統治時代も台湾の歴史。永遠に否定するのでなく、過去を知ったうえで未来へ進むべきだ」との持論を展開している。
「KANO」は3月から4月にかけて中国との「サービス貿易協定」承認に反対する学生らが占拠した立法院(国会に相当)の議場でも特別上映された。「どんな壁にもくじけず、道を切り開こうと自分たちを鼓舞してくれる作品」と上映を臨む声が学生の間で高まり、映画制作会社のスタッフが応えたという。
作品は日本でも来年1月、ショウゲート配給で全国公開される予定。