【産経正論】世評と異なるインフラ銀の不安

【産経正論】世評と異なるインフラ銀の不安
【産経正論】世評と異なるインフラ銀の不安

産経新聞2015.4.22
 

          双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦

 中国主導で設立を目指しているアジアインフラ投資銀行(AIIB)で、創設メンバー国が57カ国で確定した。3月に英国が参加を表明してから、独仏伊など先進7カ国(G7)の後追いが続き、今や日米を除く多くの主要国が参加を決めている。

 これに対し「日本外交の失敗」という評価や、「中国を孤立させるつもりが、日米が孤立している」などと批判する声がある。だが本当にそうだろうか。国際金融や開発・援助の世界の常識から考えると、世評とはまったく違った景色が浮かび上がってくる。

 ◆公明正大な日本の開発・援助

 まず、国際開発金融の世界において、中国はカネを借りている側である。世界銀行では第3位、アジア開発銀行(ADB)では第2位の支援対象国である。

 ところが中国は、既に世界第2位の経済大国であって、経済力に見合った発言権を求めている。また習近平国家主席は、「中国の発展の恩恵を周辺国、さらには世界に共有してもらう」とも言っている。ちょっと上から目線なのが気になるが、膨大なアジアのインフラ需要に貢献してもらえるなら結構な話である。4兆ドル近い外貨準備の有効活用にもつながる。

 かつてはわが国も、新幹線や黒部ダムの資金を世銀から借りていた。それらを返済しながら、1966年にADBの設立に貢献した。日本は筆頭株主になり、歴代総裁を送り込んできたが、だからといってその立場を都合よく利用したわけではない。むしろ敗戦国として、突出しないように注意を払ってきた。本部をマニラに置いたのもその表れである。

 ADBでは全加盟国67カ国・地域の意見をバランスよく取り入れて、透明性の高い運営を行ってきた。環境社会配慮なども厳格に行ってきた。おかげで「使い勝手が悪い」と言われることもある。AIIBは、そこを「お手軽モード」にするといわれている。

 ちなみに筆者は商社業界の禄を食(は)んで久しいが、日本の商社がADBで商売を取ったという話を聞いたことがない。それくらい日本の開発・援助に対する姿勢は公明正大で、狭い意味での「国益」を追求するものではなかった。

 ◆どの程度の信認が得られるか

 AIIBが目指しているのは、こうした既存の国際秩序に対する一種の挑戦である。これから創設メンバー国で、6月末に向けて定款を作るという。立派な国際金融機関になるのか、それとも中国自身を利する道具となるのかは、現時点ではわからない。が、AIIBが国際標準にのっとった「お行儀の善い」銀行になるのだとしたら、中国としては当初の思惑が外れたことになるだろう。

 つまり、開発・援助に対する姿勢が日中ではまるで違っている。今までの方針を簡単に変更していいのだろうか。これがAIIBに日本が飛びつくべきではない道義的な理由である。

 次に、慎重になるべき現実的な理由について述べよう。国際開発金融機関は、参加各国から集めた金をそのまま貸し付けるわけではない。起債して資金を調達し、レバレッジを利かせることで効率を上げる。世銀やADBなどの機関は、おしなべて「AAA」(トリプルエー)の格付けを有している。それだけ市場から高い信認を得ているということだ。

 これに対し、新設のAIIBの格付けがどの程度になるかは分からない。が、約半分を中国が拠出するのだとしたら、常識的に考えて中国のソブリン格付けと同程度になるのであろう。つまり資金調達コストにおいて、ADBなどに対して劣後することになる。

 ◆行き先不明のバスに乗るな

 おそらく中国は、日本やアメリカがAIIBへ参加することを切望していよう。その方が、格付けが向上するからだ。しかし日本政府として、かかる「お付き合い」に巨額の税金を投入するのはいかがなものか。ちなみに初期の出資額は15億ドルと試算されている。

 本件に対し、日米がともに慎重姿勢を示しているのはある意味で自然なことである。日米はともにアジア太平洋地域の大国であり、なおかつブレトンウッズ体制を守ってきた。これに対し、インドや東南アジア諸国は資金を借りる側であるし、欧州諸国は出資比率も少ない「お気楽」な立場である。同列に論じられるものではない。

 最後に、日本が遅れてAIIBに参加する可能性はゼロではない。筆者は4月初旬、自民党の「AIIB勉強会」の講師を務めたが、ここでは安倍晋三首相の指示に基づいて党としての方針を論議している。5月中には提言がまとまり、6月上旬には日中財務対話が予定されているので「滑り込み」のシナリオは残されている。

 仮に4月末の日米首脳会談において、「日米共同でのAIIB参加」という合意ができるようなら、それはそれで一考の余地があろう。

 とはいえ、「バスに乗り遅れるな」は論外である。筆者には、いかにも変な所へ連れて行かれそうなバスに見えるのだが。(よしざき たつひこ)

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