【浅野和生】台湾の国際生存空間を狭め人材吸引を目指す中国(4)

【浅野和生】台湾の国際生存空間を狭め人材吸引を目指す中国(4)
 -「東アジアユースゲームズ」台中市開催中止が示すもの―

『インテリジェンスレポート』9月号より転載

平成国際大学教授 浅野和生

中国による「東アジアユースゲームズ」の台中市開催阻止

 7月25日の読売新聞は、「台湾の国際大会中止」と題する200字余りの小さな記事を掲載した。それは24日、台湾の五輪委員会が、2019年に台中市で開催予定だった国際スポーツ大会が中止になったと発表したという小さな記事である。
 実は、ここで中止が決まった「東アジアユースゲームズ」は、アジアオリンピック委員会の地域部門として、1993年上海、97年釜山、2001年大阪、05年澳門、09年香港、13年天津で開催されてきた「東アジア競技大会」の後継となる国際大会のことである。「2001年、大阪で開催された『東アジア競技大会』では、高円宮様の開会宣言から15競技、201種目が実施され、日本人選手約380人、総勢3000人という大規模な国際スポーツ大会であった。次は2017年の予定だったが開催されず、代わりに「東アジアユースゲームズ」として、18歳以下の選手による新たな大会として再開され、第一回が2019年に台湾の台中市で開催することが2014年に決まっていた。
 参加国および地域は、中国、香港、澳門、日本、韓国、北朝鮮、モンゴルと台湾、そしてグアムである。このうち、グアムは委員会の議決権を持っていない。
 報道によれば、北京で開かれた臨時の東アジアオリンピック委員会において、中国籍の主席・劉鵬が、2020年の東京オリンピックに「チャイニーズタイペイ」の代わりに「台湾」の名義での参加を求める「公民投票」の手続きが台湾で進められており、「大会が政治リスクに直面している」として中止を提案したという。この提案が多数決に付され、主席を含む7人の賛成で中止が決定した。これに反対したのは台湾だけ、日本は棄権した。日本は、このような決定を直ちに行うことは不適切とし、日を改めて再議すべきだと主張したので、事実上の反対である。香港、澳門が中国に同調したのはともかく、北朝鮮もモンゴルも、そして韓国も賛成した。
 ところで、台湾の「公民投票」は、日本で「住民投票」と表現されるが、実は「国民投票」である。この投票の発議には1900名弱の署名が必要で、その署名を添えて中央選管に投票趣旨を提出すると、投票の適格性が審査される。この関門を通過すると第二段階の署名集めとなり6か月以内に28万人余りの署名を集めると「公民投票」実施となる。この時点から1か月以後6か月以内に「公民投票」が行われ、投票者の過半数が賛成し、なおかつ賛成票が有権者総数の4分の1を超えていれば可決となる。
 今回、「台湾」名義での東京オリンピック参加を提起したのは、1960年ローマ、64年東京、68年メキシコの3回のオリンピックに「台湾」名義で参加した紀政という女性である。4488人の署名を添えて中央選管に提出された同案は3月24日の審査を通過し、第二段階署名に入っていたところで、中国が「東アジアユースゲームズ」開催阻止の挙に出た。
 開催を決めた2014年当時、台湾の総統は対中宥和策を進めた国民党の馬英九であり、台中市長も国民党の胡志強であった。だから台中市での大会開催は中国の台湾宥和策だろう。しかし2019年の大会では、総統は民進党の蔡英文で、台中市長も民進党の林佳龍かもしれない。それでは大会が世界に「台湾」をアピールする機会になるから阻止しよう、というのが中国の意図だろうか。
 しかし、上記の「公民投票」提起は政府の意志と無関係である。一部住民が民意の表明を求めたに過ぎないが、それでも中国は、台湾が国際社会に「台湾」として存在するアピールに対して強権発動で応じたのである。実は大会開催のため台中市は、会場整備に6億7672万元(約26億円)を投じており、広報のための映像の制作もすでに終わっていた。
 また、この8月4日からパリで同性愛者の国際スポーツ大会(ゲイ・ゲームズ)が開かれる。1982年のサンフランシスコ以来4年に1度開催されており、今年は参加者が1万人超の予定である。台湾から25人、中国からは初めて69人の選手が参加する。これは公式の国際スポーツ団体とは無関係であり、台湾の参加者は「台湾」名での参加を期していたが、中国の意向で「中華台北」に変えられたという。性的少数者の自由のためのスポーツ大会でも、中国は「台湾」アピールを許さないのである。
 今や、中国は、政府の意思表示ではなく、一部民間人の意見表明であっても、台湾が「台湾」として国際社会に存在をアピールしようとすることを拒否し、押しつぶすことを辞さないのである。また、東アジアでは、日本を除いて、韓国を含む他の国々は大中華の意向に従うのみである。

蔡英文政権の台湾

 国際政治、経済、スポーツの分野において、中国は台湾の国際生存空間を狭めようとし、台湾を「一つの中国」、実は中華人民共和国の一地方扱いに貶めようとしている。習近平政権の狙いは、台湾の中国への吸収であり、香港と同様の「一国二制度」に台湾を取り込むことである。しかし、台湾の多数派住民は、台湾が台湾として存続することを求めている。
台湾併合を進めようとする中国と対抗する、台湾の蔡英文政権の施策は、台湾の優秀な人々が台湾に根を張って活躍し、台湾の国際競争力を維持し、台湾の人々の生活を向上させるように支援することである。中国が、台湾の人材、技術、資金を吸収しようとすれば、中国を上回るインセンティブを提示しようとするだけである。ただその根底には、自由、民主、法治の価値と、台湾人への信頼がある。
しかし中国からの軍事的圧力に対抗して台湾の存続を図るには、安全保障上の措置も必要である。このため蔡英文総統は国防の国産化を進める一方で、アメリカとの関係強化を図っている。周知の通り、トランプ政権のアメリカは、2018年リムパックから中国軍を排除するとともに、台湾旅行法で米台高官の相互訪問に法的根拠を与えた。また、2018年、2019年国防授権法では、米軍艦船の台湾寄港を認め、米軍主催の多国間軍事演習に台湾軍を招待できることとしている。こうした安全保障上の米台関係の緊密化は、高まる中国からの台湾併合の圧力に台湾が抵抗する力となるだろう。
蔡英文総統に、対中関係打開の妙案は見られないが、オーソドックスな措置が積み重ねられている。


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