【日中首脳会談】何を得て何を失ったのか

【日中首脳会談】何を得て何を失ったのか
【日中首脳会談】何を得て何を失ったのか

「ヴェクトル21」12月号より転載
  

           鈴木 上方人(すずき かみほうじん) 中国問題研究家

●習近平の態度

 「日本の安倍晋三首相はカメラの前で学童のように立たされて習氏との握手を待つ」と英紙フィナンシャル・タイムズが日中首脳会談直前の安倍首相の様子を記している。

日本人なら誰もがこのような無礼なシーンを目にしたくないが、習近平の安倍首相に対するこの傲慢な態度は、きらびやかな「北京エイペック」の中で唯一、装飾のないものと言えるだろう。これは習近平の日本に屈辱を味わわせてやろうという、いじめっ子のような幼稚な心理から出た彼の本心の現れだからだ。

●ポーズだと決めつける日本の評論家

 案の定、外務省に近い日本の評論家は、この無礼な態度を中国の反日勢力を宥めるためのポーズだと解説して習近平をかばっている。首脳会談に泥を被らせたくない気持ちは分かるが、このような解説は、日本の外交評論家が中国外交をまったく理解していない証左となるのだ。

ポーズとは、本心からの姿勢ではなく、誰かを騙すための演出ということである。勿論、こういう場合は、騙そうとする相手に本心だと思わせ、演出であることを気づかせないようにしなければ効果がない。今回の習近平の場合も然りだ。

そうであるならば、日本の評論家はそれがポーズだと分るけれども、バカな中国人はそれを見抜けないということになる。もしくは、中国人はそれが習近平のポーズだと見抜いているのだが、そのポーズだけで満足していることになる。つまり、中国の反日勢力というのは簡単に騙せる存在であり、簡単に満足するかのようなナイーブな存在ということである。そんな御しやすい存在にポーズをしなければいけないのだろうか。習近平はこうした幼稚な勢力に恐れなければならないほどに権力基盤が脆弱なのであろうか。

●習近平一派こそが最大の反日勢力

 そもそも中国最大の反日勢力とは習近平一派なのだ。習近平は9月3日を「抗日勝利記念日」に、9月30日を「烈士記念日」に、12月13日を「南京虐殺犠牲者追悼記念日」にと次々に国家記念日を定め、反日を国是とした張本人である。

反日意識の強い習近平が傲慢な態度で日本に接するのは今回が初めてのことではない。副主席時代に習近平は一か月ルールを無視して強引に天皇陛下を謁見し、その謁見を利用して自分の存在感を国内外アピールした。無論この外交礼儀を無視する粗野な振る舞いは国際社会に波紋を呼んだが、彼はまったく意に介さなかった。今回の首脳会談もその延長線上であり、日本に恥をかかせること自体が習近平の目的なのであろう。

●「前提条件なし」との堅持は?

 そこまでの屈辱を受けて実現した首脳会談だが、日本には一体何が得られたのか。残念ながら得られたものは、首脳会談が実現したという事実それだけである。会談は日本政府の求めに応じて実現したものだと中国のマスコミは一斉に報じているが、2014年11月18日付けの日本経済新聞の記事によると、会談を求めたのは安倍首相ではなく習近平であった。習近平が「APEC成功」のために安倍首相との首脳会談を求めたという。

それが事実であるならば、日本は今まで明言してきた「前提条件なしの首脳会談」を堅持すべきではなかろうか。だが現実には、日中首脳会談には四つの基本合意、という前提条件を中国側が付け、日本側はそれを飲んだ形だ。

●「四つの基本合意」は必要だったのか

 中国政府は日本政府の言う「四つの基本合意」を「四点原則共識」(四つの原則とコンセンサス)と言い変えて、「合意」以上の重みを持たせている。中国はこれを日中外交の「原則」にし、「靖国」「尖閣」で日本を縛りたいという魂胆なのだ。合意文書には第二項と第三項に以下のように記してあり、そのことが見て取れる。

「双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」

「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」

日本の識者の多くは「政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」は靖国神社を参拝しないという約束ではないとし、「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」も領土に関する争議を認めたわけではないと強調している。

ある外務省出身の評論家は、この場合の合意とは、「agree to disagree」(意見の相違が存在することに合意した)に過ぎず、領土問題の存在を認めたわけではないと「四つの基本合意」を評価している。

●新たな足かせになりかねない

 しかし、これは国民を愚弄する詭弁でしかない。この合意文書によって何ら外交的見解が変わらないのであれば、そもそもこの文書自体に必要性がないのではないだろうか。中国が執拗に合意文書を要求するのは、この合意文書で新たな状況を作り、それを根拠に外交カードにすることだ。実際、人民日報や環球時報などの中国の官製言論は勝利宣言をし、「安倍は靖国に行けなくなった」「日本が領土問題の存在を認めた」と国内外に宣伝をしている。

外務省はこのような玉虫色の外交文書を自画自賛しているが、当事者双方にそれぞれに違う解釈の隙を与えるこの文書は、後世にも禍根を残す大失敗としか言いようがない。実際、中国を相手に長年交渉してきた外務省にはこの手の失敗は山ほどある。ゆえに、今回の日中合意も大きな失敗作であると言わざるを得ない。

●行動で示せ

 もしもこれから安倍首相が靖国神社に参拝をしなくなり、尖閣諸島に対し領土保全をもせず、今までのように放置をすれば、「四つの基本合意」は中国の宣伝通りに日本を縛る効力のある外交文書になる。日本がそうではないと主張するためには、安倍首相の靖国神社参拝が絶対不可欠であろう。更に、日本政府は尖閣諸島に自衛隊を駐屯させるなどの領土保全の措置とらなければならない。そうすることで日本は「四つの基本合意」に関する日本の見解を自ら行動で示すことになる。

残念ながら今までの対中国外交の図式を見ると、日本政府は恐らくこのようにしないと悲観的にならざるを得ない。そうなると、日本は一時的な進展を得たのだが、取り返しのつかない禍根を残してしまうだろう。

今回の首脳会談はオバマ政権からの圧力があったという観測もあるが、それが事実なのであれば、日本はそれを逆手にとって「尖閣諸島の統治権だけでなく、主権も日本に帰属する」とオバマに北京エイペックで公言させることこそが本物の外交ではないか。

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